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第436話 つり合わぬ剣


「ふむう…。ウォズマよ、ワシにはどうやら打てんようじゃ」


 難しげな顔をしてガントンさんが言った。よく見ればその隣りでゴントンさんも同じような顔をしている。


「…理由を聞いても?」


 ガントンさんの返事にウォズマさんが静かに問いかけた。


「ファバローマとの戦いで折れた剣、あれを見させてもろうた。なるほど、あれは良い鋼を使つこうておる。かなりの名工の品じゃ、打ち損じのカケラも無い」


「んだ、あれは刀身の地肌から芯まで一部のスキも無いだ。刀匠が魂を込めて作った見事な逸品だべ」


 ドワーフの棟梁二人が賛辞を送りながらウォズマさんの愛剣を評した。


「それならばなおの事だ、ドワーフは鍛治にも通じた種族だ。ましてや二人は棟梁の地位にいるんだ、勝るとも劣らない鋼の剣を打つ事が出来るのは他にいないんじゃないのか?」


「確かにワシらならそこらの鋼には負けぬ剣を打てるじゃろうよ」


「だったら…」


「それではつり合わんのだ、お主の力量うでに」


「オレの力量うで…?」


「剣とは戦士が己が命を預ける最も身近な戦友じゃ。その剣がお主に追いつかぬ」


「どういう意味だい?今まで…、オレはずっとあの剣と共にやってきた。それがどうして…」


「お主のその左腕じゃ」


 ガントンさんが静かに言った。


「怪我の影響で腕力が落ちた…というのかい?それなら問題は…」


「弱まったのではない、逆じゃ」


「逆…?」


「強くなったのじゃ、お主の左腕…。その腕にはあのファバローマの力が宿っておる。そう、まさにあの一千人力いっせんにんパワーがのう…」


「んだ、オデも見ていてそう思っただ。ただ、いつも一千人力いっせんにんパワーが振るわれてる訳ではねえんだべ。意識してねえんだろうけどおサの動作のところどころ…、そこに計り知れねえ力強さを感じる時があるだ」


「そう…、それゆえついてこれぬのだ。例えワシらが鍛えた鋼でもお主に宿る一千人力いっせんにんパワーに…。ましてやお主はいざという時に一刀を二刀に持ち直して戦う。だがそれはまさに諸刃の剣よ。剣の厚さが半分になる…、すなわち耐久性も半分じゃ。ましてや強大な力を秘めたお主が振るえば刀身により強い負荷がかかる…」


「おさ、いつ折れるか分からぬ武器に命を預けられるべか?それとも折れないように恐る恐る振るうべか?そっだらモンに命は預けられねえべ、ましてやおさのような凄腕は武器の力も最大限に引き出すはずだべ。そんなヤワな使い方、しねえはずだんべ」


 確かに思い当たる…。ウォズマさんは武器だけじゃない、鎧だって使いこなして戦っていた…。そんなウォズマさんがよりパワーアップしているんだから…」


「つまり前と同じ材質じゃあ厳しいって事なんですね…」


「いや…、しかしそうは言ってもドワーフの棟梁が打つ鋼の武器だ。市場に出回れば一級品だ、それで厳しいとなると…」


 ウォズマさんが唇を噛んだ。


「二つに分かれぬ鋼の剣ならば耐えようもあるじゃろうがそれでは納得できまい?」


「それとも同じ形の鋼の剣を二振り腰に提げるべか…。いや、おさの戦いぶりを見るにそれは相応しくねえべ。余計なモンを身につけていては動きが鈍るだよ、そんな事にはなりたくねえべ?」


「むむ…、確かに…」


「ワシらも少し楽観的に考えておったのじゃ。お主の折れた剣の欠片かけら、あれをギルドの連中が集めておいてくれたのじゃ。ワシらがそれをより精錬し直せばより純度の高い鋼になる…。ましてやホムラやセラの助力があればより質の高い精錬を施した鋼になる…」


