第392話 閑話 グビグビグビグビグビッグビ♪
タイトルなんですが、
アニメ一休さんのオープニングテーマをイメージして口ずさんでいただければ幸いです(笑)
ナタダ子爵邸で開かれる夜会の前夜…。
ミーンの町にある一番高級な宿に泊まる者がいた。ルーグランカスター伯爵家令嬢アザレア、その人である。
「ゲエップゥゥ…」
肉の匂いたっぷりの大きなゲップを吐いてアザレアはテーブルの上のすっかり綺麗になった皿の上にナイフとフォークを置いた。
「ブフゥゥ、森鹿が手に入らなかったからせめて巨大猪を…と思ったのですがそれも手に入りませんでしたわね…」
ナプキンで口元を拭いながらアザレアは残念ですわと呟く。代わりに…と肉質柔らかく匂いも薄い猪の幼いものを手に入れて宿の厨房の者に丸焼きにさせた。お付きの執事と侍女に毒味をさせた後、残った全てを腹に収めた。肉、肉、パン、肉、肉、肉、肉、パン、肉…思い出したようにたまにパンを食べる以外は肉だけ食べ続けた。
テーブルの端の皿とは違う器にはアザレアが貪り食べた猪の骨が無造作に置かれている。これもまた幼いとは言え猪一頭をほとんど一人で完食した証であった。
「姫様、いよいよ明晩はナタダ子爵邸での夜会にござりますれば…。そろそろアレのご準備を…」
遠慮がちに執事が声をかけてきた。
「ブッフゥ?まだ良いんではなくって?このまま満腹の喜びに浸っていたくってよ…。ブッフゥ…、ブワァァァ〜…」
アザレアは満足そうな様子で目を細め、一つ大きな欠伸をした。
「あ、あ、あ!姫様、またそうやって!以前そのまま眠ってしまわれて痩身ポーションを飲み忘れた事があったではありませんか」
そのまま眠ってしまいそうなアザレアに侍女が慌てた様子で声をかけた。
「そうだったかしら、ブフゥゥ?」
「はい、それで痩身するのに間に合わず泣く泣く夜会に参加するのを諦めたではありませんか…。ほら、商都のマンタウロ商会の時に…」
「ブッフゥ!?思い出しましたわ!たしかトサッポンの魚を丸々干したものを饗じた…」
「左様にございます。生ではない、かと言ってカチカチになった干魚でもない…、頭から尻尾まで丸ごと食べられると話題になった…」
「そうでしたわ!ナイフもフォークも使わず両手に持ってかぶりつく者が続出したという…、それを聞いた時には参加出来なかった事をあれほど悔やんだ事はありませんでしたわッ!」
「此度は山間の子爵領にてどれほどのものが出せるかは存じませんが、味はともかく見た事がないものが出るやも知れませぬぞ。…さあさあ姫様、ご準備を」
そう言って執事は五十本は軽く超えるであろうかという呪いの…、痩身ポーションと呼んでいるそれをテーブルに置いていく。先程まであった猪を平らげた食器はいつの間にか侍女の手によって片付けられていた。次から次へとアザレアが料理を平らげるゆえ身についた流れるような配膳の技術であった。
「五十本…いえ六十ほどですわね…ブフッ!!半刻(約一時間)ほどで飲み干してやりますわ。いざ!」
アザレアは両手にポーションビンを持って次から次へと一気飲み。
グビグビ、かちゃん…、グビグビ、かちゃん…。
飲み干す度に鳴らす喉の音、空になったポーション瓶を置く音が交互に響く。アザレアの手は止まらない。
宣言通り半刻もしないうちにアザレアは全ての衰弱剤を飲み干した。まさに見事な飲みっぷりであった。
「ふう…、やってやりましたわ。どうかしら?」
アザレアは椅子から立ち上がり、その姿を執事や侍女に見せた。ブカブカになった…、まるで幼児が大人の服を着たかのように不釣り合いな様相である。しかしながら…。
「お美しい、お美しゅうございますぞ、姫様!」
「はい、まさに大輪の花のようでございます!」
執事と侍女がアザレアを褒めちぎる。だがそれは決して言い過ぎには当たらない。そこには見事な巻髪の…華やかな令嬢そのものが立っていた。
「当然ですわ!わたくし地位、富、美貌、全て備えておりますのよ!完璧、まさに完璧なのがわたくしですの!」
自信満々の口調、さらには手の甲を口元に当て高笑い、…ある意味で完璧に仕上がったキャラクターだった。
「さぁて、明日はどうなりますかしら?まぁた、わたくしが主役になってしまうんではなくって?まあせいぜい踏み台になっていただきますわよ、モネさん」
アザレアはニヤリと笑った。
「それでは姫様、続けてお髪を整えておきましょう」
「明日で良いのではなくて?そろそろ横になりたいですわ。寝ながら焼菓子でも食べませんと…、馬車から一樽持ってきて頂戴」
「姫様、それでは明日の朝には元通りにございますぞ…」
執事がため息を押し殺しながら諫め、侍女は何も言わずアザレアの髪に櫛を入れる。夜会はあと一つ寝ると訪れる、静かな夜であった。
いかがでしたでしょうか?
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次回予告。
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次回、ゲンタは決意を新たに…。