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第41話 未知と出会う宴会(5) 缶詰フルーツと白い少女?小女?

 主菜(メインディッシュ)と、焼いた食パンは大好評だった。もともとパンを焼いて町中でパンを販売していたマオンさんから見てもこのパンはとても凄いものらしい。


 まず、誰もが口にする驚きがパンの白さだ。見た瞬間に驚いたように言う。次に焼いて立ち上るパン独特の香ばしい香りに、そして実際に口にしての歯触りや味についてだ。御貴族様(おえらいさん)でもこのパンは口にするのは難しいんじゃねえか?そんな事をギルドマスターのグライトさんやナジナさんが言っている。

 雑貨屋のお爺さんは酔いが回ってしまったようで、しきりにパンを眺めたり匂いを嗅ぎながら感心してるようにも見えるが、もしかしたら酔いが回り過ぎて何をしているか分からなくなっているのかも知れない。


 こんなパンを焼いてみたかったよ…、そんなふうに隣に座るマオンさんが(つぶや)く。長年パンを焼いてきただけに、今まで焼いてきた自分のパンとの差に悔しさのような物があるのかも知れない。


 しかし、長年パンを焼いてきたマオンさんの物と僕が持ってきた食パンにそんなにも差があるのだろうか?何か根本的な事が違うのかも知れない。ここにいる誰もがパンの白さや香りについて驚きを禁じ得なかった。

 これは白くないパンがこの町では当たり前に食べられているという事を示している、香りにも味にも差がある。それを解決出来ればマオンさんならこういうパンを焼けるのではないだろうか、なんとなく僕はそんな事を考えた。


 でも、その為にはパンを焼ける環境を整えなくてはならない。時間はかかるかも知れないが、それが出来れば良いなと僕は一人そう思った。



 そろそろデザートを出そうと、これまた百円ショップで買ったガラス製の丸い鉢皿を出す。調理器具のボールが手の平サイズになったような感じの物だ。


 そして今度は実際の調理器具のボールに冷やしておいた缶詰のみかんや、桃はサイズが大きいので一口サイズに切り分けて入れていく。何が好評になるか分からないので、桃については白桃と黄桃を両方入れた。そして寒天なども入ったみつまめの缶詰を入れた。それを鍋から味噌汁をお椀に注いでいくような要領(ようりょう)で、ガラスの鉢皿に盛り付けみんなに回していく。


「こ、こりゃあ朝に食べた『ふるーつさんど』に入ってた(モン)じゃねえかッ!?」


「間違いありません、この夕日のような色の物は朝と同じ物です」


 ナジナさんとシルフィさんがすぐさま反応した。


「それだけじゃないですよぅ、他にも色々入っていますぅ」


「そうだぜ!この透明なぷるぷるしているのは何だ…?こんな不思議なのは一体…」


 フェミさんマニィさんの仲良しコンビも興味深々。


「あら、アリスの(うつわ)には赤い物も入っているわね」


「本当だ。ゲンタ君これは?」


「あ、それはサクランボですね。あまり数がないので器入っていた人は幸運(ラッキー)ですよ。いわゆる『当たり』ってやつですね」


 ウォズマさん夫妻の話に僕はそう応じた。サクランボはみつまめ缶に入っていた物かな。サクランボが入っていたアリスちゃんは嬉しそうな顔をしている。


「お、俺にも入ってるじゃねえか!へっ、コイツは縁起が良いぜ!」


 少し酔いが醒めたのか雑貨屋のお爺さんも入っていたサクランボに上機嫌だ。


「サクランボが入っていた人は赤い実の所だけ食べてくださいね。(つる)と、真ん中には種がありますからそれは食べないで下さいね。じゃあこれが本日最後の一品、デザートです。果物を蜜に漬けた物になります」


堅果(ナッツ)(たぐい)でなく水果(くだもの)を出して来るとは…、まったく凄い新人(ルーキー)だ。商業ギルドも馬鹿な事をしたもんだ。これほどの物を用意出来る商人…、探しても見つかる物でもあるまいに…」


 グライトさんが真剣な顔で呟いている、スキンヘッドにガッチリとした体格と威厳ある口調は凄い頼りがいのある重厚な雰囲気をまとっている。こちらがグライトさんの真の姿なのだろう。

 そんな事を思っていると、周囲(まわり)のあちこちから甘い、美味しいの声が上がる。


(すげ)えぜ!兄ちゃん!この(シロップ)も水果も…、なんてえ美味さだ!」


「うむ。貴族でもなければ…、いや貴族でも干した果実ならいざ知らずこの種類の新鮮な状態の水果を一度に用意するのは無理だろう」


「それにこの少しトロッとした蜜も合うね」


「初めて食べるものばかりです」


 最後の一品も好評のようだ。安心してみんなと談笑しデザートを口にしようとしたその時、僕は気付いた。いつの間にか僕の右肩のあたりに一人の小さな、本当に小さな女の子がいた。


 小さな女の子。そう、普通に考えれば年端のいかない女の子みたいなニュアンスで使用するだろう。しかし…。


 レジャーシートの上、胡座(あぐら)をかいて座る僕の右肩の前、そこに一人の女の子がいた。小さい、本当に小さい。見たところ身長が30センチ…は無いくらいか。白い袖無しのワンピース…、なんと言うかファンタジー小説なら女神とか妖精が着ているような物をその身にまとう。

 真っ白な肌、肩の所よりは短いくらいのキラキラの金髪、光をそのまま宿したような…そんなイメージが湧いてくる。


 そして…、一番不可思議な事はふわりふわりとその身が浮いている事だ。この子は人間ではない?エルフやノーム、獣人という種族がいるのは分かった。ドワーフなど他の有名所もいるらしい。少しはファンタジー物の小説とか読んだ事もあるからその辺くらいなら分かる。


 しかし、この子は一体どんな存在なんだろう…。まるで察しが付かない。その不思議な小さい少女が無言で僕の方を見ている。ふわりふわり…、相変わらず宙を浮かびながら。



「ゲンタさん、食べないんですか?」


 ミアリスさんが僕にそう声をかけてきた。

 そう言えば缶詰のみかんを一匙(ひとさじ)とって食べようとしていたんだった。


「あ、いや、食べるよ」


 このまま口元でスプーンを止めておいてもしょうがない、何かの拍子にこぼしてしまうのも良くないからとりあえず食べる。みかんの甘みと酸味が口に広がり、シロップのややトロッとした甘みも良い。


 その時、僕はその白い少女が食べたそうな表情をしているのに気がついた。食べたいのかな…、そう思った僕はスプーンでみかんを一匙掬(すく)い彼女に近づけた。欲しかったら食べて良いよという気持ちを込めながら。


 すると彼女は興味深そうにみかんを眺めた後、その小さな指先でつんつんとみかんをつつく。そして、その指先についたシロップをひと舐めしたら驚いたような表情を浮かべた。すぐに彼女はスプーンに掬っていたみかんの一片(ひとかけ)を両手で持って口に運ぶ。サイズ的に凄い()になっている。僕たち普通の人間に例えれば、スイカを四分の一にカットしてそのまま食べるような感じだろうか。


 彼女はみかんを一口食べた途端、驚きの表情と共に美味しいとでも言ったかのような満面の笑顔を浮かべた。その瞬間、あたり一面がまばゆいばかりの光に包まれたが、次の瞬間にはそれがおさまりまた元の明るさに戻った。


「お、おい…、兄ちゃん…。何だ…、そのちびっこいの?」


 ナジナさんが驚いたような表情で僕に問いかけていた。


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