第477話 弟子入り志願
フォルジュの名前の由来はフランス語の
鍛冶屋 「forgeron」より付けました。
弟子にして下さいと彼女は言った。
ここミーンの町にやってきたドワーフ族の女性フォルジュさんは自己紹介さえする前に僕に弟子入り祈願した。
彼女はガントンさんやゴントンさんから見ると姪…、より詳しく聞いたらガントンさんたちの兄の娘であるという。
「へえ…、ガントンさんたちのお兄様は里に残って…」
とりあえず弟子を取る、取らないという決断はいったん保留しておいて今は元の位置に戻した石木の大テーブルに着き緑茶を飲みながら話をしている。
「うむ、長男である兄はその持てる技術を後進に伝えておるのだ」
「逆に次男坊以降のオデたちは新たな技術や鉱石を手に入れる為に里から出たんだべ。反対に一番上の兄貴は里と培ってきた技術を守るんだァ…」
ガントンさんゴントンさんがドワーフ族の慣わしみたいなものを教えてくれた。たしかガントンさんに会ったばかりの
「フォルジュよ、新たな地金に接し知識に触れ坊やに弟子入りを望む気持ちは分かる。じゃが、それはお前のワガママでもある。ゆえにまずは坊やの成人の証たる短剣作りに力を貸せい。そしてゆくゆくは坊やの信頼を得て師弟となれるよう日頃から励むが良い」
「はい、叔父上!!改めましてフォルジュと申しまする、ゲンタ先生の信を得られるよう日々努めていきますゆえ何卒よろしくお願い申し上げ奉りまする」
「い、いや、まだ先生になるとは…」
「い、いやいや!この先生は何も師匠の意味だけにあらず!優れた知識、技能をお持ちの方に対する尊称!他意ははございませぬ!」
「師匠の意味『だけ』ではないって…、それ師匠の意味も含んでるって事じゃないですかねえ…」
「は、はは…。いや、これは参りましたな!さすがは先生、様々な事に目を向けられておりまする」
はっはっはっはっ!まったく参った様子もなく目の前で金髪三つ編み少女は笑う。そんな彼女だが年齢は僕とひとつしか違わないらしい、ちなみにフォルジュさんの方が歳下である。
「こうなるとフォルジュはしつこいべ。元から頑固なのもあるんだべが…とりあえずしばらくはここに置いてやってくんねえべか」
「それはマオンさんに決めてもらって…」
僕は家主であるマオンさんにお伺いを立てた。
「追い出す訳にもいかないだろうね。まあ、ガントンたちの姪なら問題ないだろ。儂は構わないよ」
「おお!家主殿、いやマオン殿、感謝し申す!」
またもやビシッとした礼をしてフォルジュさんが感謝を伝えてくる。
「今日のところはベヤンも大砲の移動でクタクタになっておるしフォルジュの奴も来たばかりじゃ、しっかり休ませよう。明日より短剣作りの手筈を整えていく事にするとして…ふむ。坊や、すまぬが明日の朝のギルドに向かう時なんじゃが…」
「はい。明日の朝はガントンさんたちに護衛をお願いしていましたね」
明日はガントンさんとベヤン君、そしてハカセさんが護衛についてくれる予定のはずだ。
「その事じゃが、明日はワシの代わりにフォルジュを同行させてやって欲しい」
「そりゃまたどうして?」
「ひとつは鍛冶場の準備じゃな。まずは鉄や鋼の精錬をしてフォルジュにこの鍛冶場の使い方をたたき込む。鍛冶場…特に炉というものはのう、火を入れたらすぐに使えるものではないのじゃ。炉が熱くなるまでに時間を要する」
「なるほど…」
「もうひとつはフォルジュもまた冒険者ギルドに加入しておるでな。この地に活動拠点を移したという申請はしておくべきじゃろうて…」
「えっ?フォルジュさん、冒険者でもあるんですか?その…、戦ったり…出来るんですか?」
あの金属製の乗り物を持ち上げて放り投げるくらいだから腕力は相当あるとは思うけど…、見た目は小学生みたい感じなんだけどなあ…いわゆるロリッ娘枠みたいな…。
「ふ、ふわはははっ!!坊や、それなら心配はいらねえだァ!」
ばぁん!!
