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第454話 剣の完成(3) 〜 薄造りの曲剣 〜


 石木せきぼくのテーブルの上に敷かれた布、その上には瓜二つの刀身を持つ二振りの曲剣…。これのどこが違うのか…、僕にはサッパリ分からない。うーん、いて言えば刀身の色合いというか地金の輝きだろうか、しかしそれなら形が違うとは言わないよなあ…。そんな事を考えているとナジナさんが声を上げた。


「ウォズマ…、まさかこれは!?」


 ナジナさんが呟いた。


「気付いたか、相棒」


 ウォズマさんがそれに応じる。


「ああ、分かったぜ!こりゃあ長さも反りも一緒だが違う所が一つだけある」


「そ、それは何ですか、ナジナさん!?」


 思わず気になり僕の声が大きくなった。


「厚さだ、刀身の…」


「えっ!?」


「ゲンタ君、見てごらん」


 驚く僕とは対照的に冷静にウォズマさんは二振りの曲剣を傾けみねの部分を見せるようにした。見比べるとその厚さは一目瞭然だ?


「た、確かに違う…、魔鉄の剣の方が一回りは薄い。で、でも、そんな事したら耐久性が…」


 いくら魔鉄が丈夫でも、衝撃を吸収させる為に軟らかい鉄を使い反りを持たせたにしてもその刀身が薄くなっては自明じめい…。僕にはサッパリ分からない。


「ど、どういう事です!?それこそずっとウォズマさんの左腕に宿った一千人戦力いっせんにんパワーに耐えられる剣を作ろうと悪戦苦闘してきたのに…。う、薄くしたら剣の丈夫さは…」


「失われるじゃろうな」


 ずずず…。


 お代わりの冷たい緑茶を愛用の自作木製ジョッキに注ぎ音を立てて飲みながらガントンさんが事もなげに応じた。


「う、失われるって!?それじゃウォズマさんの力に耐え切れず折れちゃうじゃないですかっ!?」


「落ち着くだ、坊や」


 ゴントンさんが僕を宥めるように言った。


「で、でも…!!」


「なんで薄くしたのか、その種明かしをしてやるだよ」


 そう言ってゴントンさんは完成したばかりの曲剣の刀身を指差したのだった。



「ようく見比べみるだ、坊や。厚さ以外にも違いはまだあるべ。特にこの曲剣の地肌を…、何か気づく事はねえだが?顔をグッと近づけてその違いを探してみるべや」


「は、はあ…」


 よく分からないが言われた通りにしてみる、二振りの刀剣になんの違いがあるのか。厚さ以外の形状は全て一緒の寸法だ、あとは材質の違いか刀身の地肌の色が魔鉄の剣の方が明るい。それ以外はというと…。


 きらっ。


「んっ?」


 色々な角度から見比べてみようと顔を動かして様々な視点から見比べてみようとした時の事だ。


 きらりっ、きらっ。


 陽光が刀身に当たりそれが強い反射光になる部分がある。きっと刃紋というやつだろうか、僕は反射する光が一際強くなる筋のような部分がある事に気付いた。


「これ…、何度も降り返して鍛造する事で生まれる刃紋?なんかめちゃくちゃ多い、しかも幾筋いくすじも…。それに…、あれっ?この刃紋、画像で見た刃紋よりはるかに派手だ…、しかもありとあらゆる場所にたくさん…。なんだこれ…ダマスカス鋼の刃物みたいにありとあらゆるところに木目のような模様…しかも稲妻のような鋭く力強い光の筋が…。ハッキリ言って日本刀の刀身に現れるようなものとは明らかに違う、一言で表せればクッキリと…それが表面に出てきている…」


「気付いたかの、坊や」


「は、はい。この刀身に現れた地肌の紋様…、これは鍛錬を…その折り返し方によってその形の傾向が決まってきます。ずっと一方向で降り続けるのか、あるいは縦横縦横と繰り返すのか…それによって決まってきます。でも、この刀身に現れたこれは単純に折り返しただけではこんな風にはならない…、単純に折り返しただけなら紋様にある程度の規則性が見られるはずです。この刀身にはそれがない、それはなぜ…?」


