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第475話 あの人


「た、大砲で撃ち出されるのもイヤでやんすけど…、どうやってあの人を連れてくれば良いでやんすかー!?」


 ハカセさんの暗器あんき…いわゆる隠し武器によって体中をぐるぐる巻きになっているベヤン君が抗議の声を上げている。


「あの人は決めた事を絶対に曲げないでやんす。だから、来てくれと言っても…。そ、そもそも今はどこにいるかだって分からないでやんすよー!会えるかも分からない人に来てくれとは頼めないでやんす!だ、だから、今からでも考え直して…発射をやめてくれでやんすー!」


「そうじゃな、普通のヤツならな。じゃが…」


 砲弾ではなく人を撃ち出す為の大砲を組み立てている手を止めてガントンさんが応じた。


「あやつはバカが付くほどのクソ真面目だ。自分で立てた予定通りに行動する。ドワーフの里を出る時にも綿密な予定を立てておった、その通りに動いておれば今日までは…たしか商都にいるはずじゃ。泊まる所はいつも同じ、鍛冶屋街に近い宿屋じゃろう。そこで声をかけろ。コレを見せてな…」


「こ、これは!!でやんす」


 ガントンさんが示したのは将棋の駒ほどの大きさの直方体、その材質には見覚えがある。超々ジュラルミン…ガントンさんが名付けたところの真の聖銀ことトゥルーミスリルである。


「あやつはクソ真面目じゃ、同時に鍛治バカでもある。この真聖銀を見れば…必ずや来たいと言うはずじゃ」


「そ、それは分かるでやんすが…。い、いや、それでもダメでやんすよ。それだけじゃ来てくれないでやんす。説得しようにも予定通りに行動するって言って…オイラの話を聞きもしないで断るでやんすよ、地金を見せるヒマもなく…」


「そこで…これじゃ」


 ガントンさんは腰に付けた金属製の水筒を留め具から外しベヤン君の衣服の懐中ふところに押し込んだ。


「覚えておるか、この琥珀酒ウィスキーを。これはいつだったか坊やのくれた泥炭でいたんで香り付けをされたというヤツじゃ。あの小さなビンの一本だけしか手に入らない…アレじゃ」


 ああ、思い出した。確かスーパーで最後の一本になっていた売り切れ御免のウィスキーだ。大地の香りがすると初めて飲んだ時にガントンさんは感動して涙を浮かべていたっけ…。


「もう手に入らない可能性が高いと聞いて少しずつ…少しずつチビチビと飲んできたが…最後のひとくち分くらいは残っておる。コレを飲ませて…その間に説得せい!あのクソ真面目もドワーフ族の子…酒に興味を示さぬ訳がない」


「ま、まあ…それなら…。い、いや、それでも厳しいでやんすよ!酒好きなのがドワーフ族なら頑固なのもドワーフ族の特徴、これだけじゃ…。せ、せめてもう少し…、足を止めて話が出来るような物を…酒だけじゃ間がもたないでやんすよォ!!」


「むう、ワガママな奴め。だが、すぐ用意できるのは干し肉くらいじゃ。じゃが…こんな物ではこんな良い酒にとてもとても釣り合わぬ…。話を円滑にするどころか足止めにもならんのう…」


 ガントンさんとベヤン君、僕は二人のやりとりを聞いて考える。どうやら助っ人として招こうとしている人物は鍛治の腕が確かなドワーフ族の人らしい。目的の人物はとても真面目な人柄ですでに立てた予定を変えないであろう事。それを酒を飲ませて話をする時間を稼ぎ、超々ジュラルミンの小片を見せて短剣の製作に力を貸してくれるように説得したいというようだ。


