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第449話 あんこといちご(前編)


 ワインを持って告白に行こう、はたから見れば何言ってんだという感じだけどツッパ君の恋路は上手く行った。


「うおおおっ、ゲンタ君よォ!!」


 この上手く行った恋路の立役者だとばかりに感極まったツッパ君が抱きついてくる。そのツッパ君を終いには祝福する為に胴上げが始まった、フリオ君たち三人にマニィさんフェミさん、僕にフィロスさんと全員参加だ。


 そんな僕たちの様子を見てハンナさんが声をかけてきた。


「ア、アンタ…、いやあなたはマニィのあねさんですかいっ?」


 気合いバリバリの女性暴走族レディースのヘッドといった雰囲気だったハンナさん、それが今ではマニィさんを憧れの人を目の前にしたといった感じのキラキラした目で見ている。


 話を聞いてみれば、ハンナさんの3つ歳上のマニィさんはミーンでも知られた女性冒険者。兵士百人に匹敵するという二つ名付きの冒険者でこそないが若いながらに有望視されていた。同じ孤児院で育ち相棒のフェミさんも同様であるが、赤髪の男勝りといった感じのマニィさんにハンナさんは特に惹かれているという。


「あのブド・ライアー商会の馬鹿息子、ギリアムをぶちのめした話ッ!ありゃあ胸がスッとしましたぜ!あの野郎、普段イキってる癖にアタイんトコには来やしねえ!上等切ってきたらきっちりヤキ入れてやろうと思ってンのにビビり腐って来ねえんだ!それを姐さんがやってくれたんだから…」


 ああ、あの冒険者ギルド前でカレーを初めて売ろうとした時に金を強請ゆすりに来た時の事か。マニィさんが殴りかかってきたギリアムの左右両方の拳を潰し、最後には両肩の関節を外してやった時の…(第108話参照)。


「ツッパ、アンタは姐さんの知り合いだったのかい。だったら早く言いな、そしたらもう少しは愛想良くしてやってたんだから」


 そんな風に言っているがハンナさんもツッパ君を悪くは思ってはいないようだ。そして話は僕たちの自己紹介になっていく。


「へえ…、アンタがウワサの商人かい。もし商品の荷揚げだ、他の所に輸送だって事があるなら遠慮なく言っとくれよ。まあ、ウチも商業ギルドに属しちゃいるが物を売ってる訳じゃないからね。アンタが広場で大商おおあきないしてギルドの連中が目を白黒させてた話は聞いてるよ、やるじゃないのさ!!」


 僕と握手をしながらハンナさんがそんな風に話しかけてきた。


「は、はは。ど、どうも…。その時はよろしく」


 日が沈みゆく中で二人を祝福する声は続いた。フリオ君たちはツッパ君を引っ張って酒場に行くらしい。一方、ハンナさんは商会の仕事がまだあるようで近いうちに酒でも飲もうという事になったようだ。


「ああ、なんかオレも恋愛っぽい事してえなあ」


「私もだよお、マニィちゃん」


「ならよぅ、ダンナ。これからちょっと町歩きでもしねえか?」


「良いねえ、行きましょうよぉ!ゲンタさん」


「えっ?ど、どこに?」


「へへっ、どこだって良いじゃん!」


「うん、ゲンタさんと一緒ならどこに行っても楽しいよ」


 そう言って二人はそれぞれ僕の左右の手を引っ張った。しかしそんな楽しげな僕たちの雰囲気の中、むせび泣く声が一つ。


「う、ううううっ…」


「ど、どうしたんですか?フィロスさん」


 ハンカチを噛みながら嗚咽を洩らしている。


「み、みんなが私を置いていく…。独身ひとりみの沼に私ひとりィィ…、ハッ!!」


 フィロスさんが目を大きく見開いた!


「ゲンタさんッ、私にもっ!私にも『水精霊アクエリアル』をッ!!私、これで結婚相手捕まえるのッ!!」


 この日、僕は一つの恋の成功を見届けさらには一本金貨十枚の高額商品のリピーターを得たのだった。ちなみにこの『水精霊アクエリアル』、フィロスさんの恋の成功にはつながらずもっぱら彼女のヤケ酒に消費されていく事になったのだった。



「あの…、どうしたんですか?あの二人…」


 つーん。


 ツッパ君の恋路が上手くいって数日、冒険者ギルド内では珍しい光景が見られた。いつも仲良しのマニィさんとフェミさんが一言も口をきこうとしない。二人ともシルフィさんや冒険者ギルドマスターであるグライトさんとそれぞれ話はするがお互いではまったく話をしないばかりか極力視線すら合わせようとしないのだ。


「どうしたんだい?いつも仲良しのあの二人が…」


 マオンさんも心配そうだ。


「それがですね…」


 シルフィさんが口を開いた。


「ええっ…、そんか理由で…?」


 二人に聞こえないように声を潜めて僕は応じた。


「はい、あんパンとジャムパン…。どちらが一番美味しいのか…そんな何気ない会話が二人とも譲れない主張になってしまったようで…」


「なんてこったい…」


 聞けば些細なきっかけで二人のいさかいが始まり、それが『この分からず屋ッ!!』『そっちこそッ!!』みたいな言い争いに発展してしまったらしい。


「だが、困った事も事実でな…」


 グライトさんが話し始める。


「二人は受付、何と言ってもギルドの顔だ。その雰囲気が悪いんじゃあ依頼を受けるヤツにも依頼をしに来る顧客にも良くない」


「確かに。そうですよねえ…」


 僕も相槌を打つ。


「そういった訳でよ、新人ルーキー頼んだぞ」


 そう言ってグライトさんは僕の肩をポンと叩いた。


「えっ?」


 なんで僕がなんとかするの?


「そりゃあそうだろう。あいつらは新人ルーキーの持ってきたパンがきっかけで仲違なかたがいしたんだ。それにお前はあの二人を嫁に取る身…。将来の事も考えりゃあ、こりゃあお前がなんとかしなきゃいけねえよな、なんたって今後こういう事が起こったんなら仲裁するのは亭主の役目だ」


「そ、そういうものなんですか?」


「そういうこった。ホレ、上手い事やるんだぜ!」


 そう言ってグライトさんは二人の事を頼んだぞとばかりに足早に自室に戻っていく。うーん、ギルド内にも影響がありそうなんだからギルドマスターとして何かして欲しかったんだけど丸投げじゃないか。


「だけど、二人の雰囲気が悪くなるのは良くないし…。あんパンとジャムパンを発端にした仲違い…か」


 いったいどうやって解決しようか、僕は頭を働かせるのだった。


 次回予告。


 あんこを使ったあんパン、イチゴを使ったジャムパン。


 それを巡ってのマニィとフェミの仲違い、ゲンタは解決に向けて乗り出した。


 「そうだ、元々食べ物で始まった仲違い。それを解決するんならやっぱり食べ物ですれば良いんだ!」


 ゲンタはそう思いつくと日本に飛んだ。


 次回、異世界産物記。


 第450話 『あんこといちご』(後編)


 お楽しみに!

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