「その通りじゃ。坊やが教えてくれた鍛治の技術わざ…、その真髄は地金を鍛えて生まれた強き表面を何度も折り返す事によりそれを何層にも重ね合わせる事にある。何層にも渡り重なるそれが強靭さを生む…、しかしその折り返す方向は縦か横かを基準とし繰り返していく…」


「はい、その通りです。他にも手法はあるかもしれませんが基本的には…」


「だが、そうなると強くなる部分が限られてくるとは思わんか?仮に伸ばした地金をずっと縦方向にだけ折り返し続ければ完成した刀身はその方向からかかる力に対し強靭になる。しかし他の…そうじゃな、横方向からではどうなると思う?」


「全く無防備という訳ではないでしょうけど…横方向には鍛えてないから縦からの衝撃と比べたら弱いのでは?」


「その通りじゃ。ゆえに当初ワシは縦横、縦横と折り返す面を交互に…さらには鍛えている上面を張り合わせ次は下面を貼り合わせるというようにした。…確かにこれで上下左右、どこから力が掛かっても鍛えておるから耐久性は増しておる…」


「え?ならそれで問題は無いのでは…?」


「いや、大アリじゃあ」


「へ?」


 問題は無さそうと思えたのだが僕の言葉をガントンさんは即座に否定する。


「力がかかる方向は縦と横だけじゃねえべ。斜めだって…、それに刀剣は切りや払いだけじゃねえ。突きだってあるべ?」


「あ、はい…」


 確かにそうだ、色んな方向がある。


「ましてや仮に獣を狩るにしても切りつけた部位によって力のかかり方は変わってくるだよ。やわこい部分もありゃ、筋肉質な部分。硬い甲羅や鱗みてえなトコを切るかもしんねえし、刃が骨にかかる事もあるべ!極端な話、硬い鱗を切り裂いて柔らかい肉に刃を埋めていったかと思えば弾力あるけんや内臓に刃が絡むかもしんねえ…」


「た、確かに」


「そうなると…じゃ、刀身に思わぬ負荷がかかる事もありうるじゃろう?縦横以外から衝撃がかかったり、急に肉質が変わる事により刀身にかかる負荷の軽重が急に変わったりして余計な力がかかったり…。剣に負担がかかる可能性を考えればいくらでもありそうなもんじゃが肝心なのはあらゆる方向に対し折り返すなりしてその耐性を持たせる事じゃ」


「お、おっしゃる通り…」


「そこでまずは基本となる上から下に向け次は右から左へと縦横と折り返し、次は反対に下から上に向け左から右へと折り返した。これを一つの作業工程とすればあと三回…、つまりは合計十六回の折り返しをすればだいたい鍛錬は終了…坊やの持ってきた紙にはそう書かれている…、そうじゃったの?」


「はい」


 僕はプリントアウトした『日本刀の作り方』というサイトに掲載されていた内容を思い出しながら応じた。


「うむ…。そうなると…、じゃ」


 ずずず…。


 再び緑茶をすするとガントンさんは続けた。


「繰り返したとしてやはりそれは縦横に対する耐久にのみ効果があるとは思わんか?ホレ、こんな風に…」


 そう言うとガントンさんは木製ジョッキを持っていない左手に粘土を持つと器用に羊羹ようかんのような縦長の直方体を作った、そしてそれを二つに折ってくっつけさらにそれを伸ばし再び元の直方体にする。さらにはまたその直方体を折り返す、それを合計四回…つまりは今説明した折り返し鍛錬を粘土で実演してくれたのだろう。そしてガントンさんはジョッキをテーブルに置いた。


「縦横と鍛錬を繰り返した事で縦横それぞれに強い層が出来た、四回の折り返しで十六の鍛錬した強い層じゃ。確かにこの複数の層が出来た事で斜めにもまあ強くはなっていない訳ではない。しかし、決定的な弱点の克服ではない。そこでじゃ…」


 びたあんっ!びたあんっ!


「ガントンさん!な、何をっ…」


 なんとガントンさんは手にした粘土を力いっぱいテーブルに打ちつけ始めたのだった。



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