第508話 兎獣人族(パニガーレ)ミミさんの事件簿
「そ、そうだったのか。同じ家で暮らし始めたから家族か…」
「はい。なのでマオンさんをお婆さん、ゲンタさんをお兄ちゃんって…」
僕をお兄ちゃんと呼んだ経緯をミアが話している。
「それで僕の方はミアリスさんをミアと愛称で呼ぶようにしたんです。マオンさんに関しては今まで通りですけどね」
テーブルを囲み直し事情を説明する。
「だが、謎はまだ残っている。むしろ、一番重大な問題。あのメスのニオイの正体は…?スンスン…」
ミミさんは表情を変えず冷静に呟く。
「ゲンタから感じたメスのニオイ…ハッ!?こ、これは!?」
再びカッと目を見開いた。
「メスのニオイが背後にも増えた…、しかも真新しい…。これはつまり…」
そう言いつつミミさんは僕の背中側、さらに首元や後頭部のあたりも念入りにニオイを嗅いでいる。ちょっとくすぐったい。
「謎は…すべて…解けた…」
「えっ?ちょ、ミミさん、その言い回しはなんか色々ヤバいんじゃ…。って言うか謎って…」
「このニオイの主、犯人はこの中にいる…」
「「「「な、なんだってー!?」」」」
マニィさんを初めとして何人かが声を上げた。が、ミミさんはそんな周りの戸惑いをよそに冷静に続ける。
「あなたですね…猫獣人族のミアリスさん…」
ミミさんがポンとミアの肩の上に手を置いた、ミアの体がピクリと震える。そして次の瞬間には全員の視線がミアに向いていた。
……………。
………。
…。
「…そんな訳で、夜中にトイレに起きたミアが寝ぼけたせいでゲンタの毛布に潜り込んじまったみたいなんだよ…」
マオンさんが状況を説明している。
「むう…、ひとつ屋根の下の下ならではのハプニング…。それならゲンタ、今夜は一緒に泊まろう。大丈夫、ベッドは別」
「いや、それってベッドは別でも後から潜り込む気マンマンですよね」
「当然」
「駄目ですよ、ミミさん」
「なぜ?」
「な、なぜって…」
スリスリしながら迫るミミさんに僕はタジタジだ、そこに再び瞬間移動したシルフィさんが割って入る。
「看過出来ません」
「む…」
ミミさんとシルフィさん、二人の視線がぶつかり合う。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
心配してくれたのかミアがこちらにやってきた。だが、ミアもまた何かに気づいたのかピタリと足を止めた。そしてミミさんと同じように鼻をスンスンとさせる。
「このニオイ…、以前…お兄ちゃんの服から感じた…。…あなただったんですね…」
なんだかミアの声が少し低くなっている。なんだか周りの空気がギスギスし始めたぞ、このままだと危険な気がする。すると、横から声がかかった。ヴァシュヌ神殿の巫女ヴァティさんだ。
「これは暮らす場所をしばらく変えた方が良いかも知れません、現世神様」
「え、場所を変える?」
「はい、よろしければ我らがヴァシュヌ神殿にて現世神様の居室をご用意いたしましょう」
「「それもダメーッ!!」」
今度はマニィさんとフェミさんが割って入る。
「ダ、ダメだぜ、ダンナ!そしたら今度は神殿でひとつ屋根の下じゃねえか!」
「そうですよぅ!」
「私は蛇神ヴァシュヌ様にお仕えする巫女…、そのような…」
「だけどダンナを現世神様って言ってたじゃねえか!その神サマの地上に降りて来てるのがダンナ…って事だろう。そしたらなんだってする…みてえな事もあるんじゃねえか?あるいは…ご、ご、ご奉仕…とか言って…部屋を尋ねたり…とか」
最後の方は赤面しながらマニィさんが指摘する。
「……………」
「も、も、もしかしてホントにするつもりだったんですかあ?」
焦った様子でフェミさんまでもが詰め寄ってくる。
「…現世神様の…お望みとあらば…」
ちょ、ちょっと!そこは否定して下さいよ。色々と。
「やれやれ…、騒がしいねえ…ゲンタ」
ずずず…、緑茶を飲みながらマオンさんが言った。さすが、落ち着いていらっしゃる。
「さて、どうしようかね。なんとかしないと血の雨…降るかも知れないよ」
「お、脅かさないで下さいよ!マオンさん」
僕はマオンさんにそう言ったのだが…、確かにこの件については考えなきゃいけないかな…。