第493話 ブーケトスの顛末
「ブ、ブーケが…」
「ゲンタさんに…」
シルフィさんとフィロスさんの視線が僕に…、正確には両手のひらの上にある白薔薇のブーケに向けられている。
「あ、いや…」
二人の視線に思わず僕はたじろいだ、思わずそんな二人から目を外らす。すると周りの様子が目に入る、そこには先程までブーケを求めていた多くの女性たちが…。
「「「「……………」」」」
目線はやはり僕の手のひらの上…。今回初めて居合わせたエングさんかラクスさんの招待客、結婚披露宴というものがどういうものか見に来たヒョイさんの社交場で働く兎獣人の子たちやメルジーナさん。他にも今日の護衛についてくれている『エルフの姉弟たち』のみなさん。男性からの視線もある、今回の催しがどんなものかと見物しているゴクキョウさんやヒョイさん。ラクスさんのドレスを仕立てたピースギーさんたちもいる。
「これは…次に結婚するのはゲンタという事?」
にゅっ!!
長いウサギ耳がブーケを持つ手の向こう側から伸びた、そこからミミさんが顔をのぞかせる。
「そ、そんな事は…」
ない…と僕は言おうとした、そもそもブーケトスは新婦からまだ未婚の女性に向けてのイベントなんだし…。けれども、それより大きく多くの声がそれをかき消す。
「せ、精霊が一緒だけど…?」
「精霊とどうやって結婚するのよ。つまり結婚相手の座はまだ空席よ!」
「そうよ、それに違いない!」
「間違いないわ!」
女性たちの視線が強さを増す、まさに眼力である。
「私が嫁に行けなくても…。うん、そうよ…もらってくれる人がいれば良いんだ!」
あれだけシルフィさんと魔法と卓越した頭脳戦までして見せたフィロスさんまでが短絡的な事を言い出した。争奪戦の熱が冷めたのか黒かった髪は元の金色に戻ってすっかり緊張感や強者の雰囲気は鳴りを潜めている。恋は盲目…いや、この場合は結婚は盲目といったところか…。
そっ…。
「んっ?」
ブーケを持つ僕の手を包み込むように手が添えられた。見ればそこには僕をまっすぐに見つめる(無表情だけど)ミミさんの姿があった。
「結婚しよう」
「え?ちょっと」
「そしてこのまま宿屋に行こう。やるなら早い方が良い」
「何をする気ですか!?」
ぐいっ!!
いきなり僕の横に現れたシルフィさんが僕の腕を取った、弾みで僕の手がミミさんから離れる。
「ダメよ、シルフィちゃん!まずは私…わ!た!し!が独身生活からの脱出を…。ホラ、こういうものは年齢の順、年齢の順!」
「フィロス姉様は17歳でしょう、遠慮して下さい」
「こればっかりは何人たりとも邪魔させないわっ!逝く…、私は嫁に逝くのよォォ!!」
あ、マズい。またフィロスさんの髪の色が黒へと変わり始めている。そこで僕は声を張り上げた。
「はぁーい、皆さん、ブーケトスのイベントはここまで!ここまでです!それに今日の主役はエングさんとラクスさんです!あちらの会場に料理や飲み物を用意していますのでそちらでお楽しみ下さい!それでは新婚のお二人を拍手で送り出しましょう!」
そう言われてしまっては主役を放っておく訳にもいかないようで騒ぎは鎮まり女性たちも拍手を始めた。だが、その間も僕の隣はシルフィさんが拍手をしながらもずっとキープしていたのだった。