「それを使えばより上質な剣に生まれ変わると思ってたんだべ…。悔しいがオデたちの技量じゃその左腕の力についていける剣は作れないべ…」


 落胆気味のガントンさんたち、そこに弟子の一人であるハカセさんが口を挟んだ。


「そうは言いましてもですねェ…、あの鋼を元に師匠レーラァたちが二人して打った剣なら大貴族に代々伝わるような家宝になってもおかしくないはずですヨ。それを上回るような強度の材料なんて魔鉄まてつくらいしか無いじゃありませんか」


「まてつ?それは一体?」


 耳慣れない単語に僕はほとんど鸚鵡返おうむがえしのようにして言葉を発していた。


「ああ、魔鉄というのはですねェ…」


 ハカセさんが僕に説明してくれた。どうやら魔鉄というのは鋼のように硬いものでありながら錆びる事もなく、その為に耐久性に富んだ素材らしい。またその名の通り魔力との親和性もそれなりにあるらしく、鉄や鋼よりも強度があり優れた武具になるという。


「だけどその鉱石はほとんど採れないんですヨ、まさに千に一つ…いや万に一つもない幻の金属なんですヨ」


「ワシにせよ、ゴントンにせよ実際に打った事の無い幻の鉄じゃ。だが、それがあればきっとウォズマの力量に耐えられる剣が打てるかも知れぬ…」


 ガントンさんも悔しそうだ。魔鉄さえあれば…、そんな気持ちが伝わってくる。


「錆びない耐久性、そして強靭な鉄か…。うーん、ステンレスみたいだなあ」


「すてんれす?なんじゃそれは?」


 ガントンさんが尋ねてきた。


「ああ、ステンレス…。正確にはステンレスこうって言うのかも知れませんが…、ステン…これは錆びという意味。レスはナニナニしないという否定の意味、そしてこうはがねという意味です。だから平たく言えば『錆びない鋼』という意味になりますか…」


「ぼ、坊やッ!!」


 がしっ!!


 ガントンさんが凄まじい勢いで僕の両肩を掴んだ。目の前に髭もじゃのガントンさんの顔が迫る。


「な、なぜそれを知っておる!?」


「えっ?えっ!?」


「そうだべッ!!なして知っているだ?坊やッ!」


 ゴントンさんも迫る、迫力あるドワーフの棟梁二人に迫られ僕は戸惑うばかり。


「魔鉄と言っているから世の者どもは魔鉄を鉄だと思うておるって!だが、金属のなんたるかを知っておる者からすればアレはまさに鋼。何かは分からぬがそれに何かが宿っておる…、それがワシらドワーフの見立てなのじゃ。それをどうしてお主が知っておるのじゃ、坊やッ!ま、まさか、坊やは鍛治の心得があるのか?」


「い、いや、それはねえべ!兄貴アニギィ、この手の平はつちを持った事の無い手の平だべ。とても柔っこいべ!」


 ぐにぐに!一方でゴントンさんは僕の手の平を様々に握りながらガントンさんの声に応じている。なんだろう、このカオスな状況…。


「あ、いや…たまたまその存在らしき物を知っていたというか…」


「「知っていたァッ!?」」


 ドワーフ兄弟の声が綺麗にハモった。


「お、教えてくれ!坊やッ!その知っている事をッ!」


「んだ!その『すてんれす』っちゅう鋼の事を!そうすればウォズマの剣もきっと打ってやれるべ!」


「ウォ…、ウォズマさんの剣を…」


 僕はチラリとウォズマさんを見た。そのウォズマさんは僕たちのやりとりを真剣な目で見ていた。何も言わないが…確かに強い気持ちを感じた。


「分かりました」


「ゲンタ…君」


 ウォズマさんの呟きが聞こえた。


「ただ、あまり適当な事を言うべきではないと思いますので一晩だけ時間を下さい。僕の知っているステンレス鋼の事を思い出せるだけ思い出してみますから…」


 とりあえず僕はそう言ってその場を収めてもらった。さて、どうするか…。それをこれから考えよう。


 次回、第437話。


 『魔鉄=ステンレス!?』


 お楽しみに!!

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