第381話 才能の片鱗
今回のゲストキャラは日本のゴッホ、あるいはアンリ・ルソーの水準に達していると言われたあの方。
ご存知の方、いらっしゃいますかねえ
「お、美味しいんだな。ど、どうもありがとうなんだな」
ゴッホルソと名乗った男性は美味しそうにマオンさんが焼いたパンをもしゃもしゃと食べながら満面の笑みを浮かべている。
「と、隣の町を出てから、パ、パンとか食べ尽くして…。んぐんぐ…た、食べられる木の実とか…く、草を…た、食べながら…あ、歩いてきたんだな。そ、そ、それでなんとかこの町に、つ、着いたんだけど、お、お腹が空いて…た、倒れてしまったんだな」
「そうだったんですか。この町には何かの用事で?」
ゴッホルソと名乗った男性に僕は気になった事を尋ねた。
「ぼ、ぼ、僕は、た、た、旅の途中なんだな」
「旅、ですかぁ?」
フェミさんも興味を持ったのか質問を口にした。
「そ、そうなんだな。ぼ、ぼ、僕は、え、絵を描く事が、す、好きで、え、あちこちを歩いて回って描いてるんだな。こ、この町に、つ、着いて、絵に描けそうな、ば、場所を探して、あ、歩いていたら…むしゃむしゃ…、こ、孤児院が、み、見えたんだな。そ、それで、き、来たんだな。ぼ、ぼ、僕も、こ、孤児院で、そ、育ったから、な、懐かしくなったんだな。そ、それで来て、み、みたら、ち、力がで、出なくなっちゃったんだな。お、終わり」
自分の話を終えるとゴッホルソさんはよほどお腹が空いていたのか二つ目のパンにかじりつき一心不乱に食べ始めた。
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「ゴッホルソのおじちゃん、こっちこっち!」
「だめぇ!!今、私の似顔絵を描いてるの!」
空腹で倒れたゴッホルソさんを介抱し、僕たちは孤児院に入りシスターに持ってきたパンを渡した。そのわずかな時間でゴッホルソさんは孤児院の子供たちと仲良くなったようで早くも人気者になっていた。
「うん…。な、なかなか上手に、か、描けたんだな」
その辺に転がっていた木の枝を絵筆代わりにゴッホルソさんは子供たちの似顔絵を地面に描いていた。絵の具など当然無い、でこぼこの地面に木の枝で引いた線だけの表現がなんともまた味わい深い似顔絵になっていた。
「こりゃスゲーよ!」
「上手ですねぇ」
マニィさんもフェミさんも大絶賛だ。
「ゴッホルソさんは画家なんですか?」
僕はなんの気なしに尋ねた。
「ざ、残念ながら、ち、違うんだな。ぼ、ぼ、僕は絵は、す、好きだけど、そんなに立派なモンじゃ、な、ないんだな」
「そんな…、こんなに上手なのに」
「だ、だって絵の具は、た、高いんだな」
「高い…?」
僕たちと話をしながらも器用に手を動かすゴッホルソさんは二人目、三人目とどんどん地面に絵を描いていく。もしかしてゴッホルソさんは瞬間的に見た光景を一瞬で記憶する事ができるんじゃないだろうか。その証拠に彼は子供たちの顔を最初に一度チラッと見ただけでずっと地面と向かい合っている。それでいてこの場にいた子供たちをそっくりに描きたあげていく…。
そんなゴッホルソさんの話によると絵を描く為の塗料となる絵の具はとてつもなく高価なんだそうだ。だから庶民にはとても手が出ない。いくら非凡な才能を持つゴッホルソさんであっても経済的な理由で使うことが出来ないのだ。
そういえば、中世とかでは画家とか音楽家は貴族の後ろ盾が無ければとても食べてはいけないんじゃなかったっけ?地球の世界的な音楽家とか貴族の子弟の家庭教師だったりしたらしいし…。絵描きの人にしても王侯貴族のお抱え絵師みたいな感じになり金銭的な支援をしてもらう事で生活や活動が成り立っていたというし…。
「そ、それに、ぼ、ぼ、ぼ、僕は考える事が苦手なんだな。絵の具を混ぜると違う色になるけど、ぼ、僕は混ざった、い、色がどんな風になるかが、サ、サッパリ、わ、分からないんだな。だ、だから、絵の具を使う絵を描いたら、き、きっと、お、おかしな絵になってしまうんだな」
「じゃあ、そうすると描くのはいつも地面なんですか?」
「ち、違うんだな。ぼ、僕は、色が混ざらない絵なら、と、得意なんだな。だ、だから、ぬ、布を、つ、土とか草とか木の実で、そ、染めた物を千切って麻布に貼り付けて絵を描くんだな」
「へええ…」
「聞いた事のない描き方ですぅ」
「…ちぎり絵ってやつかな?」
「し、知ってるんだな、ゲ、ゲンタ君は。こ、孤児院で、こ、このやり方を、お、教えてくれた先生も、そ、そう言ってたんだな」
この異世界にもちぎり絵があったんだ…。もっとも僕が日本で見聞きした事のあるちぎり絵は紙を使ったものだったけど…。
「ちなみにゴッホルソさんはどんな絵を描くんですかぁ?」
「け、景色とか、く、草花とかなんだな」
「え、人を描いたりしないのかい?肖像画とかいうやつ…、お貴族サマにでも気に入られたら金の心配も無いぜ!」
「ひ、人の絵とかは、た、大変なんだな。ち、ちぎり布を染める材料は草とか木を使うから、ちゃ、茶色とか草色にしか染まらないんだな。だ、だから、き、着飾った人とかを描きたくても、い、色が出せないんだな。だ、だから、僕には、で、できないんだな、や、やっぱり」
絵を描く手は止まらない。子供たちを描き終えると今度は僕たちを描きたい足し始めた。
「そうなんですか…。いや、でも…」
僕はふと思いついた。やはりゴッホルソさんは印象に残った光景を完全に記憶しているんだ。だから今、僕たち三人の絵を描き加え…さらには背景の孤児院を兼ねる教会を背景として描き始めた。
「ゴッホルソさん、もし良かったら今日の夕方に広場に来られませんか?」
「ひ、広場?な、なんでなんだな?」
「実は今夜、お世話になっている人たちを迎えて宴会みたいな事をするんです。ここの子供たちも来ますし。もし良かったら一緒にどうですか?美味しいものも用意してますし…。それにゴッホルソさんに差し上げたい物を思いついたんです。どうでしょうか?」
ついさっき会ったばかりのゴッホルソさん。しかし、僕の胸にひとつ閃いたものがあり思わず声をかけていた。
いかがでしたでしょうか?
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次回予告。
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ゴッホルソも誘ったゲンタ、集まりが盛り上がってきたところに招かれざる客が来る…。
次回、異世界産物記。
『招かれざる客』
お楽しみに。