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第505話 川の字の朝


 女の子として目覚めたクリン君改めクリンちゃん。彼(彼女?)は今後ヒョイさんの社交場サロンでミミさんたちの指導を受けながらデビューをする事を目標にレッスンをしていくらしい。方向性としてはとにかく可愛いを追求していく…、いわゆるアイドル路線である。


「売れれば稼げる、そこには歳が上も下も関係ない。上手く行けば成人前に大人顔負けの稼ぎもあり得る」


 ミミさんは真顔でそう語る。


「確かにそうかも知れないなあ…」


 僕は思わず呟いた。芸能ニュースがネタ元だからどこまで本当かは分からないけど…、それによればとある人気アイドルグループのメンバーが18歳くらいで都内にマンションを買った…みたいな記事だった。


「クリンには才能がある。だけど使うべき所で使わなければなんにもならない。それはどんなに素晴らしいニンジンがあっても口に入らなければお腹には何の足しにもならないのと同じ、もったいない」


 ミミさんの言う才能…、これはクリンちゃんが生きていく上で安定した収入が得られれば確固たる生活の基盤となるだろう。ましてや売れっ子にでもなれば…。アイドルをしていられる期間は短いかも知れない、だけど稼げるのならそれもアリかな。その稼いだお金で後に店を開くとか、今度はタレント側からプロデュース側に回るとか…選択肢もあるはずだ。


 そんな訳でクリンちゃんは教会から社交場に通いデビューを目指していく事になった。…ただ、一人の少年の人生とか価値観とか性別やらを一変させた激動の一日に僕もマオンさんもミアリスさんも何と言って良いか分からず、精神的にとても疲れてしまった。そんな訳で僕はマオンさん宅に場所を借り寝る事にしたのだった。なんか疲れが思った以上にあり日本の自室に戻るのが億劫おっくうになってしまったからだ。マオンさんの部屋でマオンさん、ミアリスさんと一緒に三人で川の字になって寝た。もちろん全員適切な距離は取っている、だからセーフだ。


「…そう思っていたんだけど」


 朝、起きてみるとミアリスさんが僕に抱きついて寝ていた。慌てて飛び起きると彼女も目を覚ました。そして意識がハッキリしだすとすぐに平謝り。


「う、うう…。ごめんなさい!私、寝ぼけて暖かそうな所についフラフラと行ってしまったみたいで…」


 彼女の話によると夜中に一度トイレに起きたという、それで戻ってくる際に寝ぼけていてついつい僕に寄り添うようにして眠ってしまったのではないかとの事…。


「ま、まあ、寝ぼける事はあると思うし…。別にミアリスさんを怒っている訳じゃないので…」


 すっかりしょげてしまったミアリスさんに声をかける。


「私、猫獣人族キャトレなのでついつい暖かい場所を求めてしまうんです。教会では子供たちの中では一番歳上だからしっかりしなきゃって思ってたのに…。昨日の夜は気が緩んでしまったみたいです…」


 あ〜、そう言われると…。僕は日本での日常を思い出す。たしかに猫って暖かい所が好きだよなあ…、日向ぼっこしながら丸くなってお昼寝…みたいに。それにミアリスさんは教会の子供たちの中では最年長、みんなのお姉さんとして…あるいはシスターさんがいない時のお母さん代わりみたいな役割もあったんじゃないかな…。成人前で…だけど冒険者の仕事をして、シスター見習いとしての修行もして…お姉さんやお母さんの代わりもして…。


「ずっと…頑張ってきたんだね…」


 僕はミアリスさんをまっすぐに見た。小柄な体だ、日本でも中学生くらいの女の子は小柄だ。彼女はその同じくらいの年頃の子と比べても小さな方になるだろう。そんな小さな体でたくさんの事をしてきたんだ…。


「ゲンタさん…」


「ゲンタの言う通りだよ。ミアリス、お前さんは今までずっと頑張ってきたんだろう?だけどね、この家の中じゃお前さんが一番の歳下さ。これからはさ…、これからは少し甘えるくらいで良いんだよ。ゲンタはお前さんの兄さん、わしはお前さんのおっさん…って歳でもないね。婆さんとして思ってくれて良いんだよ。同じ家で暮らす家族じゃないか」


 マオンさんが優しく言った。


「〜〜〜〜〜ッ!!!」


 声にならない声を上げてミアリスさんがマオンさんな胸に飛び込む、そんな彼女をマオンさんは優しく優しく…その背中を撫で続けたのだった。


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