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第497話 町おこし説明とジオラマ


「この町に人を呼ぶ方策か…」


 右手の人差し指と中指、二本の指を自らの顳顬こめかみに当てラ・フォンティーヌ様はしばし何かを考えている。…が、しばらくすると小さく息を吐き首を横に振った。


「ゲンタよ、先程の其方そなたの話では目的地への通過点に過ぎぬこの町を目的地に変える…そうであったな?」


「はい、奥方様」


「されどなあ…、妾の口から申すのも業腹ごうはら(とても腹が立つこと、癪に障ること)じゃが…この領には特に何かがある訳ではない。山に囲まれた盆地…、それがこの領の実情じゃ。時をかけて山林を切り拓き農地を広げた…それが我が領ミーンである」


 奥方様の言葉を受けて僕は考える、正確な測量に基づいた地図を見た訳ではないがミーン周辺の地理は僕の頭にも若干は入っている。ミーンの南門から続く街道である通称『塩の道』、僕が塩を持ち込むまではこの道こそが町の流通の生命線。唯一、海のある町まで続く道だ。初めは南に伸び、やがて東…それからまた南…酔った人の千鳥足のごとくふらふらと山裾を辿るようにして続いている。もちろん途中にはいくつもの登り下りがあり人力か荷馬車でしか物が運べないここ異世界では輸送もまた頭の痛い問題だ。しかも伸びているのら真っ平なアスファルトで整備された道ではない、土のでこぼこしたそこまで広くはない道、晴れていればまだ順調に通れるが雨が降ろうものなら想像以上の悪路となる。


「それにのう…王都にある大神殿のような巡礼者が絶えずやってくるような名所も無し…、精霊に祝福されし婚姻の儀というのは素晴らしいが…それだけでは婚儀をする者とその縁者くらいであろう。毎日とり行うものとも思えぬし…そこまでの人数を呼ぶ事は叶うまい」


「たしかにその通りと存じます。先程申し上げた婚姻をする人を狙ったのがひとつ目の矢とすれば二本目、三本目も用意してございます」


「ほう…」


「ここからはワイからご説明に加わりまひょ。ワイも一枚噛ませていただいとりますんで…。まあ、口出す限りはゼニも出しますさかいな。儲けられへんと困りますよってに…」


 そう言うと同席していたゴクキョウさんが身を乗り出す。それと同時に僕はA3コピー用紙に図面や文字を書き込んだものを取り出し四枚ほど取り出し縦横二枚ずつくっつけてA1サイズの絵図面のようにした。


「これは…ミーンかえ?町の各所が書かれておるようじゃが…」


「ここに書いてありますのはゲンタはんのアイディアを元に人を呼ぶのに実際にその催しが出来るか否かを議論して作りましたモンです。他に加わったんはこちらのヒョイはんに実際に建物ハコを作るガントンの親方たち…他にもその絵図面に書かれた場所に関わる皆はんにも話はしとります」


「町に人を呼ぶ為に様々な名所を用意するのです、観光資源として…」


「ふむ…。ずいぶんと細かな計画を立てているようであるし…大筋の話は出来ておるのじゃな。して…、何故なにゆえ妾にこの話を…?」


「そこは税など色々と生まれますからねえ…」


 ヒョイさんがにこやかに語り出す。


「他所の者がこの町に入るのであらば税が生まれます、大量の物を持ち込むのであらば当然それにも…。また、領が潤えば出来る事も増えますし…様々な人士が立ち寄る事になりますでしょう。そうなると…」


「ふふふ…。面倒事が起こりそうじゃのう…、かみにも下にも…」


「はい。ですが…」


「旨味もある…か」


「ぜひ、ご賢察いただければ…と」


 ヒョイさんの言葉に奥方様が少し考える素振りをしたがすぐに口を開いた。


「止める理由が無いのう。元より我が領にそれを止める触書ふれがきもないからの。我が夫が最後に判ずるであろうが問題はなかろう。じゃが…」


「どうされたんでっか?奥方はん」


「この絵図…、やや余白が多いのう。これはいかなる事じゃ?」


 絵図面には何も書かれていない場所がある。そのあたりを指差して奥方様が尋ねた。


「それはですね…」


 そう言って僕は大小様々、丸やら四角形やら複数の紙の切れっ端を入れたクリアファイルを取り出した。その中身を何枚かテーブルの上に出した。


「これは…?町民居住地…職人町…船着場、こちらは衛兵詰所…」


「この紙をですね、例えばこのようにして…」


 そう言うと僕はそのうちの一枚、アルファベットのL字形の紙片…防壁兼兵士役宅と書かれたそれを南門から南に伸びる街道沿いに置いた。この道は西から続いている、その角となるのが丁度南門の前、その内角に接するように置いている。


「なるほど、新たな町開発を地図の上で手軽に計画する為のものか…。して、これはなんじゃ?この防壁兼兵士役宅というのは…?防壁は分かる、王城で言えば城壁の類であろうが…」


「はい。この防壁兼兵士役宅というのは…」


 僕はリュックを開けて厚紙を加工して作った物を取り出した。大きさは牛乳パック小さくしたような物を組み合わせてL字方にしたようなものだ。それに絵の具で色を付け、さらには扉や階段などを付けてより実物をイメージしやすいように具体的にしている。


「当然、実物はもっと大きな物になりますが…。この防壁は表面に石木せきぼくを加工した物を使います、そして内側を居住できるようにいたします」


 そう言って僕は鍋の蓋を開けるように上面を取ると中にはままごとに使う人形ハウスのように中がよく分かるようになっている。


「役宅として兵士の方をここに住まわせます。同時に有事の際にはこの石の強度があるこれを防壁といたします。害獣や魔物、あるいは潤ったこの領を狙う不届者がおるやも知れません。それに備えて…」


「なるほどのう、有事の際には自宅の真上に行けばすぐさま防衛の任に就ける訳じゃな」


「はい。他にも領が潤い町に住もうとする領民が増えれば様々な施設が必要となりましょう。それを手軽に考える事ができまする。他にも領に人が増え町が手狭になれば拡張する必要が生まれどのように広げるかが肝要でありますゆえ…」


「面白い…」


「しかも…」


「ん、なんじゃ?まだ、何かあるのかえ?」


「実はこの建物は解体可能なんですよ。ほら、このように…」


 僕は先程の防壁兼兵士役宅を分解していく。


「実物もこの模型と似たような仕組みになっていまして解体組み立てが可能です。つまり必要に応じて…」


「移動させる事が出来るのじゃな。なるほど、城壁は一度築いてしまうと動かせぬ物じゃ。されど、これなら必要に応じて町の大きさや形を変える事も出来る。生き物のようにな…」


「はい。全てではありませんが…」


「いやいや、よい。しかし、ゲンタよ…其方の頭の中にはいったいいかほどの知識が詰まっておる?通っているといる学院とはどれほどの知が集まっておるのじゃ。ふふ、欲しいのう…だが」


 微笑んでいたラ・フォンティーヌ様だがすぐに表情を引き締めた。


「今はこの町を賑わせる方策の話じゃったな。あい分かった、進めてみよ」


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