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第488話 希望の星


「正位置の『スター』…」


 現れたのは夜空に金色よりもまばゆい白金色をした星が描かれたカードだった。その時、僕はこのカードが意味する希望という言葉を思い出していた。


 希望…、それは実際に手に取って触れる物ではない。それを目標にしたり、期待をしたりと心の中で感じとるものだ。そしてその星というのは夜空を見上げれば確かに目には見えるけど決して届かぬもの…。いくら手を伸ばしても実際に掴み取れる訳ではないのだ。


 だからタロットカードの意味においても『星』のカードは希望という意味であってもそれはどこか夢のような…、現実離れとか空想の…みたいな意味もある。そう、それはどこか憧れのような…。


「あの…フィロスさん…」


 意を決し僕は口を開いた。占いの結果を伝える為…。


「まず、総合的な話からしていきましょう。フィロスさんの運勢はまさに才に溢れ魔法を活かして活動すれば自ずと道が開けていきます。また、生活していくにも十分な収入が見込める為に安定して暮らしていく事ができるでしょう」


 日本の裁判では極刑などの重い判決を出す際には裁判官は量刑の宣言を後回しにしてその判断に至った経緯を説明していくという。そんな事を思い出しながら僕はタロット占いで得た答えを伝えていく。


「さて…、それをふまえた上でフィロスさんの恋愛運ですが…」


 ぐぐっ…。


 目の前に座っているフィロスさんが無言で身を前に乗り出す、静かだがものすごく迫力がある。凄味すごみがあると言っても良いくらいだ。


「結論から言うと…」


 ここだ…、ここからの言葉選びと内容が大事だ…。しくじればミーンの町崩壊を最前列で目撃する事になる。僕は自分に気合いを入れ直した。


「今すぐの結婚はない…とカードは示していました」


 別に間違ってはいないはずだ、フィロスさんの恋愛運はなぜだかどれをとっても壊滅的で一言で言えば『どうにもならない』としか言いようがない。…だか、それを素直に口に出来る訳がない。とりあえず、すぐの結婚はない…これは間違いなさそうだから言ってみたのだ。


「そ、そう…なの?い、いきなり運命の出会いからの流れるようなアレやコレやで教会で即決…みたいなのは無いのね…」


「お姉ちゃん…、私たちエルフ族は神を信仰してないのになんで教会…」


「い、良いじゃない!?あ、憧れるくらいっ!!貴族とか王族がたまにやるじゃない、国内外に大々的に喧伝する為にもやるやつ!アレ、やりたいのよ!だから、私はウェディングベールもドレスも稼いだお金を突っ込んでずっと用意してるんだから!!」


「姉様…。あ、相手もまだいないのに…」


 エルフの姉弟たちがなんとも言えない表情でフィロスさんを見つめている。悲しみを知った者だけができる目…、ケンシ○ウがラオ○を倒した時のような目であった。


「実はですね、フィロスさん。僕の生まれ故郷では17歳で結婚している人ってほとんどいないんです」


「えっ?そ、そうなのっ!?こ、このあたりじゃ15とか16でする人もいるのに!本当なの?」


「はい、本当です」


 日本で17歳といったらほとんどの人は高校生、周りを見れば結婚なんてまだ早いと言う人がほとんどだろう。


「そのぐらいの年齢だとまだまだ学ぶような年齢とされていまして…、だから結婚はせず…まあ誰かに恋をするくらいですかね」


「結婚…しないんだ…」


「そうです、代わりに恋をして交際をするような」


「こ、交際ッ…!!」


「はい、交際です。ただ、みんながみんな上手く行く訳ではありません。交際相手がいないという人も少なくありません」


 ニュースにもなるもんなあ…、ある年齢になっても交際人数がゼロなんていうアンケート結果もあるくらいだ。そう考えれば別に恋人なり配偶者がいないというのも別におかしな事ではない。


