第396話 お邪魔虫
「な、なんだ、これは!」
「パン…それもこんな白いもので…。まるでこれは雪、純白の雪ではないか!」
「王宮でもこれは出せないのではないか…?」
「そ、それにこの使われている大皿は銀で出来ているのか?銀食器を…、しかもそれをこんなに沢山揃えるとは…」
食べ放題のレストランなどでよく使われるステンレス製の薄い大皿に綺麗に並べられたサンドイッチを見て客たちが騒めいている。この大皿は日本に戻った時に厨房器具専門のリサイクル店から購入してきたものだ。廃業してきた飲食店や宿泊施設などから買った物を扱う店舗だ。それを研磨剤でよく磨いたら新品同様ピカピカになった、たしかに銀食器に見えるかも知れない。さすが研磨剤ヒカール先生、良い仕事です。
磨き上げるのには孤児院の子供たちに手伝ってもらった。ステンレス皿は大量に購入したためなんといってもまず手数が欲しい。そんな訳で彼らを雇い何枚も磨き上げたのだ。
立食形式という事もありナイフやフォークを使わなくても気軽に食べられるものも…、そう考えてサンドイッチをメニューの一つに加えた。なんといっても作り置きができるからというのも大きい。減ってきたらあらかじめ盛ってある大皿と換えれば良いだけのことだから。
「おほっ!このパンに挟まれているのはッ!?」
ポテトサラダにカレーパウダーを混ぜたものを挟んだサンドイッチを食べた人が叫んだ。
「こ、香辛料ッ!香辛料だ!ふんだんに使って…」
「な、なめらかぁ〜…」
感嘆の声が洩れた。やはりカレーは上流階級にも効果は抜群らしい。他の卵サンドやハムサンドもまた大好評。女性限定と銘打ったフルーツサンドはご婦人方による争奪戦が繰り広げられた。甘い物は人心をも乱すらしい。
あまりに激しい熱狂にフルーツサンドのコーナーは大混乱であった。
「あ、あの、こちらにも甘い水果がありますので。南の島で穫れる黄金色の果物ですよ」
たまらず僕はもう少し後に出す予定だったパイナップルの輪切りなどを前倒しして出す事にした。一口サイズに切られたパイナップルに爪楊枝を指して並べてある。
ぐるり…。
女性たちがこちらを振り向いたかと思うと押し寄せてきた。
「う、うわああああっ!?」
雪崩のように押し寄せる女性たちに飲み込まれそうになった僕だが、そこをシルフィさんが救った。僕を連れて少し離れたところに短距離瞬間移動をした。
「そっらあ!」
「アタシのよッ!」
「手を離しなさいよッ!」
ここに来れるくらいなんだから富裕層とか上流階級の女性たちなんだろうけど、目の前で繰り広げられているのは見るも激しく醜い争奪戦。押し合い圧し合い私が私がとパイナップルに手を伸ばす。
「ババアの意地汚さが炸裂だな…」
グライトさんがしみじみと呟いた。
「新人、よく見ておけ。人なんて普段は上品ぶってる奴でも一皮剥けばあんなモンさ」
「マスターも呼ばれてなくてもゲンタさんの所に来ちゃいましたから…」
「あ、あれは仕方ない。それに俺はお上品階級じゃねえからな」
澄まし顔で女性客たちの惨状を語っていたグライトさんだが、シルフィさんの一言で焦った表情に変わった。僕はそんなやりとりをクスリと笑いながら会場を見回した。
他にも色々用意した、まずは酒。これは何種類もサンプルを用意したが結論から言うと大型紙パックに入った赤ワインが選ばれた。これを出しても問題はない…というか飲みやすい部類に入るとのこと。濁りや澱のないこういったものは大変珍しいらしい。さすがに紙パックのままでは出せないので大きなデキャンタに移した。それを侍女が希望者のグラスに注いでいる。たしかに皆さん味に満足したようで盛んに飲んでいる。
用意した食べ物は大好評だったが、例外的に手がつけられない物もあった。サーモンのマリネである。
「これは生の…」
「さ、魚に火を通さないなんて…」
客たちが尻込みしている。
「ゲンタさん…」
料理の取り分けをする侍女の方の助けを求めるような視線に僕は応じた。
「あ、これはマリネという料理で…」
僕は料理の説明をするが…。
「まぁったく正気を疑いますわ!」
やってきたのは件の伯爵令嬢。
「魚を生で食べるなんて…。まあ、百歩譲って漁師の中にはそういう方がいるとは聞いた事がありますが…、あくまでそれは釣りたての海の魚…。ミーンは山奥、獲れたとしても川魚。そんな物を食べたらたちまち体を悪くしますわ!このルーグランカスター伯爵家が長女、アザレアが断言いたします!とても食べられたものではないと!」
キッパリと、指までさして令嬢は言い切った。
「ル、ルーグランカスター伯のッ!?」
「こ、これだッ!?」
そんな声と共に駆け込んできた人影ふたつ。
「私はこの町の商業ギルドの副組合長ブド・ライアーと申しますッ!塩を初めとして様々な物を扱っています。魚もその一つ、この町では生の魚は川魚しかありませぬ!」
「お、俺は組合長のハンガスですッ!町に沿って流れる川は泥で濁りがち、身に泥の臭みも移っちまう!そ、それに海で獲れる魚は山間のこの町に来るまでには腐っちまうから…」
「そうです、だからこの町で扱う魚は干魚しか無いんだ。ですが今回、子爵邸におかれましてはそれすら納品してはいないのです!それにコイツは冒険者ギルドの者、きっとモノを知らぬのです。だから得体の知れぬ生の魚を出した、扱う事の難しいのにッ!」
横から出てきたブド・ライアーとハンガスがここぞとばかりにわめき散らした。
「そりゃあ口に出来ないでしょうよ、ブド・ライアー商会の低品質クサレ魚じゃ…」
「なんだとッ!」
僕が応じるとブド・ライアーがケンカ腰に身を乗り出した。
「待ちなさい、この者の商品はともかく口に出来ないのは明白ッ、明白、明白ですわ!」
思わぬ味方の出現に伯爵令嬢は二人の肩を持った。その様子にハンガスもブド・ライアーも気を強くしたかニヤニヤ笑ってこちらを見始めた。
「ほう…、食えたものではないと…」
新たに横から声がかかった。
「あ、あなたは!?」
「バ、バラカイ氏」
驚く商業ギルドの二人、現れたのはザンユウさん。
「あ、あの食通の…」
「王宮の晩餐会の監修もするという…」
突如現れたザンユウさんに周囲がざわつき始めた。
「これだけ見事な手並を見せている主催者側に手落ちがあるのか…、この魚…私が試みてみよう」
いかがでしたでしょうか?
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作者から皆様に聞いてみたい事があります。
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作中に登場するキャラで男性、女性、それぞれの人気ベストスリー(合計六人)をあげるなら誰になるでしょうか?
是非、教えて下さい。