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第476話 姪っ子フォルジュ


 衝撃に備え防壁の代わりにしようとして地面に対し垂直に立てた数台の荷車、その隙間から僕は到着した人物の様子を見ていた。その人物は非常に小柄な…身長150センチにも満たないような女の子である。ガントンさんによれば鍛治の技術に優れているとの事だが…。


「叔父上!叔父上!どこにおられますか!?」


 自分の乗ってきた球体の乗り物…、サ◯ヤ人が移動する時に使う丸型宇宙ポッドみたいなやつを一人で持ち上げさらには投げ捨てて見せた事から相当な怪力だと予想される彼女…。その彼女は誰かを探しているようであたりをキョロキョロと見回しながらしきりに『叔父上』と連呼している。その彼女が僕のすぐ近くにいるガントンさんに気付いた。


「…あっ、そこにおられましたか!あれはいかなる経緯けいいで入手なされたのです?いや、そんな事よりもっ…」


 ずんずんずんずんっ!


 一直線、無人の野を征くがごとくそのドワーフ女性はガントンさんに向かう。


 がっしいいぃぃっ!!!!


「むおっ!?」


 ガントンさんの胸元あたりを両手で掴む、相撲で大柄な力士同士がぶつかり合った時のような激しい音がした。これにはさすがのガントンさんも戸惑っている。


「聞けばあのミスリルを超えたミスリルという素晴らしい地金を用いて短剣を打たれるとか!?そのような場に…、よくぞ…、よくぞ…私をお呼び下されたっ!!鍛治として大成したい私にとってこれ以上の喜びはございませんっ!!たとえ、この身が砕けようとも必ずや叔父上のお力になる事をここにお誓い申し上げ…」


「こっ、こりゃ!落ち着かんかい!」


 ガントンさんが慌てた様子で女性を引き剥がす。


「はっ!?し、失礼いたしましたっ、叔父上!わ、私、未知なる金属、鍛治の技術に触れられるかと思ったら他の事が一切考えられなくなって…」


「あ、相変わらずだべ…。まあ、元気そうで良かったと喜ぶべきところだんべか…」


「おお、そちらにおわすはゴントン叔父上!しばらくぶりにございますっ!!」


 ビシィッ!!…ぺこり!!


 少女然としたドワーフ女性は日本でいうところの自衛隊の方がするような『気をつけ、礼!』といった感じでゴントンさんに挨拶をした。


「なるほどッ!!わかりましたっ!!棟梁のお二人が力を合わせミスリルを精錬なされたのですねっ!聞けば他にも様々な鍛治の技術を会得されたとか!是非是非っ、叔父上様たちが編み出されたその技をっ…、この私にも御伝授下さいませっ!!この通りにございますっ!」


 そう言うとドワーフの女性は地面に正座をして両手をついた。言葉も行動も止めるスキが無いくらいもの凄い勢いだ、そんな彼女にガントンさんが声をかけた。


「あ、あのな…フォルジュ…」


「はいっ!なんでございましょうっ!?」


 女性は非常に良い返事をした、そしてこの人の名は名前はフォルジュさんというらしい。


「その…軽銀や聖銀ミスリルの精錬じゃがな…」


「はいっ!」


「確かに精錬したのは確かにワシらじゃが…」


「はい!まさに偉業っ!神からの下賜物くだされものたる聖銀を…、他にも魔鉄も生産されたとか…。まさにドワーフ鍛治史に残るほどの…」


「その魔鉄も、聖銀も、軽銀も…全部この坊やがワシらに教えてくれたのじゃ。軽銀の材料も…、そして魔鉄と聖銀は神や天からの偶然の産物ではない事を教えてくれたのじゃ。魔鉄も聖銀も他の金属を混ぜ合わせて作る物である事をな…」


「えっ…?ま、まさか、そのような事が…。その…、そちらの方は失礼ながら人族じんぞく…でありますよね?失礼ながら…その、金属…鍛治…については我々ドワーフ族に一日いちじつちょうあり。その我々が知らぬ事を人族の方が知っているなど…」


