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第489話 真昼のたいまつ


「夜とか暗い所を明るく照らす魔法をご存知のフィロスさんはやった事が無いかもしれませんが…」


 気合いを入れ直した僕はフィロスさんに問いかけを始めた。


「天気の良い日…、太陽が燦々(さんさん)と輝く真昼の野原でたいまつに火を付けてみたとします。フィロスさんはこれを見たらどう感じますが?」


「えっ?ま、真昼に…?そ、そうね…意味が無いわよね。真昼なら十分に明るいんだし…」


 予想通りの範囲内、僕が望んだ答えだ。


「はい、その通りです。暗いからこそたいまつは周りを照らします。真昼だとたいまつよりも太陽の光の方が明るいから照らしている事が分かりません」


 すうぅぅ〜っ!!


 僕は大きく息を吸い込んだ。そして溜め込んだ息と共に言葉を吐き出していく。


「夜空に輝いている星は昼間は見えませんよね。だけど、あれは星が無くなった訳ではありません。空にあるけど星よりも太陽が明る過ぎて見えていないだけなんです」


「そ、それは知ってるけど…」


「ええーッ!?そうなのぉ?」


 ここで見えていないだけで真昼にも星があるという発言に対し反応は真っ二つに分かれた。すでに知っているという反応はフィロスさんたちエルフの皆さんとヒョイさん、知らなかったという反応はミミさんたち兎獣人族パニガーレの皆さんだ。フィロスさんは魔術師だ、いわゆる知識階級に該当たる。天文学などにも通じているのだろう。


「はい、実はそうなんですよ。そうだなあ…、もうちょっと見えやすい例で言えば月ですかね。夕方とか夜明け前…星は見えないけど月はうっすらと見える…みたいな時がありますよね」


「うん、あるー!」


「あれは星に比べて月の方がはるかに明るいから完全に暗くなくても…薄暗いくらいから見えてくるんですよ。んで、太陽が沈んで真っ暗になるとハッキリと分かるようになるんです。星は月よりもはるかに頼りない明るさなんでなかなか分からないだけで昼もちゃんと輝いているんです」


「へー!」


 この異世界が天動説に基づくのか地動説に基づくのかは分からないけど、朝には太陽が上りやがて沈む。その過程でここ異世界もまた明るくなったり暗くなったりする訳だ。


「そこで…フィロスさん、この『スター』のカードが示すのは希望や可能性…。それこそ星は常に僕らの頭上で輝いているんです、今まさに…真昼間にも…。フィロスさんが求める男性との恋愛…、それこそチャンスはたくさん…星の数ほど男性はいるんです。ただ、それに気付いていない…それだけなんです!」


 びしいっ!!


 そんな効果音が出るくらいに胸を張って僕は言い切った。そうする事で僕にも自信が湧いてくる。そうだよ、自分の言葉を自分が誰より信じなきゃ他の誰が信じるというのか。


「チャンスが…たくさん…」


「そうです!チャンスや希望はあるんですよ、フィロスさん!!」


 素敵な男性と恋愛成就したい、それがフィロスさんの願いだ。だから男性がいるこの町は…無人島じゃないんだからチャンスは皆無な訳ではない。恋愛運は壊滅的だと占いは告げている、だがそれは成就に至る可能性が今は皆無だという事だ。その占いの結果はあくまでも過去から現在の流れから近未来を示すもの…。その先はまだ白紙…、変わりようはあるはずだ。例えばミーンにこだわらず他の大きな都市に行ってみるとか…、そうすれば出会う人も変わるだろう。


「それに恋愛の形は一つだけじゃありません」


 そしてもうひと押しとばかりに僕は言葉を続ける。あえてフィロスさんの最終目的たる結婚とは言わない、あくまで恋愛と前置きして…。


「結婚の前に交際する期間がおありだと思います、長いのか短いのかは別として…」


「わ、私は出会ったその日に結婚でも良いんだけど…」


 なんだろう、下手にフィロスさんの前で酔い潰れたりしない方が良いような気がしてきたぞ 。さもないと日本でいえば前後不覚になっている間に婚姻届にサインをしてしまっているかも知れない。そんな一抹の不安を感じながらも僕なりの占いの結果を伝えていく。


「交際する為には恋愛関係に…、でも恋愛関係になるというのもなかなかすぐにはなりません。お互いが最初から運命的なまでの一目惚れでもなければ…。そうでなければ…この人良いな…って人に恋をして振り向いてもらうとか、徐々に距離を近づけていくというのが一般的ではないでしょうか」


「う、うんうん!」


「だから、たいていの人は気になる人が出来て…。それから少しずつ話しかけていったりして…最初は片思い、それから両思いになるんじゃないでしょうか。だから、始めはみんなが片思い…それが恋の始まりとも言えるのでは…」


「………」


「だけど、それはちゃんと生活の基盤を作りお金を準備しておいた方が良いのは間違いありません。そういう意味ではフィロスさんはすでにその力があります。そして『スター』のカード…、希望はあるんです。それも間違いなく、今が昼間だとすればただ見えないだけで…」


 そう、ちゃんと頭上にはあるんだ…星々は…。でも、手を伸ばしても…おおっと!?ヘンな事を考えちゃダメだ、今はフィロスさんの背中を押す事だけを考えなくては…。


「う…、コ…コホンッ!つまりですね、フィロスさんはこれからいくらでも恋が出来る!さっきも言ってましたよね、夜空を見上げるような…って…。じゃあ、今から用意しないとっ!お昼に出かける約束をして、夜に待ち合わせですよ、フィロスさんッ!!」


「…ッ!?わ、私っ…私やるゥゥッ!!こ、この世界を闇に染めてでも星をッ…!!お、お相手見つけるッ!」


「い、いや、世界を闇に染めるのはちょっと…」


「ぬ…ぬふふふ…。見つけるわよォォ!恋を、結婚相手を!」


 目は血走り、手をニギニギさせながらフィロスさんが呟いている。


「ああ、そう言えば…」


 唐突にヒョイさんが呟いた。


「以前、ゲンタさんが町の広場で開催した恋のイベントがありましたな。あの時に付き合い始めた二人がもうすぐ所帯しょたいを持つとか…、そんな噂を耳にしましたよ」


「へえ…、それはなんとも嬉しいですね。そうだ、最初の所帯持ちになるのを記念してお披露目の宴でも開きますかね」


「宴?なんや、パァーっとやるっちゅうんか?」


 興味を持ったのかゴクキョウさんが尋ねてくる。


「そうです、そうです。それと披露宴…えーっと、お披露目の式ですかね。そういうのをやって…、そう言えばそういうのをやるのってホテルだったよなあ」


「ホテル…?つまり、宿屋…ちゅう事かいな…。そこで婚姻のお披露目か…。む、むむむっ!?ゲ、ゲンタはんっ、その話ちょっと向こうで詳しく教えてくれへんか?なにやら儲けのニオイがするで!!」


「えっ、ちょっとゴクキョウさん?」


 そう言うとゴクキョウさんは新たに個室を借りている、さっそく会談をするようで僕を急かすように手招きしていた。

 


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