表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

503/750

第492話 ブーケは私の物よ!!魔法姫 VS 迅雷


「ブーケトス?何それ?」


 初めて耳にした言葉にロヒューメさんが首を傾げた。


「ちょっとしたイベントですよ、見て下さい。ラクスさんが手に小さな花束を持っているでしょう?」


「うん、持ってるね」


「あれをふわりと軽く投げるんですよ」


「投げる?なんで?捨てちゃうの?」


「いえいえ、そうではありません。幸せのリレーです」


「んん?意味が分からない、どういう事?」


地球こきょうに伝わる言い伝えでしてね。昔、とある地方で男性が女性に花束を送って結婚を申し込んだそうなんです」


「ふんふん」


「それで結婚が成立した後、その花束を花嫁が祝福に来てくれた女性たちに向かって投げるんです。次はこの幸せをあなたに…って、そんな訳で飛んできたブーケを手にした女性が次に結婚する…みたいに言い伝えられています」


「へー!」


「まあ、実際にはそんな力はなk…」


 がしっと突然肩を掴まれる。


「へっ?」


「それ…ホントッ…?」


 振り返るとそこには本気の目をした既に髪色を真っ黒にしたフィロスさんが立っていたのだった。



 それはブーケトスの直前から始まった。


 居並ぶ他の女性陣、それを置き去りにしての凄腕冒険者二人の真剣勝負ガチバトルが…。


「ぐ…ぐふふ…。あれを取れば…あれを取れば私は嫁に行ける…。あれを取れば…」


「フィロスお姉ちゃん、本気だ…」


 ロヒューメさんが呟く。


「あれを取れば…。でも、誰のお嫁に…?知り合いの男性は少ないし…うーん、現状で強いて言えばゲンタさん?」


「…ッ!?」


 ザッ!!


 足音がしたかと思ったらこちらも真面目な顔をしたシルフィさん。なんだかいつもよりキリリと引き締まった表情をしている。


「ゲンタさんの…、隣には私。私が取ります」


「シ、シルフィ姉様も本気よ…」


 こちらはセフィラさん、顔にはかなりの緊張感がある。


「良いじゃないの、シルフィちゃん。あ、あなたはもう手鏡をもらって…」


「それとこれとは話が別です。私は…私は花嫁の座をこの手で守る…!」


 なにやら双方、激しい火花を散らしている。同族、同郷、姉妹のように育ったそうだがこの時ばかりはそんな親しさとは無縁のようだ。


「うっ…、ブ…ブーケを投げて下さぁい!!」


 プレッシャーに押し潰されそうになりながらも僕は必死に声を振り絞って叫んだ。その声に応じて女性たちの集団に対して後ろ向きに立っていたラクスさんがふわりとブーケを高く投げ上げた。白い薔薇の花束をリボンで飾った美しいブーケ…、そして激しい争奪戦が始まった。


「もらったァ!」


「そっらァ!!」


 意外や意外、放物線を描いて宙を舞うブーケを我こそが手に入れようとばかりに女性たちが手を伸ばした。なんて言うか…凄い迫力だ。しかし、このブーケ…一般人じゃ手に入らないだろうな…。だって二つ名持ちの凄腕冒険者があのブーケを狙っているんだもの、シルフィさんとフィロスさんという大本命が…。


「私がッ…!!短距離瞬間移動ブリンクッ!!」


 シルフィさんの声、お得意の瞬間移動だ。移動距離こそ目に見える範囲内という条件はあるがふわりと投げられたブーケを掴むには十分な移動距離。次の瞬間、シルフィさんは空中にいきなり姿が現れブーケを掴もうとしている…これはもう勝負あったか…そう感じた次の瞬間にまたまた信じられない事が起こった。


 ぱぁんっ!!


 なんと、シルフィさんと同じような姿勢でフィロスさんがブーケを掴みにいっていたのだ。ブーケに向かって伸ばした二人の手のひら、それがぶつかり合い先ほどの音となったのだ。


「なぜ?私の瞬間移動はまさに光速のはず…、いくら姉様が飛行の魔法に長けているにしても短距離瞬間移動ブリンクの方が速い…」


 シルフィさんの顔に困惑の色が浮かんだ。


「甘いわよ、シルフィちゃん。たしかにあなたの瞬間移動はまさに脅威よ。でもね、次に姿を現した瞬間…そこにわずかなスキがある。硬直というね…」


「硬直…、気づいて…いたのですね…」


「ええ…、ずっと前から…。だから私は最速の飛行魔法と自らの肉体からだに強化魔法をかけたの…五十倍の…。それだけスピードがあれば飛行の魔法と上手く組み合わせればあなたの体が硬直しているタイミングに間に合う…。そう、ブーケに触れるその瞬間までね」


「…ッ!?それならっ!!」


「そこッ!」


 シルフィさんが再び姿を消す、それと同時にフィロスさんも動く。


 ガッ!!


 シルフィさんとフィロスさんの互いの体がぶつかり合った。


「さ、さすが『光速』と呼ばれるだけの事はあるわね、シルフィちゃん」


「ね、姉様こそ…。最短距離でブーケを取りに…」


「まだまだ!今度はこちらから仕掛けていくわよぉ!!絶対に絶対に絶対に絶対に…、絶対ずぇったいに取るゥゥ!!」


 ギュンッ!!


