第51話 サクヤのともだち、ゼリーを食べる。
「えっと…、その子は…サクヤのお友達?」
突如として現れたサクヤが連れて来たと思われる少女。サクヤと同じように身長は30センチにも満たない所から同じく精霊かと思われる。
僕の言葉にサクヤはきょとんとした表情になり、何やら思案を開始する。どうやら友達という訳では無さそうなのだが、手をつないで一緒に現れた事から全くの見ず知らずという訳でもないだろう。
…いや、必ずしもそうだろうか?もしかするとサクヤとこの子は初対面で、この子がフルーツゼリーを食べたそうにしているのを見て連れて来たのかも知れない。
先程考えた『積極的な女の子と、その子が手を引っ張って連れて来たクラスメイト』みたいな関係なのかも…。そう思うと小学校にもそんな感じの女子がいたっけなと懐かしい気持ちにもなる。
でも今は朝食の時間だ。サクヤとこの新たに現れた精霊の子にしても『お預け』状態にしておくのは可哀想だ。
「サクヤ、そちらの子もとりあえず朝食にしようか?一緒の物で良いかな、このお皿の」
そう言って二人を見ると手をつないだままウンウンとうなずいた。それを見て僕は先割れスプーンを使ってぶどう果肉入りゼリーを突き崩してサクヤが両手で抱えて食べられる大きさにした。
それをスプーンで掬ってサクヤに渡し、続いてもう一人の子にも手渡す。その間にもサクヤは持ち前の好奇心でゼリーの感触が気になるのか興味深そうに色々な角度からしげしげと見つめている。時に頬をゼリーに当ててその感触を楽しんでいる。これはアレだ、きっと両手がフリーだったらツンツンと指先で突っついているな。
一方でサクヤが連れて来た子は大人しくゼリーを手に持ち、ジッとしている。僕が見ている視線に気付いたのか彼女は恥ずかしそうに身をすくめる。しかし、上目遣いでこちらを見つめている。うーん、これはアレだな、完全に年上キラーだな。年下好きとか、ロ○コンの男だったらこれだけで興味がそそられるんだろうな…。
同じ精霊(かどうかは分からないが)でも色々と違うもんなんだなあ…。だが、それよりも…。
「あまり待たせても悪いし…じゃあ二人共、召し上がれ。まだこのお皿に残っているからお腹いっぱい食べると良いよ」
そう言ったのが合図になったかのように同時に二人が食べ始めた。やはりというかサクヤは『おいしー!!』と叫ぶかのようにら喜色満面、喜びを顔いっぱい口いっぱいに表現している。
一方でサクヤが連れて来た少女は、両手でゼリーを持っているのは同じだが『もぐ…、もぐ』と大人しく食べている。そして僕が『どう、美味しい?』と尋いてみると小さくうなずいて『にこ…』と静かに微笑む。大人しい微笑みだけど、喜んで食べているのは何となく分かる。良かった、気に入ってくれたようだ。
二人の様子を見比べてみるとその対比はなかなかに興味深い。『にぱー』と太陽のような笑顔で喜びを表すサクヤ、反対に『にこ…』と月のように静かに微笑む謎の少女。
まるで正反対の二人だが二人仲良くぶどうゼリーを食べている、二人が美味しそうに食べている姿から、別にその関係が友達でも初対面でもなんでも良いと思えた。幸せそうにゼリーを仲良く食べている二人を見て僕はそんな風に思えたのだった。
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皿の上のゼリーに関してサクヤたちに好きに食べてもらうようにして、僕はマオンさんと談笑しながら食べる。サクヤのゼリーを食べる様子に目を細めながら『可愛らしいねえ』と言っているが、一方でサクヤが連れて来た子に関しては何も言及していない事からおそらく見えてないのかも知れない。
一応ジャムパンを小さくちぎり、…ジャム多めの真ん中へんをサクヤともう一人の子に与えてみるとこれも美味しそうに食べている。どうやら食の好みはやはり二人とも同じというか似てるのだろう。そうなると同じ光の精霊『ウィル・オー・ウィスプ』という事になるのだろうか?
