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第435話 き…、金塊…?


 ちょっと早いですが新章公開です。


 ミスリルに包丁編、スタート!


 よろしくお願いします。


 魔族ファバローマとの売買をやって良いのか悪いのか、結論から言えばラ・フォンティーヌ様の『かまわぬよ』の一言で事は済んでしまった。


「そもそもそなたの商売あきないは冒険者ギルドを通しての依頼を受けての形をとっていたはずじゃ。ギルドは独立した組織ゆえ領主の裁断を仰ぐまでもない。…まあ、法に反するとか政策に合致せぬともなれば話は別であるがのう」


 しっとりとした石木せきぼくのテーブルに着いたラ・フォンティーヌ様はいつも通り、ファバローマを前にして一切の動揺も無く言った。


「ゆえにゲンタよ。その話、そなたの思うままに決めるが良い。なあに、ギルドを通してとあらば要らぬ税も生まれぬであろうよ。ギルドが手数料を取るからな。個別の商人であらばそれなりの税を納める必要もあるが…、冒険者はそこまでの縛りはないからの」


「は、はい。…で、でも良いんですか?為政者としては税を取った方が…」


 僕は恐る恐る聞いてみた。自分から納税を申し出るとはいささか変な話だがなんとなく聞かずにはいられなかった。


「ふふふ…」


 ラ・フォンティーヌ様が笑う。


「そなたはしん…、モネを預けるほどのな。臣には俸給ほうきゅうを払う事こそあれ取り立てるものは無い。ましてや税をかければそれは物の値に跳ね返ってくるであろう?なあに取る物はキチンと取っておるぞ、たとえばあのゴクキョウ商会からのう」


「えっ?ゴクキョウさんから?」


「そうじゃ。そなたから大量の品を買ったであろう、あれをミーンから持ち出すのに税をかけておる。あれだけの品々じゃ、取れる物も多くなる。しかも自領から取るのではなく、よそから来た者の払う税…。ミーンの民の懐は痛まずに済んでおるのが何よりも良い。それにゲンタ、そなたは我が領の泣き所である塩を手に入れられる。もし下手に税をかけてまた塩の値が跳ね上がったら民が困るだけじゃ」


 うーん、それならファバローマとの酒の取引を始めても良いのかな…。あくまで冒険者ギルドへの依頼の形をとってもらっで…。…いや、これからは取引相手になるんだしファバローマさん…かな。年齢もだいぶ上みたいだし…。


「で、では…。お酒、この焼酎の取引について具体的な話をしていきましょうか」


「うむ、それとあの…、少し飲んでみたが琥珀酒ウィスキーも良かった。あれも所望する」


「良いですよ、合わせてその話もしていきましょうか」


「やったね、アンタ。あの『しょうちゅう』は水みたいに見えて中々酒精は強いし、あの七色にする為の混ぜるやつを使えば様々な味を楽しめる。ねえ、アンタひとつアレも売っておくれよ」


「は、はい。良いですよ」


 かなりの食いつきを見せるダアンジャブさんに僕は若干腰を引きながらも応じる。


「ふむ…、ゲンタよ。七色になると言うのは町のギルド前で買う事が出来るという酒の事かの?以前、何かの噂で聞いた事があったが…」


「おそらくそうだと思います」


「ならばゲンタ、次に屋敷に来る時に…。妾も試みてみたい」


「かしこまりました」


「そうそう、代金はこれで良いかい?これで買えるだけ欲しいんだよ」


 そう言うとファバローマさんの妻であるダアンジャブさんは石木のテーブルの上に布に包まれた物を置く。ゴトリと何やら重そうな音がした。僕との取引の為の代金だろうか、財布のヒモを握っているのは奥さんなのは人間も魔族も一緒なのかな…そう思うとなんだか親しみが少しだけ湧いてきた。


「確認させてもらいます…。う、うわぁっ!!?」


 僕はテーブル上に置かれた包みの布を開いた瞬間に驚きの声を上げた、それと言うのも…。


「き…、金塊…?」


 突如現れた黄金色こがねいろの塊…、僕が驚いているとドワーフのガントンさんとゴントンさんの兄弟がのそりとやってくる。


「坊や、ワシらが鑑定てやるわい」


 そう言うとガントンさんが三、四人で切り分けて食べるくらいのサイズの羊羹ようかんほどのサイズに見える金塊を手に取った。


「ふむ…、純度は九割と三分さんぶいったところじゃ。かなりのものじゃ。ゴントン、どう思う?」


 そう言うとガントンさんはゴントンさんに金塊を手渡した。


「んだ…、兄貴(アニギ)の言う通りだべ。金貨にしたら…そうだべな、百枚は軽く超えるべ」


 そう言うとゴントンさんは布の上に金塊を戻した。


「ひゃ、百枚…」


 金貨百枚以上って…、日本円にしたら一千万円を超えるって事じゃないか…。


「ああ、金貨の方が良かったかい?だとしたらすまないね、ジャラジャラする物を持ち歩くのはどうにも性に合わないんだよ」


「ちなみに…どのくらいの量の酒をお望みで…?」


「そうよなあ…」


 ファバローマ夫妻が考え始めた、同時に僕も日本での焼酎の買値を考える。徳用4リットルで2500円ほど…、1リットルあたり625円。4リットルのウィスキーだと4500円くらい、1リットルあたり1125円くらいか…。