「ぶげっ!!」
ゴントンさんが僕の背中を叩いた、肺の中の空気と共に間の抜けた声が洩れた。
「姪っ子ながらコイツはなかなかどうして大したモンだァ。そこらへんの軟弱な男じゃ軽くひねられるのがオチだんべ!鍛え方が違うんだァ、鍛え方がァ!」
「そ、そうですか…ごふっ、ごふっ!」
なんとか返事をしようとするが咳き込んでしまう。
「ありゃりゃ、こりゃあ坊やも体をもすこし鍛えた方が良いべ」
「い、いや、ごほっ!ゴントンさんの…ごほっ、力が…」
僕は抗議の声を上げようとしたが咳き込むばかりであった。
□
翌朝…というか夜明け前…。
いつものように僕とマオンさんは荷車を引いて冒険者ギルドに向かった。同道しているのはベヤン君にハカセさん、そして新加入であるフォルジュさん。
「先生ッ!先生ッ!荷車を引いていくのは私めがいたします!どうぞ御手を荷車からお離し下さいませ!」
弟子入り志願中のフォルジュさんが僕の代わりに荷車を引こうとする。
「御祖母様もです!そのように後ろから押さずとも私めが…」
僕はマオンさんの遠縁という事になっているからだろうか、フォルジュさんはマオンさんを御祖母様と呼ぶ事にしたようである。
「いや、あのね…荷車を引いて商売に行くのは僕の生業。だから自分で引いていかないと…。それにフォルジュさんは護衛なんですから荷車を引いてもらう訳には…」
「おおっ!然り、然り!たしかに私めは先生の護衛を相務(しっかり務める、たしかに務めるの意味)めまする!それと先生、私めに『さん』付けなど不用にございまするぞ!私めは先生に教えを乞う身、鍛治の世界なれば住み込みで作業を学ばせていただく代わりに雑事などをお引き受けいたすの常…。従僕とみなしていただいても…」
何やら熱心に彼女が語っていたその時だった。
「おお〜?コイツ、最近話題の羽振りの良い物売りじゃねえか〜?」
声のした方を向くと身なりの良くない、日本で言えばだらしない格好をして街中で屯しているような二人組が現れた。
「ホントだぜ、間違いねえ。ババアもいる、俺見た事あるから知ってるぜぇ!」
タチの良くない若者…といった感じか。まともに働いている感じではないし良識を持ち合わせている訳でもなさそうだ。確かなのは好意的な相手ではない事、むしろ何やら悪意がありそうだ。もぞ…僕の胸ポケットで動く気配がした、カグヤが不測の事態を予想したのかいつでも飛び出せるようにしているのだろう。他にも僕の後頭部から頭頂部のあたりに移動している感触がする、これはサクヤかホムラだろうか。
「そこで止まれ!何者かッ!?」
フォルジュさんが僕の前に立ち現れた二人組に誰何の声を上げた。
「あっひゃっひゃっひゃっ!なんだあ、このチビはぁ?」
なめ腐った態度で男の一人がフォルジュさんを見ながら言った。
「ガキにゃ用はねえ!用があンのはそっちの男だよォ!俺たちゃよォ、昨日ちぃっと飲みすぎちまって金がねえんだわ!だけどまだまだ遊び足りねえ。だからよ、貸してくれや!金貨十枚くれえよお!なあっ!?」
金貨十枚といえば日本円にして百万円ほどだ、それをなんで縁もゆかりもないヤツに貸してやらなきゃならないんだ。おまけにロクな目的じゃない。お断りだ、そう口にしようとした時だった。
「ふんっ!!屑鉄にも劣る破落戸めが!!そんな輩がこちらにおわす御方に近づくでないわ!とっとと失せよ、匹夫めが!」
僕の言葉より早くフォルジュさんが二人組に言い放っていた。
次回、タカろうとした二人組にフォルジュは…?
第478話 『フォルジュの実力』
お楽しみにに。