第390話 おネェさん、再び!
ヒョイさんたちとの話し合いを終えるとシルフィさんの短距離瞬間移動を数回繰り返してもらう事によりマオンさん宅に戻った。シルフィさんとはそこで別れ僕は一路日本へ…。
だだだだだだっ!!
僕は自宅アパートを飛び出すと最寄り駅である『こちらヶ丘遊園駅』に走った。傾斜のある下り坂、速い速い。駅に駆け込むとタイミングよくやってきた電車に飛び乗る。目指すは新宿だ。
乗客の少ない私鉄、今は非常事態宣言中。街に人がいない。新宿までは二十分少々…、電車に揺られる間にスマホで通販を検索する。即日出荷可能なお目当ての品を見つけた、躊躇なく購入。すぐに自宅アパートへの発送手続きをとった。
新宿に着くとすぐさまお目当ての店に向かった。それは手芸の専門店、僕はここで様々な布地を買った。特にウェディングドレスに使われるような布地を中心にした。後は異世界では珍しい色や光沢、あるいは柄が入っている物を…。
アザレア伯爵令嬢が着飾ってくるというのならこちらも堂々と迎え撃つ。向こうは高級なシルクを使ってくるだろう、ならこちらは現代産業で作った布地で迎え撃ってやる。あちらの技術では作れないような薄く透けるような布地だってある。手芸専門店では手作りウェディングドレスを作るような人向けのコーナーもあり、布地だけでなくスパンコールなどの品々もある。これがあれば夜会にふさわしいきらびやかなドレスにもなるはずだ。
その他にも激安で有名な店に急ぎ一通りのメイク用品を…。買いすぎな気もするが今は気にしない。そのまま電車に乗りアパートへ戻った。
夕陽がちょうど沈んだ。部屋に戻るとそのままミーンに向かった。すっかり暗くなり人通りがなくなった町の中、光精霊サクヤが辺りを照らしながら先導し、カグヤたち他の三人の精霊たちが僕を守るように周囲を浮遊する。
はあはあと息を切らしながらヒョイさんの社交場へ。顔見知りの兎獣人族の子とバッタリと出会した。リュックに、そして両手に荷物を抱えて中に…。
「おお、ゲンタさん!ずいぶんとお早く…」
ヒョイさんが出迎えた。
「それが仰っていた布地ですな。仕立ての職人は既に呼んであります」
紹介されたのは眼鏡をかけクセのある茶色の長い髪を後ろで束ねた神経質そうな男性。口数は少なく不機嫌そうな顔をしている。
「ピースギーと言います、腕の確かな職人でしてね…」
「……………」
紹介されたピースギーさん、職人肌の人かな?それなら無駄口を叩かない方が良いな、僕はそう思い布地を全て広げて見せた。
「あ〜ら!!」
途端にピースギーさんの表情が変わった。
「何これぇ!?アタシ、こんな布地見た事ないィィ!?なぁにコレ!?なぁにコレ!?こんな光沢、こんな均一の、向こう側がスケスケになるような布もあるじゃない!きゃあ〜、いやらしいわぁ〜!!ダメよぉ、こんなのぉ!ダメダメ!」
駄目だ駄目だと言いながら体をクネクネさせながら満面の笑みだ。ま、まさか、ピースギーさんはおネェさんか!?
「それにこの麗糸?これも素敵よォォ!あぁん、こんな布地が見れるなんてアタシ幸せェェ!で、でも悔しいわぁん!他の布地はともかくこのスケスケちゃんを縫うにはアタシの手持ちの糸や針じゃ太すぎてぇんッ!!アタシ、太いのは好きだけどコレじゃダメぇん!!せっかくの布地が死んじゃうわぁん!!」
裁縫箱から針と糸を取り出して布地と見比べながらピースギーさんがイヤイヤと首を振る。あ…、確かに太いな。町中で見た事がある針よりは細いがそれでも日本で見かけるものより太いのは一目瞭然だ。あの太さでは他の布地はともかく薄手の布地などを裁縫するには縫い目などが目立ってしまうかも知れない。
「それでしたら…」
僕は新宿で買ってきた各種縫針が全部で百本入ったセットを差し出した。太いのから極細なものまでが入っている。そう言えば新宿って二丁目があったよな。深い意味はないけど…。
「…ッ!!?」
おネェさんか息を飲んだ。
「あと、もし使えるようでしたら…」
僕はリュックの底の方に入っていた色とりどりの糸を取り出した。少なくともこのミーンでは見た事がない鮮やかな赤や青、レモンイエローやオレンジ色もある。
「それと飾りつけに使えれば…」
金属やアクリルなど材質様々、色も様々のスパンコールを取り出した。
「ア、アタシ、やる!!」
凛とした表情でピースギーさんか言った。
「これだけの布地、針と糸、装飾品…、これだけあればなんだって作れるわぁんッ!!今、アタシ燃えてるの!お洋服作りたくて作りたくてウズウズしてるの!!この針と糸があれば今まで出来なかった細工もきっと出来るわぁん!アタシ、こういうのが欲しかった…、欲しかったのよォォ!」
絶叫だった。
「そ、そうですか…。も、もしよかったら作り終わって残った糸とか、その針はお礼に差し上げますよ」
「ホ、ホントにィィッ!?」
ピースギーさんがより一層高い声を上げた。
「ヒョイおじ様、アタシこの針がもらえるなら今回ギャラはいらないわ!ぬ、ぬふふふふ…。三日後でしょ、三日後の夜会でしょ!不眠不休よッ、一着なんてケチな事は言わないわ!これだけ材料があるんだもの、作って作って作りまくるわよォォ!」
何やら両手をニギニギしながら呟いている。
「これで安心ですな、ピースギーがやる気になれば完成間違いなし。良かったですな、ゲンタさん」
「ゲンタ…ちゃん?」
ヒョイさんの言葉にピースギーさんがぴくりと反応した、目と目が合う。
「きゃああああん!あなたがゲンタちゃんだったのねぇん!イッフォーから話は聞いてるわぁんッ!『いもうと』がお世話になってます」
「い、妹?…って事はイッフォーさんの…お、おネェさん?」
あっ!?また発音がおかしくなってしまった。
「そうなのよォォ、血はつながってないけどね。よろしく、ゲンタちゃん」
そう言うとピースギーさんは腕まくりをした、けっこうたくましい腕をしている。
「さあ、始めるわよ!!」
「えっ、ピースギーさんお一人で何着もドレスを?」
「いーえ、違うわぁんッ!」
そう言うとピースギーさんはパンパンと手を叩いた。
「「「はぁ〜い!!」」」
すると部屋に三人の男性が入ってきた。
「紹介するわねぇん!アタシの妹たちよォ!カルーセ、メラヨーシ、ミカワーケンっていうの」
「「「よろしく〜」」」
「じゃあ、さっそくヤるわよォォ!!」
「「「はぁ〜い、お姉様!!」
そう言うとピースギーさんたちは作業を開始した。
「これでドレスは大丈夫ですな」
「はい。ありがとうございます」
「ゲンタさん、次は何を…」
「そうですね…、ミミさんたちに…」
僕は夜会の準備をさらに進める事にした。
いかがでしたでしょうか?
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次回予告。
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創作意欲あふれるピースギー。
そのアイディアは次から次へと…。
作りたい欲求がもうどうにも止まらない彼女(彼?)にゲンタは…?
次回、異世界産物記。
『その名はお色直し』
お楽しみに。