第487話 フィロスさんの『世界』(下)
「リ…逆位置の…『世界』…」
最後に現れたのは『世界』のカードの逆位置…。結論から言ってしまえばフィロスさんの求める内容…、恋愛…さらには結婚についてタロットは未達成と告げている。
この事をふまえて一枚目からのカードの流れを文章にしてみると…『フィロスさん、まず貴女の恋愛運の過去から現在…そして近未来までの基本的な流れですが、これまでまさに壊滅的でした、それは今現在も一言で言えば終わってるような状態と言えますし近い未来もまた自分でいくら諦めないと思ったとしてもどうにもならない流れとなっております』と前半部分を説明する事になる。
そして残りの後半部分(カードの4枚目から7枚目)もこれまたヤバい。『過去から近い未来までの基本的な流れを押さえた上で貴女自身に目を向けますと恋愛に対して貴女の運気や能力で出来る事…というか恋愛出来ない運命が強すぎてどうにもなりません。逆に貴女を手助けしてくれる人とか誰かフィロスさんに一目惚れするような人といった他者的な要因についてもチャンスすらありません。一度死んで生まれ変わって別人のような運命を手に入れないといつまで経っても恋愛が上手くはいきません』という感じだろうか…。
それにしても…悪い結果なら結果で仕方がないけど占いに出てきた7枚のカードの中に男性が描かれているもの…『皇帝』とか『法王』、『隠者』や『恋人』なんかも出てこなかった。なんなら『吊られた男』だっていなかった。なんなら悪い意味…堕落とか欲望みたいな意味のカードだけど『悪魔』だとしても肉体的な接触や誘惑の意味みあるこのカードがあれば当然男性が絡む…。そう思ったんだけどそれも出でこない。つくづくフィロスさんには男に縁が無いというか…。
「って、そんな事言えるかぁ〜ッ!!」
「ど、どうしたの?ゲンタさん、う…占いな結果は…?私の恋愛運は…?」
フィロスさんが縋るような目で僕を見ている。い、言えないよ、こんな結果…フィロスさんの為にも…そしてミーンの町が滅ばない為にも…。
「はあはあ…。フィロスさんッ!!」
「は、はいっ!なんですか、ゲンタさん?もしや私にいきなりプロポー…」
「フィロスさんの最終的な目標は結婚ですよねッ!?」
「不束者ですが…あれ、違う?プロポーズじゃない?コホン…そ、そうね、最終的には結婚ッ!そう、間違いない!」
力強くフィロスさんは断言した。…握り拳まで作って…。
「じゃあ、もう少し他にも占いましょう!なんせ結婚ですからね、互いの気持ちも大事ですが他にも大事なものもありますよね!お金もかかりますし、仕事の安定とかも大事ですよね」
「そ、そうね!間違いないわ!子供だって欲しいし、暮らしていくにはお金がかかるものね、間違いないわ!」
「なら、仕事運とか金運も一緒に見ておきましょうよ!」
「え?このカードではそういう占いも出来るの?」
「もちろんです!さっそくやってみましょう!!」
僕は半ば強引に話題を変えてなんとかフィロスさんの恋愛に結びつけられるように他の角度からアプローチしてみる事にした。
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結論から言おう。フィロスさんの仕事運や金運はそりゃあ素晴らしいものだった。仕事運はより自身が成長しまさに盤石、これからさらに良くなる流れのようだ。特に最終的な結果を表すカードは『世界』、つまり望んだ事は達成できるという、努力が報われる素晴らしい内容だった。
また、金運についても同様の事が言えた。仕事で得る報酬は増加傾向にあり、これまた最後に表れたカードは『世界』だった。途中に酒や甘味などの誘惑による浪費に注意という警告はあったものの全体的に良い内容だった。
他にも健康運(元気なお子さんを産む為にあらかじめ調べておきましょうと言ったら凄く良い返事で承諾された)なんかを占ってみるとこれまた…最良の結果。元気で長生きできます(長寿なエルフ族だから当たり前と言えば当たり前とも言えそうだが)といった結果になる。もちろん、最後に結果を示していたのは『世界』のカード。
つまりフィロスさんは才能にも仕事運や金運にも、さらには健康面でも人が羨む天が二物も三物も与えたような存在。ただひとつ…、なぜか恋愛だけはどう見ても壊滅的になる。試しに僕がフィロスさんの恋愛はどうだろうとこっそりカードをめくってみると『先が見えない』とか『恋愛に発展するような出会いに恵まれない』とかもう散々、それでも何か良い方法はないかと念じながらカードをめくってみれば現れたのは逆位置の『吊られた男』、正位置なら努力や忍耐が報われるような意味だけど逆位置となると報われない努力とか骨折り損みたいな意味になってしまう。一言で言えば『諦めた方が良いよ』と言えなくもない。…なんだろう、たぐいまれな才能や運気に恵まれる代わりに一切の恋愛を排除してしまった…まるで徹底して恋愛運皆無に全振りしてしまったかのような運勢である。
「ま、まさか…これがフィロスさんの『世界』なんだろうか…」
占いの最終結果に必ず出てくる『世界』のカード…、もしかするとこれがフィロスさんの『世界』…このカードが意味する完全で完成された世界…。いや、逆位置で考えれば恋愛だけは未完成になるし他にも不完全とか未到達みたいな意味にもなる。未到達かあ…恋愛が先に進まないのか…先に進まない…あれ?
「も、もしかして…」
僕はある事に気がつきタロットカードをこっそりめくってみる事にした。『フィロスさんが自身の年齢を永遠の17歳と言っているのも未到達とか先に進まないという意味に含まれていますか?』と…。現れたのは正位置の『世界』…。つまり『完全にイエス』ということ…。
「Yes…Yes….OH!NO!!!」
なんてこった、もしかするとフィロスさんてあらゆる事が完成している存在なんだろうか。才能も残念な恋愛運も…。だけど…、だけど…なんか上手く言わないとミーンが滅んじゃう。それだけは阻止したい。考えろ…考えるんだ…。良い方法を…、この絶対的で絶望的な『世界』を覆すような冴えたやり方を…。
焦りに似た気持ちで僕は必死に頭を働かせていた僕はふとタロットをもう一枚カードをめくってみた。ほんのなんの気なしに…ただ偶然に…。
「正位置の『星『スター』…」
現れたのは夜空に金色よりもまばゆい白金色をした星が描かれたカードだった。その時、僕はこのカードが意味する希望という言葉を思い出していた。