第419話 ド迫力パワーと封じられた足
「来る…。くッ!?」
身を沈め構えた敵のボスに対しウォズマさんが対応しようとした、だが、次の瞬間には敵のボスの攻撃がウォズマさんをかすめていた。かろうじてかわす事ができたウォズマさんだが、半ば身を大地に投げ出すようにしてかわしたものだから体勢は乱れている。今、第ニ撃目の攻撃が来たら間違いなくかわせない…。
「フフ…、良いぞ。よくかわした、もっとも…今のはただの脅しだ…。かわせないようでは拍子抜けするというもの…」
「くっ…」
なんとか身を起こし立ち上がったウォズマさんだが驚きの表情を隠せてはいない。
「バカな…、なんというスピードだ…」
戸惑いながらウォズマさんが呟く。
「フフッ、スピードだけではないぞ」
そう言って敵のボスはその剛腕でウォズマさんを殴りにかかる、それをウォズマさんはあの軽い踊るような足捌きで対抗する。ギリギリでかわしすれ違いざまに切りつける、その戦術を再び実行する為に。
「その拳打は先程すでに見切っている!!…な、何ッ!!?」
「ウォ…、ウォズマさんが弾き飛ばされたァァ!?」
ウォズマさんの体が宙を舞う。しかしそこはさすがウォズマさん、空中で体勢を立て直すと綺麗に着地をして素早く立ち上がった。
「そんな馬鹿な!?ウォズマさんはたしかに完全に敵の攻撃をかわしていたのにッ…」
思わず声が大きくなってしまった。
「風圧…か」
「その通り」
「えっ!?」
僕の戸惑いを他所に当事者であるウォズマさんと敵のボスはいたって冷静だった。理解していない僕に訳を話してくれるというのかウォズマさんが口を開いた。
「あれだけの…岩をも砕きそうな剛拳、食らえば当然タダでは済まない。そして…」
「子供でさえ手の平で扇げば少しは風が生じるのだ、我が腕を振るうたならば比べものにならぬ程のものが生じるのは自明の理」
「だ、だからって!ウォズマさんが…、大の大人が吹き飛ぶような風圧が起こるなんて…」
「オレの足捌きが…今はアダになったか…」
「ど、どういう事ですか?」
「その者の足捌き…、その身を極限にまで軽やかに運ぶ事を目的としている、まさしく風に舞う羽毛の如くな。確かにその身軽さは我が拳には有効だ。岩を砕く事は容易くとも羽毛を砕く事は出来ぬ、何事もなかったかのように再び宙を舞うのみ…。だが、いかに軽やかな身と言えど羽毛ではない。浮いた体は地に落ちるが定め」
「つまりはこの…極限にまで高めた身軽さがアダになったのさ、ゲンタ君。羽毛の如きこの身の軽さが災いしてあの剛腕には吹き飛ばされる…。だが、この身軽さが無ければあの剛腕をかわすのは…」
「そ、そんな…。なんて事だ…」
「その自慢の身軽さも我が相手では目算が狂ったようだな」
「ああ、考えてもなかったよ。こんな常識外れの力とやり合うなんて…」
「いかにうぬが策を弄しても我はこの腕を振るうだけで良いのだ。この一千人戦力の前にはいかなる戦術であろうと児戯にも等しい、ただこの力で打ち払うのみ…。弱き者よ、うぬはよくやったが相手が悪かったようだな。最早うぬには打つ手はあるまい、大人しく…」
ザンッ!!
「なっ!?」
ウォ…ウォズマさんが再び剣を構えた。しかも今度は腰を落として…。当然、あの踊るような足捌きは当然していない。
「あ、あれじゃ…あの身軽な動きが出来る足捌きを使えない。羽毛のような身軽さはないから吹き飛ばされる事はないだろうけど…」
「その足捌き無しで出来るかな?その足捌き無しで…」
僕が心配していた事を敵のボスが口にしていた。
「………」
対してウォズマさんは無言のままだ。剣を構え射抜くような強い視線を敵のボスに向けている。
「それが返事か…、ならば」
敵のボスが呟いた。
「餞だ、せめて我が全霊の拳で葬ってやろう」
そう言うと敵のボスは振り上げた腕に力を込め始めた、たちまち膨れ上がる筋肉に浮かび上がる血管。あんな腕で殴られたら…想像するのも怖い。
「全霊か…。まだ余力を残していたとはね…」
自嘲気味にウォズマさんが呟く。
「フッ、うぬはよく戦った。我は今までおよそ五百人戦力ほどの力で戦っていた。数十年ぶりだ、一千人戦力…、再び我が全力をもって拳を振るう日が来るのは…」
「…それは光栄だね」
窮地にあるというのにウォズマさんは…、さらに言えば敵のボスもまた薄く笑みさえ浮かべて平然と話をしている。まるで友人同士が稽古の合間に言葉をかわすかのように…。
「ゆくぞ」
「ああ」
敵のボスが…、そしてウォズマさんが笑顔から真顔に戻った。
「ぬうありゃあああッ!!!」
その剛拳が振り下ろされた。
次回予告。
フルパワー…一千人戦力の攻撃に立ち向かおうとするウォズマ、しかし得意の軽やかな足捌きは封じられている。そんな中でウォズマが取った次なる戦術とは…?
次回、異世界産物記。
『超一流の戦士』。
お楽しみに。