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第423話 足りない?八百人戦力?打開するウォズマ理論


「に、二刀流…」


 一振りの長剣が二振りとなったウォズマの長剣、それに意表をつかれたのかわずかな戸惑いをにじませファバローマが呟く。


「あれは『双刃(そうじん)』の代名詞、二刀流だあ!」


 反対に野次馬たちが一斉に沸いた。


「この目で見られるなんて!」


「あの二刀流が二つ名の由来なんだろ!?」


 皆の視線が樹上の人となったウォズマさんに注がれている。


「確か…二つ名っていうのは…」


 僕は聞いた事がある話を思い出した。二つ名が付くにはまず一人で兵士百人に相当する実力である事、そしてその二つ名というのは使う武器や戦法に由来するものだという事…。


 ナジナさんならその愛用の武器から『大剣』。ガントンさんゴントンさん兄弟は断ち切れぬもの無し、砕けぬもの無しという事からそれぞれ『豪断(ごうだん)』と『豪砕(ごうさい)』の二つ名。シルフィさんは『光速』、フィロスさんは『魔法姫(プリンセス)』…。


「そしてウォズマさんは『双刃(そうじん)』…。その二つ名の由来があの二刀流…」


 僕の目はその手にしたふた振りの剣を高々と掲げようとしているウォズマさんに釘付けになっていた。



「よもや…まだ切り札を隠し持っていようとは…」


 ファバローマはそう呟き、それにウォズマさんは応じた。


「オレは普段、一刀(いっとう)で戦っている…。だが強敵が現れた時、オレは全ての防御を捨て攻撃のみに全てを賭ける。この愛剣…表裏一対の剣の真の姿を見せ負けた事は一度として無し…」


「変わった得物(オモチャ)を使うか…。どうやら変わった仕掛け…、寸分違わぬ薄造(うすづく)りの長剣を重ね合わせ普段は一刀としているのか…」


 大地に立つファバローマが樹上のウォズマさんを油断無く見据えている。


「防御を捨ていつもは一刀で戦っている剣を二刀にする事によって攻撃の回数は左右それぞれから生まれるッ!!つまり百人戦力(ひゃくにんパワー)プラス百人戦力(ひゃくにんパワー)二百人戦力(にひゃくにんパワー)!!」


 カチリ…。


 ウォズマさんは一度高く掲げた一対の剣を眼前で交差させた、触れ合った刀身がわずかな音を立てた。


「さらにお前の突進の勢いを借りていつもの二倍のジャンプを成し得た。この二倍の高さからの攻撃は威力を倍に高める!!つまり二百人戦力(にひゃくにんパワー)✖️2で四百人戦力(よんひゃくにんパワー)ッ!!」


「フッ…、フハハハハァッ!!」


 ファバローマが突然笑い出した。


「足りぬ、足りぬぞ!ウォズマ!お前の言う通り二刀流で攻撃力が二倍、さらに我が突進をいなしての跳躍で二倍の勢いを生む…まあそれも良しとしよう」


「………」


「だが、最後の一手が足りぬ。うぬが飛び乗ったその樹木、確かにそのしなりには目を見張るものがある。まさに弓の如く、その反動を使って跳躍の勢いを倍化しようと言うのであろう」


「…ああ」


 静かに…、そして短くウォズマさんが肯定した。


「ならば残念だったな、倍化では足りぬ。うぬが四百人戦力(よんひゃくにんパワー)にまで高めた力、それを倍にしたところで八百人戦力(はっぴゃくにんパワー)にしかならぬ。我は一千人戦力(いっせんにんパワー)、その程度の力で我の相手にするには少々足りぬと思わぬか?」


 ファバローマは冷静に分析している。


「まずい…、まずいぞ…」


 僕は思わず呟いた。ウォズマさんの最後の賭け…、それでは力不足だとファバローマは言っている。


「カウンターという我の力を借りての反撃を狙ったが肝心のうぬは人族…。この魔族、ディアボロス種の我が肉体と比べあまりに脆弱(ぜいじゃく)、うぬの力が人の持つそれだ。いかに鍛えようと我が一千人戦力(いっせんにんパワー)の肉体を傷つけるには足りな過ぎるのだ…。それゆえカウンターを仕掛けてもこの肉体…まともに切り裂く事も出来ぬ。それゆえ己が力を一瞬だけ我が領域にまで高めようとしたのであろうが八百人戦力(はっぴゃくにんパワー)では足らぬ、足らぬ…」


「そ、そんな…。あそこまでやって…、たった一瞬に全てを賭けたとしても…

「ダ、ダメだ…。足りねえ…」

「あ、あの『双刃(そうじん)』より十倍も強えなんて…そんなのアリかよ…」


  野次馬たちが呟いた、先程まで沸いていた町衆もすっかり意気消沈している。


「一つ…、見落としているよ。ファバローマ」


「何?」


 そんな中、ウォズマさんはポツリと呟いた、その間にも乗っている木の先端はさらに深くしなっていく。


「知っているか?オレの飛び乗ったこの木は弓の材料にもなる…」


「…バンブー・ウッドか、いかにも知っておる。だが、その木材としての反発力はせいぜい二倍…。やはり足りぬであろうが」


「それは製材し平木(ひらき)にして弓の材料にした場合だ、だがオレが今乗っているのはまさに木そのもの…原木だ」


「それがどうしたと言うのだ?加工しようがしまいがバンブー・ウッドはバンブー・ウッド、その反発力は変わらぬではないか」


「確かに…。だが、木には年輪というものがあるんだ」


「何…?」


「年輪には詰まっている部分、広くなっている部分がそれぞれある。つまり、その内部は不揃い。弓にする時は木材を削り出し年輪の不揃いさが生まれぬようにする、そうでなければ矢は真っ直ぐには飛ばない」


「む…?」


 ウォズマさんの話し始めた内容にファバローマが小さく反応した。


「今、オレが乗っているのは製材前の中の幅は自然そのものの幅が不揃いの年輪がそのままのバンブー・ウッドだ。おそらく跳ね返ってもお前にまっすぐそのまま飛んで行く事はない。右回転か…左回転か…、それを伴いながらオレは飛んで行く事になる」


「ぬう…」


「オレの見立てでは回転も加わり放たれる勢いはただ跳ね返すよりも強まりざっと3倍…、今のオレがため込んだ力を四百人戦力(よんひゃくにんパワー)✖️3でファバローマッ!!お前を上回る千二百人戦力(せんにひゃくにんパワー)だッ!!」


「「「「おおっ!!」」」」


 ウォズマさんの声に再び町衆が沸いた。


「あ、あれが『双刃(そうじん)』のウォズマ理論ッ!!」

「剣の腕はもちろん、いかなる苦境にあっても打開策を導き出すッ明晰なる頭脳ッ!!」

「なんて冷静で的確な判断力なんだ!」


 ウォズマさんに見えたわずかな勝機、それに人々は沸き口々に喝采の声が上がる。


 グググッ……グッ…。


 ウォズマさんが飛び乗ったバンブー・ウッドのしなりが終わったようだ。当のウォズマさんは鋭い視線をファバローマに向けていたがその表情を崩し一瞬だけ片頬に微笑みを浮かべた。


「ウォ…ウォズマ…さん」


 い、いよいよウォズマさんは…そう思うとなぜか僕の口から声が洩れた。




 次回、『ウォズマの長剣』お楽しみに。

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[良い点] 懐かしいセリフだ~
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