受付カウンターの方を見ると依頼をしようとする人達はあと五人くらいらしい。これならもうすぐ終わるだろう。依頼者達の年齢や風体は様々だが、なんとなく商人が多そうだ。
依頼受付の仕事が終わったらシルフィさん達もこちらで一緒に朝食になるだろうから、サクヤが連れてきたこの女の子についてシルフィさんに聞いてみよう。シルフィさんならきっとサクヤが連れて来たこの子が何者なのか、サクヤとの関係性もきっと教えてくれるだろう。
そうこうしているうちに精霊の二人はゼリーを食べ終えた。二人とも満腹になったのか満足そうな表情をしている。ゼリーを両手に抱えて食べていたサクヤは顔と手がゼリーのシロップでベタベタになっている。子供時代、プールみたいな大きな器に作った凄く大きなゼリーに飛び込んでみたい、その状態でお腹いっぱい食べてみたいと思った事があったがサクヤはその僕の夢を『実際にやってみた』という感じだ。少し羨ましい。
いつも通り手や顔がベタベタになっているサクヤをペーパーナプキンでグシグシと拭く事にする。『サクヤ、顔と手を拭くよ』と声をかけると彼女は笑顔で顔と手を差し出す。まるで風呂上がりに保護者に体を拭いてもらいたい幼児のようだ。あらかた拭き終わったらウェットティッシュで、そして仕上げにペーパーナプキンでもう一回。うん、綺麗になった。
次にサクヤが連れて来た子だ。彼女はサクヤと比べると大人しく食べていたので口周りのベタベタは少ない。ペーパーナプキンを何枚か手に取る。
そう言えばこの子はサクヤと比べると立ち居振る舞いはしっかりしているような気がする。例えると、幼稚園とかのクラスでまだ身の回りの事をするのに先生の手を借りる子がまだ多い中、一足先に着替えでも何でも出来ている子みたいなイメージだ。なんか先程からサクヤと比べてばかりで二人には申し訳ないのだけれど…。
そこで手に取ったペーパーナプキンを彼女の前に差し出して
「自分で拭く?」
と、尋いてみた。すると彼女はペーパーナプキンに手を伸ばした…が、しかしその手を引っ込めてテーブルに着地。少し顔を上に上げて目を閉じた。小さい体を僕に伸ばすかのように背伸びまでしている。まるで『拭いて』とおねだりされているかのようだ。うーん、これは殺しに来てるな、ロ○コンなら間違いなく陥落してる。
まあ、彼女がして欲しいなら問題無いのかな。それにしても、精霊というのはなかなか人前には出て来ないと聞いていたのだが、こんな数日で二人目に会ってしまうとは…。
「いやー、終わったぜぇ〜。さあ、メシだメシだ」
「もう!駄目ですぅ。マニィちゃん、メシだなんて言っちゃ」
人が歩いてくる気配がする。受付業務がひと段落したのだろう、マニィさんたちが話しながらこちらにやってくる。
丁度良い。この女の子の口元や手を拭いたら精霊に詳しいシルフィさんにこの子の事を聞いてみよう。そうと決まれば彼女の口元を拭いてしまおう。
「ッ!!?ゲンタさん、彼女はッ!?」
「えっ!?」
シルフィさんが驚きの声を上げた。その声に間抜けな声を漏らした僕。サクヤが連れてきた女の子の口元を拭こうと伸ばしていた僕の手が彼女に触れたその時、周囲の光がいくつもの粒になって弾けたかと思ったのもつかの間、その粒が彼女に向かって吸い込まれていく…。
「か、彼女は…」
何かを呟こうとしているシルフィさんのか細い声が遠くから聞こえた。




