第410話 揚げたパンと白い砂糖
鉄鍋にサラダ油を張り食パンの耳を…、それだけだと量が少ないので耳ではない白い部分もパンの耳と同じくらいのサイズにカットして油で揚げていった。
「うーん、なんだか揚げパンみたいな感じになってきたな」
僕は思わず呟く。
「あげぱん?」
アリスちゃんが小首を傾げながら尋ねてくる。
「うん。今回は切り落としたパンの耳と同じような形にそろえているけど揚げパンというのは長っ細いパンをそのまま油で揚げるんだ。揚がったら味つけに甘いものをかけて…。砂糖ではなく、ココアなんか良いかも知れない」
「ゲンタさん、『ここあ』というのは?」
今度はシルフィさんから問いかけ。
「ココアというのは…、えーと…チョコレートと原料を同じにしていて…。チョコレートみたいに固体のお菓子として楽しむような感じではなく、お湯に溶いて飲んだりします。砂糖や生乳を加えて優しく甘い味わいの飲み物にしたりしますかね。冬とかに飲みたくなる感じですかね」
「まあ、あの血誉呼礼闘と…」
シルフィさんが口元に手を当てて驚いている。うーん、それにしても…チョコレートなんだよ、どうしてそんな物々しい呼ばれ方なんだろうなあ…(血誉呼礼闘については第312話参照して下さい)。
揚げパンは小中学校の給食でも人気ランキングの上位だ…、特に女子が好きなようなイメージ。ココアではなくきなこをかけたものも人気があったりするし…。
「お、揚がった、揚がった」
そうこうしている間にパンが丁度良い具合に揚がった。そして僕は大皿に山となるように盛り付け上からグラニュー糖を振りかけた。
「う、うおおおっ!!今振りかけたのがすごくキラキラしてやがるぜぇ…。に、兄ちゃん、こりゃあ何なんだ?」
食い入るように僕が揚げたパンにグラニュー糖を振りかける様を見ながらナジナさんが問いかけてくる。
「これは砂糖です」
「こ、これが砂糖か!!だけど、聞いてたのよりずっと白いんだな。もう少し薄茶色をしたようなモンかと思っていたがよう…」
「大剣の旦那、こりゃあ…アレだよ」
マオンさんがナジナさんに話しかける。
「ゲンタの塩を思い出してごらんよ、すごく白いだろ?だから『白い塩』と言ってたろう。混じりっけ無しの綺麗な塩だった。だからコレもゲンタお得意の純粋な…『白い砂糖』だよ、きっと」
「そ、そうなのかっ!?兄ちゃんッ!!」
ぐわっとナジナさんの迫力ある顔が近づいてくる。
「え、ええ、まあ」
「す、すげえ。胡椒みたいにこの一口がいくらになるのか気になっちまうぜ…」
ナジナさんは感慨深そうに呟いた。
「まあまあ、それを気にしてたら味を楽しめませんよ」
僕はそう言って出来上がったものを石木のテーブルに運びみんなに勧めた。それに応じてみんなが食べ始める。
「そう言えばゲンタさん、今日振りかけた砂糖は先日のとは少し異なりますね。あの時は粉末状でしたが…」
一緒に夜会に参加したシルフィさんがそんな感想を洩らした。あの時はいわゆる上白糖を振りかけていたっけ…。
「ええ、今回は少し変えてみました。中身は同じ、ですが粉末状か粒状かの違いだけです。ちょっと粒状を試してみたかったんですよ、これなら甘さと同時に砂糖の食感も楽しめたりしないかな…と。どうですか?シルフィさん」
「はい、これもとても美味しいです」
うん、その表情が美味しいと物語ってますよ、シルフィさん。
ぺしぺし!!
脇腹が叩かれる。見れば不機嫌そうにアリスちゃんが僕を見上げている。
「もう、ゲンタ!私をほっとき過ぎ!」
「あ、ごめんね、アリスちゃん」
「ははは、兄ちゃん!結婚前からそれじゃ将来はアリスの嬢ちゃんの尻に敷かれる事は確定だな」
ナジナさんが揚げたパンの耳を食べながら笑っている。揚げたての香ばしい香りをさせたパンの耳はみんなに好評のようだ。僕たちだけでなくサクヤたち精霊もまた笑顔で食べている。
「いやぁ、こりゃ良いな。初めて味わう感覚だぜ。甘いだけじゃねえ、油で揚げたからか…、なんて言うか満足感もあるしな」
特に大食漢であり甘いもの好きでもあるナジナさんはご満悦だ。
ある人は緑茶を、またある人は紅茶を飲みゆったりとした時間を過ごしていると突然焦ったような声を上げる人がマオンさん宅の前を駆けていった。
「た、たいへんだ、たいへんだァ!ま、魔族だ!魔族が町にやってくるぞぉ!た、大軍だあ!!」