「大樽で買えれば良いが…」


「大樽…?」


「坊や、大樽はだいたい…」


 ガントンさんが大樽の内容量を教えてくれた、だいたい二百リットルくらいらしい。そうなると必要になるのは焼酎を二百リットルで12万5千円…、ウィスキーを二百リットルなら22万5千円…。仕入れ原価とすれば35万円…、あとはサービスとして酎ハイ用のグレープやらレモンやらを準備しても…、うーん。大儲けといえば大儲けだが仕入れてこちらに持ってくる手間と樽を手に入れたりとか…いや、待てよ。


「ファバローマさん、焼酎とかウィスキーですが量が同じなら樽に入れなくても良いですか?」


「どういう事だ?」


「それはですね…」


 そう言って僕は納屋に備蓄してある焼酎の4リットルボトルを取ってきた。


「ふむ…、これは?」


 初めて見るペットボトルにファバローマの視線が注がれる。


「これを50個で大樽ひとつと同じ量になります。なので樽でなくても良いならこれを50個用意しますのでそれで取引といきませんか?さらに言えばこの空になったボトルは水筒代わりとしても使えますし…」


「水筒だと?」


 取手とって付きの4リットルペットボトルを持ち上げ眺めながらファバローマが色々な角度から見上げている。体格の大きな彼が持っているのを見るとサイズ感がおかしくなってくる、なんて言うか少し大きめのピールジョッキを持っているかのようだ。


「水筒代わりってのはこれの事だな」


 そう言うとナジナさんが500ミリリットルサイズのいつも使っているペットボトルを取り出した。


「こりゃあ便利だぜ。なんたって軽い、それとガラスと違って落としても簡単にゃあ割れねえ。こうやってフタを開ければすぐに中身を飲めるんだ。もっともその大きさじゃあ水筒と言うより水瓶みずがめに近えかも知れねえが…」


「良ければその一本、今ここで差し上げますよ。入れ物としての使い心地や味見用に…」


 そう言うとファバローマは4リットルペットボトルのフタを先ほどナジナさんがそうしたように開けた。そして次の瞬間にはボトルに口をつけグビグビの飲み出した。その勢いはナジナさんはおろかドワーフのガントンさんや、ジュウケイさんよりも凄まじい。あっと言う間に半分ほど飲んでしまった。


「気に入ったァ!それで良い!」


 ぷはぁと息を吐きファバローマさんは豪快な笑顔を見せた。


「一人占めしてンじゃないよッ!!」


 ばちいんっ!!


 ダアンジャブさんがファバローマさんに一撃入れると4リットルのボトルを奪い取って夫と同じようにして残り半分を飲み干した。


「こりゃあ良いね、アタシも気に入ったよ!ところでどのくらいで準備できる?」


 そんなに期間は要らないだろうけど…一応用心だ。


「では、十日でいかがでしょう?」


「十日か…待ち遠しいねえ。それじゃよろしく頼むよ!ホラッ、アンタ行くよ!いつまでも遊んでる訳にゃあいかないよ」


 そう言ってダアンジャブさんは夫を立たせ別れを告げる。


「ちょ、ちょっと待って下さい。今お二人がその辺を歩いたら大騒ぎですよ」


 するとカグヤが僕の胸ポケットからスルリと抜け出し宙を舞った。


 ふわり…。


闇精霊シャルディエ…」


 ファバローマさんが呟く。


 カグヤはファバローマ夫妻に向けて手を伸ばす、すると薄闇色の霧のようなものが二人を包み始めやがてその姿を完全に消した。


「あっ、消えた」


「なるほど…、姿隠しの魔法か…。今のうちに町を出ろという事か」


「そうみたいだね。そうと決まればアンタ、行くよ!」


「うむ、ではな。世話になった、礼を言う。ては十日後」


 そう言うと二人の気配が消えていった。


「さて…、妾たちも戻るとするか。あまり屋敷を空けているのも良くないでな。さてゲンタよ、三日後から再びモネの傅育ふいくを再開できるか?」


「はっ、かしこまりました」


「ここに来たのはそれを伝えようと思うてな。それと…水精霊アクエリアルじゃ。あれをまた所望したい」


 あの夜会の時のワインだ…、奥方様は相当気に入ってくれたんだな…。


「かしこまりました、必ずやお持ちいたします」


「うむ、必ずや妾に届けてくれよ。あれは…良い物じゃ…」


「師父様、それではまた後日…」


 そう言うとラ・フォンティーヌ様もモネ様を伴い屋敷に戻っていった。シルフィさんも護衛の為か馬車に同乗していった。


「さて…、オレの話をしても良いだろうか?実はガントンたちに頼みたい事があってね…」


 石木のテーブルに着き直すと今度はウォズマさんが口を開いた。


「オレの振るう剣、それを打ってもらえないだろうか」


「ええぞい。ならばそうじゃな…、怪我も治ったばかりじゃろうから軽くで良い。コレを振ってみるのじゃ。その様子を見てお主の使っていた二振りで一つの剣、体格に合った物を打ってやるわい」


 そう言ってガントンさんは棒切れを二本手渡した。


「分かった」


 そう言うとウォズマさんは庭の隅で軽く基本の型をなぞった。まずは一刀で、後に二刀流で…。その様子を見てガントンさんが何やら難しい顔をした。


「ふむう…。ウォズマよ、ワシにはどうやら打てんようじゃ」




 次回、『つり合わぬ剣』。


 お楽しみに。

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