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第441話 不便な事を逆手にとって


 玉鋼たまはがねを生産した翌日、昼前になってからガントンさんたちドワーフの皆さんがようやく起き出してきた。三日三晩の製鉄の番は肉体的にも精神的にもかなりこたえたのだろう。普段なら彼ら職人の朝は早い、さらに言えばドワーフ族は肉体的精神的にも頑健がんけんである。よく食べ、よく飲み、よく眠る、そんな彼らが眠りから覚め今はどうしているのかと言うと…。


 ばくばく!!むしゃむしゃ!!

 ずずーっ!!ぺろりっ!!

 がぶがぶ!!ごくごくっ!!

 ぐびぐびぐびっ!!


 塊のまま焼いた肉焼きをナイフでワイルドに切り分けそれを食パンに挟んだものにかぶりつき、それを平らげると今度はラーメンの丼鉢どんぶりばちに超デカ盛りにしたハヤシライスを秒速で平らげる。さらにはその勢いのまま焼酎に手を伸ばした。しかし、コップやジョッキに注いで飲むのではない。なんと4リットルサイズのお得用焼酎のペットボトルの取手部分を掴みそのままラッパ飲みをしている。


「…ぶはぁ〜っ!!…さて坊や、教えてくれ。石炭ではなく、わざわざ木炭を使った理由を…」


 酒や食べ物に伸ばしていた手を引っ込めてガントンさんが僕をまっすぐに見つめ言葉を続けた。


「坊やの生まれ育った故郷では確かに石炭を産出れなかったかも知れん。だが、この場には石炭はあるのだ。それを使えば良い話だが坊やは木炭を使えと言う…。なぜわざわざ火力が弱い木炭を使い、製鉄に長い時間をかけたのだ?ワシにはそれが分からんのじゃ。そして、さらにはあの光り輝く鋼…、あれぞまさに純なる鋼じゃ。たま…はがね…じゃったか、あれがどうして手に入るのじゃ?まさか…、あの木炭…ッ!?あれは何か特別な物なのか?」


 ガントンさんの言葉に力が入る、だが僕は首を横に振った。


「いえ、あれは何も特別な物ではありません。建築にもお詳しいガントンさんなら…」


「た、確かに…。あれは木目が詰まったというだけの木じゃった。間違いない、ドワーフの目にかけて誤りはないはずじゃ」


「その通りです、詳しい事は分かりませんがあの木はなにも特別な物ではないんです」


「では、なぜ?」


「あの木炭は火力が弱い為、砂鉄に含まれた鉄がゆっくり…ゆっくりと融け出していきます。すると融点の低い不純物の混じった鉄から産出され始めます。錆びやすく脆い鉄から…」


「なんと…。しかし、ワシらが石炭を用いて製鉄してもそんなに悪い鉄は出来ぬが…」


 ガントンさんが首を捻る。


「それはガントンさんたち、ドワーフ族の鍛治技術の高さゆえでしょう。僕に言わせれば、『本来なら質の悪い鉄が手に入る事もあるはずなのに良い鉄だけが手に入ってしまった』と…」


「ふむう…」


「そして質の悪い不純物が先に全部流れ出してしまえば…」


「後に残るのは良質な鉄だけだべ!!」


 ゴントンさんが身を乗り出して叫んだ。


「はい。その良質な鉄を使って皆さんが鋼を作ってやれば…」


「なるほど、それがこの光り輝く宝石のような鋼なんですねエ…」


 ハカセさんが玉鋼をしげしげと見つめながら言った。


「石炭が手に入らない事で僕の生まれ故郷では製鉄をしにくい状況にありました。なのでかつては古びて錆びた鉄釘なんかも引っかき集めてまた利用するような感じでした」


 江戸時代なんか火事の後には焼け跡で釘拾いをしてたって言うもんな…、こんな鉄でも貴重た…とか言って。確か江戸時代末期に幕府使節団の一員として渡米した福沢諭吉が現地で驚いた事の一つに道端に缶詰の空き缶が捨てられていた事を挙げたそうだ。日本でだったら考えられない、江戸時代なんか火事の後には焼け跡で釘拾いをしていると…こんな鉄でも貴重た…とか言って鉄を集める日本の民衆と空き缶の鉄に見向きもしないアメリカの国民…。豊かさが全然違うと痛感したそうな…。


「手に入らなかった事で時間と手間をかけてでもやるしかなかった鉄の産出…、それがこのような望外の結果を生み出したんです。不便な方法で製鉄してたら偶然にも玉鋼たまはがねという良質な鋼を得るに至った…、だがしかし石炭があったならどうでしょうか?わざわざ木炭を使おうとはしなかったでしょう。たまたまなんですよ、ガントンさん。この製鉄法が確立されたのは…ね」


「たまたま…のう」


「今は石炭も手に入るので木炭も滅多に使われませんけどね。しかし、今もなお僕の生まれ故郷の鍛治師の方はこうして得た鋼を使っているとか…。いかがです、ガントンさん?これならステンレス…いや、魔鉄を作る為の鋼として使えるのでは…」


「十分じゃとも!これならきっと…いや、必ず魔鉄を作り上げて見せる!」


「んだ!これだけ純な鋼なら銀白石や悪魔の銅もさらに均一に混じるだ!魔力も段違いに練り込めるはずだべ!兄貴アニギ、やってやんべ!坊やのおかげでこれまでにない鋼が得られた!後は…」


「うむ!今日はしっかり休み、明日より魔鉄の精錬に移る!これだけの素材が揃うたのじゃ、失敗などありえん!だからといって者ども、気を抜くでないぞ!まずはワシら、歴史上初の自分達の精錬によって得る魔鉄を作り出すのじゃ!」


 そうしてガントンさんたちは次の日から鍛冶場に篭った、そして見事に期待通りの…従来の鋼より十倍の強度を持つ魔鉄を生み出したのであった。



 次回予告。


 一千人力(一千人パワー)が宿ったウォズマの左腕…。その力に耐えられるだけの強度を求めて新魔鉄を手に入れたガントンたち、その強度は従来の鋼より十倍…、いやドワーフたちの鍛治技術を結集し十五倍もの強度を持つ。これを使えばウォズマの新しい剣を作るのは問題ないと思われていた。


 しかし、剣を作る過程でもう一つの懸念を発見してしまッたのであった。


 次回、第442話。


 『魔鉄でもダメ?』


 お楽しみに。


 


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