第375話 デートがしたい
冒険者ギルドでの早朝のパン販売を終え僕はテーブルを囲んで朝食を摂っていた。左手側にはマオンさん、正面にはシルフィさん、その両隣にマニィさんとフェミさんがいる。モネ様は今日は別の用事があり、今日は傅育の仕事は無い。
「ゲンタの旦那、今日は何をするんだい?」
マニィさんが問いかけてくる。
「そうですね、特に依頼も無いし急いでする事も無いから…」
にゅっ!!
丸太椅子に座る僕の足の間から急に何かが現れた。
「ゲンタに依頼したい」
「うわあっ!?ミ、ミミさんっ!」
現れたのは見事な二本のウサギ耳、兎獣人の少女ミミさんであった。
「せ、接近に気がつかなかった」
「私もだよぉ」
マニィさんが驚き、フェミさんは呆然としている。そんな周囲の反応をよそにミミさんは片手をあげて挨拶してくる。
「やあ」
「ど、どうしてそんな所から?」
「テーブルの下からコッソリ忍び込んで」
「いや、接近方法を聞いたんじゃないんですよ!なんでそんな現れ方をしたのか…、理由を聞いているんです!」
マイペースなミミさんに僕は翻弄されている。そんな中、彼女はあくまでいつも通りに抑揚のない話し方で淡々と語る。
「これ」
ミミさんは薄い木の板を俺に手渡してきた。冒険者ギルドでよく使われている依頼票であった。
「えっと何々…?」
そこにはこう書かれていた。
『デートが…したいです…』
□
「ちょ〜っと待ったあ!」
「待ったですぅ!」
かばあっ!
マニィさんとフェミさんが立ち上がった。
「オ、オレだってデートしてえよ」
「私もですぅ!」
ブンッ!!
空気が揺れた音がしたかと思うと不意に右手側から僕は腕を取られた。
「私も…」
「シルフィさん!?」
気づけばギュッと胸に抱くようにシルフィさんが僕の右腕を取っていた。
「こりゃあ…ゲンタ。誰を選んで誰を選ばないなんて事したら…、血の雨が降ってもおかしくないねえ…」
「マオンさん、脅かさないで下さいよ」
「それだけみんな本気って事さ。ゲンタ、覚悟をお決め。儂がクジを作ってあげるからクジ引きの結果に従ってみんなと順番にデートすると良いよ」
「ヨッ!!ナイスアイデア!さすがマオンの姐さんッ!」
「それなら必ずデートできますぅ!」
「おだてても何も出ないよ!」
マニィさんとフェミさんの発言にそう返しながらマオンさんは少し離れたテーブルで僕のレポート用紙を使って何やら紙工作を始めた。そしてしばらくしてからこちらのテーブルに戻ってきた。
「はい、儂の握っている紙をねじって糸状にした物をみんな一本ずつ引いておくれよ。引いたら紙に書いてある数字を確認しておくれ。その書いてある数字の順番でデートすると良いよ」
「名案」
ミミさんがすぐに賛同した。シルフィさん達もその方法で良いらしい。
「じゃあ引いておくれ」
マオンさんが促した。四人の女子達が次々とクジを引いていく。
「オレは4番目だ」
「5番目ですぅ」
「私は3番目です」
「2番」
「あれっ?1番がいない。そもそも四人しかいないのになんでフェミさんは5番なんだろう?」
僕がそんな疑問を口にした時の事だった。
「おやまあ、いやだよう。儂とした事が…。1番がこんなところに紛れ込んでいたよ。悪いね、儂がデートの一番手みたいだよ」
「マ、マオンさん」
そこには満面の笑みで1と書かれたクジを持っていたマオンさんがいたのだった。
次回予告。
なんだかんだでゲンタはみんなと順番にデートをする事に…。
さて最初のお相手は…?
次回、異世界産物記第第376話
『わたしがいちばん』
お楽しみに。