第412話 三騎士たちの悪手。
つながりが悪かったので前話の終盤を加筆しています。
本来は今回の冒頭の予定でしたが…。
「ナジナさん、ウォズマさん」
「兄ちゃん、来たのか」
「ゲンタ君…」
先行していた二人がこちらを振り返った。
「はい。何事かと思ったので…。それにさっきのお二人の口ぶりからすると別に敵対しているとは限らない訳ですよね?」
「あ、ああ、そうだ。武装って言うといかにも侵略って感じだが、それを言ったら俺たちだって…なあ?」
「そうだな、武器に鎧…。オレたちの格好もまた武装だからな。他人のことは言えないよ」
二人は苦笑いをしながら僕に応じた。
「ところで魔族の大軍と言うのは…?」
「ああ、アレだ」
「見えるかい?」
僕の問いかけに二人が南門の向こうを指差しながら応じた。門から伸びる南への街道、通称『塩の街道』を見つめた。
「なに…あれ?」
ミーンの町から南に伸びる街道の先…、そこには何十もの生き物…人型の存在が見える。かなりの大柄だ、多分ナジナさんよりも…。それがなんだろう…、馬車よりも大きなものをぶっとい縄をそれぞれが引いて歩いてくる。
「ミノタウロスだ。牛頭魔族なんて言ったりもするが….、ありゃあ魔族ではねえんだ。強いて言えばその眷属ってトコだな」
「でも油断してはならないよ。見た目通り腕力もあり、頑丈さもある」
そう言っているうちにもミノタウロスたちは町に近づいてきていた。そしてミノタウロスたちが引っ張ってきているものをよく見ると…。
「玉座?そ、それになんだ?あの一際大きいミノタウロスは…」
ミノタウロスたちが引いている…、おそらく車輪をつけた台座の上に玉座のようなものを固定しているのだろう。そこにはさらに大きなミノタウロスが腕組みをしながら座っているのが見えた。ゲームの世界ならどう考えたってラスボスのような雰囲気だ。
「いや、ありゃあミノタウロスじゃねえな」
「ああ…、ミノタウロスの上位種…どころじゃない。存在そのものが別次元だ」
「それがなんだってこの町に…」
「悪い事にならなきゃ良いんだが…」
ナジナさんとウォズマさんが視線を街道の先に向けながら話し合っている。そこに後ろから声がかかった、もっとも誰かに声をかけるというよりはこの場にいる全員に声をかけるような…そんな大きな声を上げてのものだ。
「ええい、道をあけんか!!」
「我ら騎士の馬前を遮るとは何事ぞ!!」
振り返ると馬に乗り、同じ形の黒色にところどころ紫の飾りが付いた鎧に身を包み武装した三人の男たちがいた。
「あれは…」
ウォズマさんが一言呟くと僕を庇うようにその背に隠した。ナジナさんも同様だ。門の前に集まった群衆をまるで押し除けるように騎士たちは進んでくる。自然と道があいた。
「まったく…。目当ての男とやらは見つからんし…。まあ良い、今日で三日の捜索期間は過ぎる。少し早めに領に戻ろうかと思えば道を塞がれようとはな…」
騎士たちが門を出た。
「あいつら、君を探していた例の伯爵家に属する騎士だよ」
ウォズマさんが僕に小声で教えてくれた。その間に騎士たちは門を出て数メートルほど出たところで横一線の隊列をとった。
「マシュー!ガルテオ!ミノタウロス共に疾風突撃をかけるぞ!」
「「おうっ!!」」
真ん中の騎士の呼びかけに左右についた騎士たちが応じ騎兵槍を構えた。ゲームで言うところの魔界に姫を助けに行く騎士が最初に装備していてなぜか投げて使うアレだ。
「疾風突撃!?…って事は、この騎士サンたちは」
町衆の中から驚きの声を上げた人がいた。
「三人の卓越した馬術で近くは騎兵槍、遠くは弩を射かけながら戦うという…」