「たしかにひとくちしか残ってないんじゃ説得するにも時間足りないよなあ…。グビッと飲まれたら一瞬だし…。あっ、それならおつまみを何か…。えっと、それなら…」


 僕は自宅に何か無かったか考える、そうだ…冷凍庫にあったぞ。


「ガントンさん、ベヤン君の出発までまだ時間はありますか?」


「おう、あるぞい。まあ、茶を飲む程度の時間じゃが」


「なら、ちょっと待って下さい。その職人さんを説得する時間を稼ぐおつまみを納屋から取ってきます」


 そう言って僕は納屋に入りおつまみを探す…フリをして帰宅、冷凍庫から唐揚げを取り出しレンジOKのタッパーに入れて加熱した。それを持って異世界に戻る。


「ベヤン君!」


「ゲ、ゲンタ君…」


 逃亡防止の為、ぐるぐる巻きになっているベヤン君が涙目で僕の名を呼ぶ。


「おつまみ、持ってきたよ。どこまで役にに立つかは分からないけど丸腰で行くよりは…」


「なんでやんす?その…箱みたいなのは…」


「説明するよりひとつ食べた方が早いかな。熱いから気をつけてね、ハイ…口を開けて」


 そう言って僕はタッパーから唐揚げをひとつ取り出し身動き出来ないベヤンの口元に持っていった。醤油仕立ての唐揚げの香りがかすかに漂う。


「はぐっ!!あっ、あひゃっ!はふうー、はひゃー!…むぐむぐ、ごっくん!あ、熱かったでやんす!だ、だけどすっごく美味しかったでやんすー!」


「ごめんね、僕にはこんな事しか出来ないけど。これで少しは説得する為の時間が稼げるかな」


 僕はタッパーの蓋をしっかり閉めながら尋ねた。


「た、多分…気にいると思うでやんす」


「ようし、用意は出来た!ゴントン、球の中にベヤンを入れて縄を解いてやれ!ハカセは風向きなどを計算せい!」


「おう!」


「フフフ、すでに出来ておりますヨ。進行方向…西からの微風あり、この事から発射角をわずかに下げますヨ。それ以外は問題無し、いつでもいけますねェ…」


「ようし、発射用意!」


「ひ、ひいいいー!!や、やっぱり怖いでやんすー!」


 がしゃんっ!!


 直径1メートルほどの球体にベヤン君は押し込められ跳ね上げ式の出入り口が閉められた。それを大砲の砲身に込める。


「火を着けイッ!」


 ガントンさんの命令が下った。ハカセさんが砲身の後方に松明たいまつを近づける


 シューッ!


 前回と同じく導火線も無いのになぜか着火した火が砲身に近づいていく。その間にガントンさん以下、ドワーフたちが横一列に整列する。


 どかああぁぁーーーんっ!!!!


 凄まじい音と共にベヤン君の入った球体が発射された。それを整列したドワーフたちが敬礼しながらはなむけの言葉を贈る。


「「「「「アァンプ・アーンチ!!」」」」」


 ここに残るドワーフ五人が声を揃えて声を出す。


「バイバ・イキーン!!」


 きらーん!!


 撃ち出されたベヤン君は返事を残し、押し込められている球は西の空に光を残し見えなくなっていった。


「行っちゃった…」


「うむ…」


 僕は何の気無しに呟いた、それにガントンさんが応じた。


「でも、心配はいらないでしょうねェ。あの酒とおつまみで足止めをして…師匠レーラァが持たせた真聖銀トゥルー ミスリルの見本を見たらあの方ならきっと居ても立ってもていられなくなるはずですヨ」


「うむ、そうじゃろう!そうじゃろう!!あの鍛治バカの事じゃ、ミスリルだって触りたくて仕方ないじゃろうにそれを上回る質のミスリルで短剣を打つという話を聞けば自分もその作業に加わらせてくれと文字通り飛んでくるに違いないわい!うわはははは!!…はっ!!?」


 自信満々に笑っていたガントンさんだがいきなり笑うのをやめた。まるで何かまずい事に気づいたかのようだ。


「ど、どうしましたガントンさん?」


「お、お、お前たちぃッ!!急いで大砲を分解し家の裏にしまえ!それと石木せきぼくのテーブルを庭の端へ!球が着地するスペースを確保するんじゃ!他には…荷車を立て防壁とせいッ!あのクソ真面目、真のミスリルを見たらすぐに飛んでくるぞッ!手分けして、急げいッ!」


