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閑話 〜 軽い銀を作る天地(あめつち)の音 〜


「やはりあの雷…、それしか考えられねえ…」


 ちびり…ちびり…と俺は蒸留酒をりながら呟いた。エールっていうここらで出回っている酒の酒精を濃くしたヤツだ。味は良くねえが酔いは回る、強い酒が好きな俺やドワーフ族の奴らも好んで飲む。だが、その分だけ高価たかくつく、まあ仕方のない事だ。


「んあ〜?雷だべか〜?」


 この間の抜けた声で俺の呟きに反応したのは鍛治相棒のビズル、髭もじゃのずんぐりむっくり。コイツは酒の強いドワーフ族の中でも底なしだ。俺がちびちびっているのをよそにガバガバと蒸留酒を胃の腑に流し込んでいきやがる。


「ああ、そうだ」


「んあ〜?だけんどよう、雷なんかで金属が融けるべか?」


 ぷはあ…酒を飲んで一息、ビズルが疑問を口にする。


「解けねえだろうな」


「んあ?融けねえ?」


「ああ、雷だけじゃ無理だろうな」


「ど、どういう事だんべ?」


「多分だが…」


 でかい木製ジョッキを抱えている相棒に俺は考えをまとめながら自分なりの考えを聞かせていく。


くろがねにしたってしろかねにしたって融かすには熱が必要だ、おそらくはあの雷が落ちた木が激しく燃えたのが理由だろう」


「んん?」


「あの軽いしろかね…、『けいぎん』だったか?その元になるあの茶色の鉱石は燃え盛ってた木のかたわらにあった。その木が燃えた熱で鉱石が融けた…、鉱石の片側だけがしろかねのようになり裏側が茶色いままだったのは片側だけがあぶられたからだろう」


「片側だけだんべか?」


「おうよ」


 俺はそう言って焚き火で焼いている串に刺した生肉の切り身を手に取った。


「これを見てみろよ、ビズル。この肉、今どうなってる?」


「片側だけ焼けているべな…。…ああ!そういう事だんべか!」


「分かったようだな、鉄とかを融かすだったら中で熱が反射するように作られているから鉱石の全面が融けるだろう。だけどこの軽い銀とやらの片側だけが精錬されている…、これは燃えた木に面した側だけという事じゃないのか?」


「た、たしかに…。きっとそうだべ」


「んで…、だ」


 手に取った串に刺した肉、そのまだ火が通っていない生の方の側を焚き火に向ける。それからちびり…、俺は蒸留酒に口をつける。強い酒精が口の中を焼いた。


「他の金属と同じでこの軽い銀、こいつを融かすには熱が要る。だけどそれだけじゃ脆い茶色の塊が出来るだけ…。それを混じりっけの無いピカピカの銀に精錬するには雷を浴びせてやりゃあ良いんじゃないか?」


「雷を…だんべか」


 ビズルはよく分からないといった表情で俺を見ている。


「俺はそう思う。ちなみに今までだってこの軽い銀を扱ったヤツもいるんだろ?そいつはどうやってこの金属を精錬したんだ?」


「知らねえ…。地べたに落ちてる小粒の軽銀をたまたま運良く見つけて…。それが長い年月かかって集められたって…」


「つまり鍛治にけたドワーフ族をもってしてもこの軽い銀を精錬する事は出来なかった…ってワケかい」


 串に刺した猪肉の切り身が良い焼き色になってきた、俺はそれを手に取りこの辺りの山間部では高値が付く塩をパラパラと振りかけた。俺の生まれ育った鎌倉じゃあ海が近かったから高値なんて付かなかったんだがなあ、なんならわざわざ金を出してまで買うモンでもなかった。海まで行って水を汲んでくりゃあ塩味なんていくらでも付けられたんだから。


 がぶり…、猪肉の塩焼きを口に運ぶと熱々の脂がその独特の美味さが広がる。良い酒のアテだ、自然と酒も進む。ビズルは酒も底無しだが胃袋もまた底無しだ。バクバクと塩焼き肉を平らげていく。


「もし、この軽い銀を精錬する事が出来たなら…だ」


「ん?」


 食べる手、飲む手を止めてビズルがこちらを見た。


「大儲けになるな」


「大儲け、だべかぁ?」


「ああ、そうだ」


 ちびり…、蒸留酒をる。


「考えてもみろよ。黄金こがねしろかね、それより貴重なんだろ…はるかにな。何倍…、いや何十倍にもなるんじゃねえか」


「何倍、何十倍?何がだべ?」


「ああ、察しが悪い野郎だな!この『けいぎん』ってヤツだよ、金貨や銀貨の何十倍も価値が付くんじゃねえかってんだよ」


「ええっ!!き、金貨のっ!?」


 素っ頓狂な声を上げるビズルに俺はこくり…と頷いた。


「だから…お前も気をつけるんだ」


「へっ?気をつける…何をだべ?」


 間の抜けた返事をするビズルに俺は言い含めるようにして俺は言葉を続けていく。声を低く、そして潜める。


「良いか?金貨や銀貨よりはるかに価値があり、その材料はその辺に捨てられている。タダで手に入るモンで金貨銀貨が何十枚、それが雷さえあれば苦もなく作れるとしたら…どうなる?みんなが狙うだろ?」


「た、たしかに…」


「そうしたら作り方なんてアッと言う間に広まるぞ、みんなか作れるようになったら価値なんてすぐに下がる。考えてみろよ、お前が大好きな金貨…、それがもしそこらへんの道端に当たり前のように転がっていたらどうなる?銀貨…、いや銅貨よりも価値がなくなるとは思わないか?珍しい物じゃなくなったら…な」


「……………」


「だから秘密にするんだ、誰にも言うな。儲けのタネをわざわざ他人ひとに教えてやるコタァねえ。さもなきゃ儲ける事なんか出来なくなるぞ」


「わ、分かっただ!オラ、誰にも言わねえ!!」


 ググッと拳を握り締めながらビズルが応じた。


「ようし、それなら良い。さて…、分かったら今日は飲んで食うか!軽い銀とやらを作れるように英気を養わねえとな、命の洗濯だ!」


 そう言って俺はビズルの背中をバシンと叩いた。

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