 魔法の力で宙に浮遊しているフィロスさんが今度は一直線にブーケに向かう。


「させないっ!」


 シルフィさんの姿が消えブーケに手を伸ばせば届く位置に現れる。再び二人の手がぶつかり弾かれあう。その衝撃のためか落下していたブーケが風に舞う羽毛のごとくふわりと浮いた。


「まだまだっ!もっと速くッ!!」


「いいえ、私が…!」


 ついにフィロスさんが…、そしてシルフィさんがさらにギアを一段上げてひとつのブーケを巡って争い出した。もう僕にはその姿が目で追えない。時折、ぶつかりあった瞬間にだけ浮かび上がる姿が見える程度…あとは互いの声とぶつかり合う音だけである。


 ビュンッ!!!


 ガッ!!ぱしいっ!!


 クルクルクルッ!スタッ!!ギュインッ!ギャンッ!!


 ガガガガッ!!ふわっ!ブーケが一際高く舞う。


「ここよ、ここが勝負所!!ル…ゥ…ン…」


 まるで世界的にも有名な某漫画、ハワイの英雄王のような名前の必殺技を放つ寸前のようなタメのあるフィロスさんの声。


「バインドッ!!」


 フィロスさんの声が響くと同時に姿が現れた。右手を突き出し魔法を放っている。次の瞬間、何もない空間に何やらルーン文字が浮かんだ帯状のものが現れ何もない空間をグルグルとメビウスの輪のように取り囲んだ。するとそこには帯状の魔法文字が体に巻きついて身動きが取れなくなったシルフィさんの姿が現れた。


「いかに精霊魔法の得意なシルフィちゃんでも古代語による魔法は不慣れでしょう?傷つける訳にはいかないから拘束バインドさせてもらったわ。さあ、これで立ち塞がる者は誰もいないィィ!!グッバイ、独り身!ウェルカム結婚ッ!!」


 そう言うとフィロスさんは高く宙を舞うブーケに猛進!!これは勝負あったか!?


大型暴風バーストゲイル!!」


 突如、爆発的な風が起こりブーケに今まさに手を伸ばさんとするフィロスさんを吹き飛ばす!


「バ、バカな!身動きなんて取れないはず…ッ!?ざ、残像だったの!?」


 驚くフィロスさんから少し離れたところにシルフィさんが現れる、そしてその、姿がブンッと音を立てて消える。


「シ、シルフィさんが終止符を打たんとばかりに瞬間移動をッ!!」


 僕は思わず叫んでいた。


「これで今度こそ私がッ!!」


「甘いわよ、残像のひとつくらい私にもッ!!」


 なんともう一人フィロスさんが現れこちらもブーケに突っ込んでいく。シルフィさんの風の魔法で吹き飛ばされたはずのフィロスさんはなんと空中でドライアイスが急激に気化するように消えていく。


「残像ッ!?そっちも!!」


「残像を作り出す原理は違うけどねッ!!」


 フィロスさんもブーケに向かう、二人が二人とも手を伸ばす…。


「あっ!姿が…!」


 なんと触れ合った二人の姿が同時に消える。


「接触した時に…」

「厄介な魔法なんて喰らいたくないからねッ!!」


 なんと互いに残像を繰り出し相手の出方を窺ったようだ。


「くっ!残像が無駄にッ!?なら、先手必勝!」


 シルフィさんが再び瞬間移動にいく!


「させないっ!」


 フィロスさんがシルフィさんの瞬間移動直後の硬直を狙って自らの体をぶつけるようにして阻もうとする…、しかしそのシルフィさんの姿がかき消える。ぶつかる事を想定していた為か今度はフィロスさんが空中で体勢を崩した。素人目にも分かる、完全にスキだらけだ。


「に、二重の残像…」


「勝たせて…もらいます!」


 シルフィさんが呟く、だが…。


 ぱぁん!


 再び伸ばした手が相打ちしあう音!今度は残像じゃない、騙し合いナシの直接バトルだ!


 ぱぱぱぱぱぱぁんっ!!


 ビュンッ!!ガッ、ガッ、ガッ!


 再び音だけが響く展開!その間もほとんど姿は見えない。二人の激突の余波がかなりの上昇気流を生むのかブーケはさらに高く高く舞い上がっていった。


 スタッ、スタッ!!


 着地の音がすると次の瞬間にはシルフィさんとフィロスさんが地面に着地していた。あれだけやりあえば少しは息が上がっているそうなものだがなんと二人ともまだまだいけそうである。互いに見つめ合い、そしてどちらかとでもなく姿勢を正した。


「準備運動はこのくらいで良いかしら?」


「はい、姉様」


「あ、あれで準備運動…」


 驚愕のあまり声が上手く出せない。


「良い子ね、シルフィちゃん…。それでこそあのブーケを手に入れて結婚への糸口にするやりがいがあるわッ!じゃあ…第二幕開始ィ…って、あらっ?」


 フィロスさんが拍子が抜けたような声を出した。


「えっ…?無いッ!?ブーケが」


 僕もつられて空を見上げればさっきまであった空中のブーケの姿がない。


(ふふっ、ゲンタ…)


「えっ?カグヤ…?」


(両手のひらを上に向けて…優しく受け止めてね…)


「えっ?」


 思わずカグヤの言う通り、両手のひらを上に向けてみると…。


 とん…。


 なんと僕の手のひらの上に白薔薇のブーケが…、同時にサイズ感がまるで違うけどお姫様抱っこ状態の闇精霊シャルディエのカグヤが現れた。白薔薇と長い黒髪と服装のカグヤ…、それが妙にマッチして独特の美しさを見せる。


(ふふ…。これで私がゲンタのお嫁さんね…)


 とんでもない事をいつものように『くす…』と微笑みを浮かべてカグヤは言ってのけたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