 号令一下、ドワーフたちが各所に散らばり片付けを始めた。


「坊やッ!マオンッ!た、建物の中に避難しておれッ!あやつめ、きっとすぐに来るッ!」


「えっ!?じゃ、じゃあ、ゴントンさんの時みたいに球が飛んで来るって事?た、大変だ!マオンさん、早く家の中へ!」


「わ、分かったよ!」


 僕はマオンさんを連れて家の中に、その間にもドワーフたちのテキパキとした動きでテーブルと大砲は片付けられていた。今は荷車を建物の前面に立て防壁代わりにする設置作業中だ。


「出来たか!?よし、ワシらは荷車の後ろでしっかり支えるんじゃ!」


「おう、兄貴あにぎィ!」


 そうこうするうちに光精霊のサクヤがソワソワしだした。


「サクヤ?あっ、ガ、ガントンさんッ、きっ…来ます!!多分!」


「なにいっ!?は、早い!早いぞ、あの馬鹿者め!」


「せ、精霊のみんなっ!!」


 僕はサクヤたち精霊に声をかけた。


「そ、空から大きな球が飛んでくる!僕たちをッ…、建物やこの辺りを守るのに力を貸して!」


 サクヤたち四人の精霊は頷くとバッと両手を天に向かって掲げた。次の瞬間、ずらり…たくさんの光…闇…火…水の精霊たちが現れ庭の各所に散った。


「み、みんな…もしかして以前にも力を貸してくれた…あ、ありがとうッ…!!」


 ひゅおおおおっ!!!!


 空気を切り裂くような音が近づいてくる!


「く、来るぞいッ!坊や、伏せろオォォ!!」


 僕は頭を抱えて地に伏せる。


 ずっ……どおおぉぉんっっっ!!!どおおぉぉんっっっ!!!


 立て続けに衝撃二回、伏せた地面に接したお腹からビリビリと伝わってくる。


「ど、どうなった…の…?」


 恐る恐る僕は顔を上げ辺りの様子を見た。どうやら庭の中心に二つの球が着弾したようだ。防壁代わりにした荷車の隙間から地面にクレーターのようなものが出来ているのが見える。さらに言えばそのクレーターにめり込んだ状態になっている球体の乗り物の上部が見えた。


 前回…ゴントンさんが来た時に舞い上がっていた土煙もほとんど上がっていなかった。石粒や土砂が飛んできたわけでもなさそうだ。代わりにふわり…ふわり…たくさんの精霊たちが庭の各所から手を伸ばすなどしている。おそらく魔法のような力があるのだろう、それが今回のほとんど被害が無い結果につながっているのだろう。


「二つの球体…、一つはベヤン君だろうな。もう一つは当然お目当ての人物…」


 そう呟いていると乗り物のうちの一つがグラグラと動き出した。


「あっ、出入り口が下に…」


 某高級外車カウン◯ックの地面に対し垂直に開くガルウィングドアとはちょっと違うがこの球体も横ではなく縦に開く。その出入り口側が下側…つまり地面の方に接する形で着地しているのだ。真っ逆さまという訳ではないが、その為に出入り口が中途半端にしか開かないようだった。


「むう、出入り口が下向きになっておるのう。よし、手を貸して向きを変えてやれい」


 様子を確認したガントンさんが指示を出したその時だった。


 ぐわあっ……!!


「えっ…?あ、あの…球体の乗り物が…も、持ち上がったァ…?」


 なんと乗り物が地面から浮き上がった。その球体の下側に二本の足が見える、つまりたった一人で持ち上げているのだ。


「…な、なんて怪力だ…」


 ふわっ…どすんっ!!


 球体の乗り物が放り投げられたようだ、少し離れた所に音を立てて着地する。


「さて…どんな人が来たのやら…」


 僕はやってきた人物に視線を向けた。


「えっ…?」


 僕は自分の目を疑った、そこにいたのは…。


叔父上おじうえ!!叔父上!!どちらにおられますか!?あれはなんなんです?どこであんな金属をッ…」


 どう見ても身長150センチにも満たない、金髪を三つ編みにした小さな体の女の子であった。


 告白します。今回登場させた新キャラ…、まだ名前考えてないんだぜ…。


 うわあー、どうするか。


 急いで考えよう。

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