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第485話 フィロスさんの『世界』(上)


 数日後…。


 ヒョイオ・ヒョイさんの経営する社交場サロンに集まった僕たちは早速フィロスさんの悩みである結婚出来ない事を解決すべくその前段階である恋を見つける為の方法…その話を進めていく事にした。ちなみに今は冒険者ギルドでの朝食販売を終え軽く仮眠した昼前といったタイミングだ。


「これが…恋を見つける方法…?」


 集まったメンバーの一人、兎獣人パニガーレのミミさんが僕の持ってきた物に首を傾げながら呟いた。


「箱だねー」

「ふむ、ずいぶんと綺麗な箱やな」

「木で出来てるー」

「見事な細工が施されておりますが…、至って普通の木製小箱ですな…」


 集まっているミミさん以外の兎獣人の皆さんもゴクキョウさんも、そして社交場のオーナーであるヒョイさんがそれぞれの感想を述べた。


「あはは、確かに箱ですね。これはガントンさんにお願いして作ってもらいました」


「ほお!?ガントンはんにかいな?こりゃあ、たいへんや。店に並べたらきっとエエ値段がつきまっせ。銀貨で五枚…、いや七枚くらいはつきそうやな」


「ええ?銀貨七枚(日本円にして7万円相当)ッ!?そりゃ凄い、さすがガントンさんの作った物は違うなあ…。って、いけないいけない。肝心なのはこの箱に入っている中身です」


「中身?まさか、これに恋が入ってるなんて事は…。も、もしや御伽話おとぎばなしや歌に登場するような開けた者の願いを叶えるという魔法の箱なんですの…?」


 隣に座った歌姫メルジーナさんが僕に尋ねてくる。


「いえ、そうではありません。この中身は…」


 僕は再び小箱を手に取り上蓋を開けた。中には小綺麗な薄布に包まれた物が入っている。時代劇なら中に小判が入っていそうな布だ。それをみんなで囲んでいるテーブルの中央に置き包んでいる布を開いていく。


紙札カード…ですな…」


 現れた物を見てヒョイさんが呟く。


「うん、カード…。でも、魔力のたぐいは一切感じない…ごく普通の紙で出来たカード…よね。ゲンタさん、これは一体…?」


「これはタロットカードと言いまして占いに使う物なんです」


「占い?」


「はい。これを使って…、見てください…色々な絵柄があるでしょう?これにはそれぞれ意味があります。そうですね、例えば…」


 そう言って僕はカードを裏返しにした。


「フィロスさん、この中から直感で一枚のカードを選んでみて下さい」


「え…じゃあ…、これ」


 フィロスさんは一枚カードを抜き出した。僕はそれを手に取り絵柄を確認する。そこには杖を持ち赤いフード付きローブを着た白髭の老人が描かれている。


魔術師マジシャン…あっ!?」


 はらり…。


 ちゃんと掴んでいなかった指先から一枚のカードが滑り落ちた。だが、手元には魔術師のカードが残っている。どうやら魔術師のカードにもう一枚、カードが重なっていたようだ。テーブルに音も無く落ちたカードは表の…絵柄のある方を上に向けている。紫色のローブを着た男性が蝋燭ろうそくあかりを頼りに書物を読んでいる。


隠者ハーミットだ…」


「ね、ねえ?こ、これは何の意味があるの?う、占いの結果は?私の夫になる人、どこにいるの?」


 フィロスさんは早くも興奮した様子でカードの内容を尋ねてくる。


「あ、いや…、今回は特に何を占うかは決めてなくて…とりあえず一枚、例にでもしようかと試しに一枚引いてもらったんです。ちなみにこの赤い服を着た老人は魔術師マジシャン、いわゆる魔法使い。んで、こちらは隠者ハーミット…騒がしい人里を離れ一人書物や思想を追究する…」


 僕が話しているとロヒューメさんが割り込む形で話に入ってきた。


「す、凄いよゲンタさん!!そもそもフィロスお姉ちゃんは魔法使いだし、町を離れて古代の塔で暮らしながら魔法の研究をしてるもん!この隠者ハーミットっていうのはお姉ちゃんの暮らしぶりそのものだよ!」


「うーん、そう考えると興味深い。このカード…魔力とは別のなんらかの力があるのかも知れませんね」


「もしかするとこれならフィロス姉様にもついに…」


 タシギスさんやサリスさん、エルフのパーティもなにやら感心している。


「み…見つかるのよね?こ、これで私の幸せ見つかるのよね?ううう…結婚相手…」


 フィロスさんはフィロスさんで何やら食い入るような目つきでテーブル上のカードを見つめている。マズいな、そこまで真剣になられるのは…。占いはもっと気軽に、朝のお出かけ前にチラッと見ておいた…くらいの感覚でいてくれたら良いのだが…。そう思った僕は事前に予防線を引いておく。


「ま、まあ、あくまで占いですから…。ちょっとした友人知人からのアドバイスくらいに…」


「ううんっ!!ううんっ!!私、ビリビリ感じる!これにはとてつもない力を感じる!きっと私に明るい未来ッ、素敵な夫になる人を連れてくるッ!!そうよねっ、ゲンタさん!?」


「え?いや、そんな事は…。それにさっきは特に魔力を感じないごく普通の紙のカードって…」


「いーえッ!!これはもはや神のカードッ!!そ、そう、私は神のカードって言ったのよ!ちょ、ちょっと発音が悪かったかしら!?オ、オホホッ!!」


 何か必死に誤魔化すようにフィロスさんは笑っている。


「…お姉ちゃん、口調変わってる」


「うむ。ちょっと無理がある言い分だ」


「それに我々エルフ族は神を信仰しない。常に共にあるのは精霊…それが…」


 うーん、エルフ族の思想さえ結婚願望の前には霞んでしまうのか…。ま、まあ、良いや。フィロスさんを元気付けられる良いきっかけになれば…。そう思った僕はさっそくタロットカードを使った占いを始める事にした。


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