「き、聞いた事あるぜ!有名な人たちじゃねえか!」
騒ぐ町衆とは対照的に三人の騎士たちは冷静だ。
「ミノタウロス、奴らは力は強いが速くはない。馬を疾走らせ騎兵槍で突撃かばその勢い薄絹を短剣で突くが如し!!奴らのスピードでは追いついてもこれまい、突撃ィィッ!!」
「我らルーグランカスター伯爵領にてその人ありとうたわれた…」
「黒連の三騎士!!アイーガ、遅れるなよォ!」
三人が馬で駆け出していく。
「あっ!!あの馬鹿共、突っこんでいきやがった!」
「まずい!!ここはナタダ子爵領、他領の騎士が自衛の為でもなく戦いを始めては…」
「つ、つまり戦を仕掛けたのは子爵領という事になるんですか?」
騎士たちは凄まじい速さで切りこんでいく。
「わはははっ!いくらミノタウロスと言えども車を引いているとあらば戦闘種ではない、一般種であろう!」
「我らを阻める道理が無いわッ!!」
「おっ、一匹出て来たぞ!」
騎士たちの向かう先、先頭で縄を引いていたミノタウロスが前に数歩進み出た。
「ふはははっ!少しおどかしてやれい!」
三人のリーダー格なのか、アイーガの言葉そのままに騎士たちが突っ込んでいく、その時であった。
「ブンモオオオオォォーッッッッッッッ!!」
低く、野太く、腹に響いてくるような雄叫びだった。前に出てきた一頭のミノタウロス、それが一声上げると騎士たちの馬が嘶き前足を高く浮かし進むのをやめた。
「うっ!!?ぐおおおっ!!」
どたあっ!!
先頭をいくアイーガと呼ばれていた騎士が恐慌をきたした馬から振り落とされ地面に仰向けに落ちた。
「くそぉっ!ミノタウロスめが!!…ああっ!?」
地面に落ちたアイーガが驚きの声を上げた。
「お、俺を踏み台にしたぁゴブッ!!?」
ぐしゃあっ!!
2メートルは軽く超えるであろう体軀を持つミノタウロスが高々と跳躍するとそのままアイーガの顔面を踏みつぶすように着地。その一撃の後、アイーガは声を発する事はなくたたピクピクと痙攣するのみ。
「ア、アイーガぁ!!お、落ち着け!!」
「どうどう!!」
目の前で仲間を殺された残る二人の騎士マシューとガルテオがどうにか振り落とされないように耐え、馬を落ち着かせようとする。
「ば、馬鹿ッ!そこで足を止めたら…」
「ああ、まるで的になるようなものだ」
ナジナさんとウォズマさんが口を開いた次の瞬間…。
ぶうんっ!!!!
ミノタウロスが一際強く裏拳を放つようにその腕を水平に振り抜いた。
「あ、ああ…。た、たったの一撃で…」
僕はその光景に唖然とする。残る二人の騎士はミノタウロスの一撃で馬上から弾き飛ばされていた。首も…、腕も…あり得ない方向に曲がっている。どっからどう見ても命があるようには見えない。
後には主人である騎士を失った三頭の馬が残るのみ。その馬も今は恐れをなし主人の遺体を残しどこへともなく逃げ去った。
「愚かな…」
腕組みをしたままミノタウロスたちのボスだろうか、何やら呟いている。
「確かに彼奴は戦闘種のミノタウロスではないが…。侮ったな、一般種であっても我が下に弱き者は存在せぬ」
ざわ…。ざわざわ…。
野次馬の町衆が騒めき始める。
「あ、あれで戦闘種じゃねえってのかよ…」
「あんな重装備のき、騎士を一撃だぜ…」
全身を金属板で覆った甲冑がひしゃげるほどの一撃…、あなミノタウロスはそれを素手で…腕を一振りするだけでやってのけた。しかもそれが戦闘種ではないと言う…、町衆が動揺するのも無理はない。
「勇将の下に弱卒なし…、だな」
「ああ。だが、まずい事になった。これじゃ戦いを仕掛けたのはこっちって事になっちまった」
苦虫を噛み潰したような顔でナジナさんとウォズマさんが呟いた。