「結婚は…色々な形があるとは思いますが…」


 僕はふとナタダ子爵の御令嬢モネ様の顔を思い出した、自分の希望などでは相手を選べずあくまでもお家事情で夫が決まると…。そういった婚姻関係が貴族のならわしだ。しかし、町に住む人々は話が違う。もちろん全てが自由恋愛に基づくものとは限らないがそれでも貴族間の結婚よりは自由である。中でも冒険者がする結婚はとりわけ自由であると聞く。


御家おいえの事情がある貴族の方とは違って町の衆はしがらみはまだ少ないです。ましてや冒険者ともなれば違う町に拠点を移す事も可能でしょう、それこそ国を越える事も…」


 生まれた場所も特技も…、種族だって違ったりするけどそれを超えて結ばれる…それが冒険者のつながりだ。それは恋愛関係や婚姻関係にも同じ事が言える。ただ、結婚に関しては日本のように役所に書類を出して受理されて結婚式場で御披露目おひろめする…そんなキッチリとやる訳ではない。そんな役所の機関なんてものはそもそも無いんだし…。また、結婚という形をあえて取らず恋愛関係のままという人々もいる。だから気持ちが冷めればそこで離れる、そのせいで独身ひとりみになった時に生活の足枷あしかせとなってしまう子供を置き去りにしてしまう事が少なくないとの事…。日本より孤児になってしまう子供が多いのはそういった理由であるらしい。


 ちなみにフィロスさんが憧れる結婚…、特に神殿でしっかり式を挙げる…そういうのはかなりの少数派だ。ミーンの町で言えば騎士階級にある人とか羽振りのいい商人とか…それくらいらしい。


 そう言えば猫獣人族キャトレの親分さん、鳶職のゴロナーゴさんに初めて会ったのは弟子の職人さんが嫁さんをもらうからその宴会用の料理を用意してくれというのがきっかけだったっけ…。むしろ、こういった身内の人を集めてちょっとご馳走や酒でワイワイやるというのが普通だ。むしろ、ゴロナーゴさんのように何十人と集まって開いたというのは町の衆の中ではかなり規模が大きいものであったと言える。


「ですが、冒険者の一番の特権は自由…。どこに行くのも何をするのも自由、ただそれは常に危険と背中合わせ…。自身の力量次第でいかようにもなる…、幸いな事にフィロスさんにはその力がすでにあります」


 そう、フィロスさんは実力も金運も仕事運も素晴らしいんだ。ただ、逆に全振りの真逆をしたかのように恋愛運だけが壊滅的なんだ。さて、この事をはたしてどう言うか…、ミスったら破滅ジ・エンドだ。


「この『スター』のカード…、空に輝くあの星です。カードの意味はまだ伏せたままで…、これを見てフィロスさんはどう感じますか?」


 とりあえず僕はタロットカードを示してフィロスさんに尋ねる、まずは様子見…出方を伺う。


「え、ほ…星…?そ、そうね…夜に輝く星…ハッ!?も、もしやこれから二人で夜空を見上げるような逢瀬をするみたいな…そ、そしてそのまま…グフフフ…」


 最初は恋を夢見る少女のように…、それから何か良からぬ事を企んでいるような顔をしてフィロスさんが応じた。うーん、フィロスさんはそういう考え方をするのか…。憧れと途中経過をすっ飛ばして…うん、ならば…。


「残念、フィロスさん。このカードは希望とか可能性みたいな事を示します、それもいつ…いかなる時にもあるような…」


「えっ…?ど、どういう事ッ!?わ、私、そんな希望なんて感じた事ないんだけどッ!!?」


 うーん、まあ…そうかも知れないなあ。あの占いの結果じゃあ…。だけど、ここが大事だ!ここからの言葉選びで全てが決まってしまう。僕は気合いを入れ直した。




 次回、『真昼のたいまつ』。


 いよいよ500個目の記事になります。(話数としては489ですが…)


 お楽しみに。

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