「それだけではないべ!ホレ…、そこの煙突サァ見てみろ?」


 ゴントンさんがフォルジュさんに声をかける。


「煙突…でありますか?それが…何か…?」


「あれは地下の鍛冶場から上に伸びて来てんだァ。その構造が変わってて、すンごく早く熱くなるだべ。他にも並の鋼を作る時の最適な方法があるンだァ。それで作った鋼は…ホレ、こんなキラキラして…」


 そう言うとゴントンさんは懐から玉鋼の小片を取り出した。


「こ、これはっ!?な、なんという純な鋼っ!?」


 フォルジュさんは覗き込むようにしてゴントンさんが親指と人差し指でつまんでいる玉鋼の小片を見つめる。


「この鋼…、その何か別の金属を混ぜて…いやそれだと純な物にはならぬはず…。いや、でも…それでは純にはならない。い、いったい何を使えば…お、教えて下さい!ゴンロン叔父上!」


「坊や…」


 ゴンロンさんが僕に話を振った。


「え…?僕が言うんですか?」


「そうじゃ、この知識は元々おサァのモンだ。オデが自分の知識みてえに話すモンじゃねえ」


「叔父上…。お、教えて下され、そこの方!どうやってこんな純な鋼を…。や、やはり何か特別な物を混ぜて…」


「何も使っていないんです」


「えっ…?」


「あの鋼…玉鋼に使ったのは砂鉄と二種類の木炭だけです」


「も、木炭ですとッ!?石炭を燃料に使わないのでありますか!?そんな火力の弱い燃料では鉄を融かすだけでどれほど時間がかかるか…、石炭ならすぐに…」


「それなんです、石炭より火力が弱くて時間がかかる木炭だからこそゆっくり、ゆっくり鉄が融けていきます。もし、すぐに融けていくようだと鉄だけでなく不純物が混じり…」


「そ、そんな不便な方法で…」


「その不便が良いんですよ。だからこそ低い温度で融け始める不純物混じりの鉄が最初に流れ出す、そして最後に純な鉄が残る…。これは僕の故郷での話なんですけどね、かつては石炭がれなかったんですよ。だから木炭でしか鉄を得られなかった、もっとも今は石炭を得られますけどね。だけど今でも刀剣を作る鍛治師の方はこの方法で鉄を得ます、たとえ不便でも良い物を作る為に」


「良い物…、確かにこの鋼なら…」


「それだけじゃ…ないで…やんす…」


 フラフラになったベヤン君がいつの間にかやってきて声をかけてきた。


「おじょう…、ついさっき飲んだあの琥珀酒ウィスキーにつまみの肉料理…アレもゲンタ君が用意してくれたでやんす…」


「なんと、あの酒や料理も!?」


 バタッ!!


「ベヤン君ッ!?」


 僕は慌てて駆け寄りベヤン君を助け起こした。


「へ、へへ…。こ、こんな短時間で大砲で行ったり来たりは…さ、さすがにキツかった…でやんす…ガクっ!」


 そう言うとベヤン君は意識を失った、命に別状は無さそうだが…。


「他にもですねェ…機巧からくりを使っての塩の無人販売であるとか、あ…酒もありましたねェ。葡萄酒ワインにも林檎酒シードルにもなる変幻自在の酒を売る機巧からくり…アレを考えたのもゲンタうじでしたねェ…」


「なんと…機巧からくりの事にまで…」


「とにかく…じゃ!」


 ガントンさんがまとめるように話し始めた。


「ワシらはこの町にやってきて坊やと出会い新たに様々な事を知った。鍛治技術はドワーフが随一…とはゆめゆめ思わぬ事じゃ、坊やはワシらが知らなかった事を知っておる。それがなければとても…何ひとつ出来なかったであろうな」


「そ、それほどですか…こちらの御仁ごじんは…」


 フォルジュさんはなにやら呟きながらこちらをしばらく見ていたがやがてキッと引き締まった表情になるとガバッと立ち上がり僕の方にやってくる。そして、僕の目の前1メートルほど手前に来るとフォルジュさんは自分の身を大地に投げ出すような勢いで両膝と両手の平をついた。そして叫ぶような大声で請願を口にする。


「ゲンタ殿ッ!いや、先生ッ!!」


「えっ!?せ、先生?」


 突然なにを言い出すんだ、この人は!?そんな僕の戸惑いをよそに彼女の言葉は続く。


「どうか、どうか私をッ…!先生の弟子にして下さいませぇーっ!!」

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