第418話 百人戦力VS一千人戦力
この展開、ずっと書きたかったんや…。
「もらった!!」
ドカアッ!!
凄まじい衝突音がした。
敵のボスの背後を完全に取り、狙い澄ました突きを繰り出したウォズマさん。しかもそれはいつもの優雅にさえ感じる彼の洗練された剣技ではなく、体ごとぶつかって…つまりは自分の勢いや体重までもを使っての重い一撃を放っていた。なんと言うか…、華麗さからは程遠い泥臭い戦いぶりだ。そしてその攻撃は見事に命中、周りの野次馬たちから歓声が上がる。
「やったぜ!!」
「さすが双刃のウォズマだ!」
これで勝ったと大盛り上がりだ。
「や…、やった…ウォズマさん」
かくいう僕もホッと安堵の声を洩らした。苦戦をしていたウォズマさん、万が一の事もあるのではないかと不安だったのだがどうやらそれも僕の取り越し苦労に終わったようだ。
最後は泥臭い結末となったが、そのくらいの事をしないと倒せないとウォズマさんは判断したのだろう。だからこそ自らの体ごとぶつかるように攻撃したのだ、それだけあのボスの力量は強大なものなのだろう。しかし終わってしまえばもう安心だ。
「なん…だと…?」
戸惑うような声が聞こえた、この声は…。
「ウォズマ…さん?」
背後から心臓をひと突きした姿勢から微動だにしていなかったウォズマさんがそこからヨロヨロと数歩後退った。信じられないといった表情…、そして愛用の剣にチラリと視線を向けた。
「オ、オレは全力でやった…。そ、それがなぜ小指の先ほどの傷にしかならないんだ!?致命の一撃だったはずだ…そ、それが…」
そんなウォズマさんに対し敵のボスは余裕たっぷり、ゆったりとした様子で振り返った。
「それはうぬ(お前という意味)と我の実力の差がありすぎるからだ」
「何ッ!?実力差があり過ぎるだと!?言っておくが俺は二つ名を持つ冒険者だ」
「ほう…?うぬは二つ名持ちか」
「聞いた事くらいはあるだろう、二つ名は一定の戦力に匹敵すると認められて初めて名乗れるという事を…」
「たしかそのご自慢の戦力とやらはその者一人で複数の兵士に匹敵するものであったか?」
「そうだ、オレは『双刃』のウォズマ!ここミーンの町でナンバーワンの一人、その実力は百人の兵士に匹敵する。つまり、百人戦力だ!!」
「フッ、たったの百人戦力か…」
兵士百人に相当する戦力と聞いたのに敵のボスは鼻で笑った。
「何がおかしい!?」
「人族のひ弱さに笑うておったのよ、あまりに身の程を知らぬゆえな。そんなうぬに一つ教えてやろう、力の差とやらを」
「力の…、差だと…?」
「我はひ弱な人族と比べたくはないが…、うぬにも分かるように示してやろう。我の戦力はざっと兵にして千人といったところか…。つまり一千人戦力だ!!」
「い…、一千人…戦力…。オレの十倍の実力だと言うのか?」
「そうだ、うぬは百人戦力とやらに相当自信があるようだが…。一千人戦力の我から見れば幼子の戯れにしか見えぬ、身の程を知るが良い」
なんて事だ、そんな力の差があったら勝てる訳が…僕がそう思った時だった。
「そんな偽りに踊らされるオレではない」
そう言ってウォズマさんは再び軽やかな足捌きを見せ始めた。
「偽り…か」
それに対し敵のボスの動きに大きな変化はない、ただ一歩前に踏み出した。
「ならば今度はこちらから仕掛けるとするか。準備体操はこのくらいにしてな」
そう言い放った瞬間、敵のボスが身にまとう雰囲気が変わった。いや、今の今までだって強者のオーラみたいなものはあったけど…。
「くっ!?」
ウォズマさんの口から小さな声が洩れた、もしかすると一番近くで対峙しているからその威圧感のようなものをまともに浴びてしまったのだろうか。
「我を失望させるでないぞ、弱き者よ。せめて一分は我の相手を努めるのだ」
そう言うと敵のボスは先程ウォズマさんが右の拳をくぐり抜けた時のようにその身を低く沈めたのだった。
次回、『ド迫力パワーと封じられた足』
お楽しみに。