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第373話 奥方様『家、ついて行っても構わぬか?』


 人妻(子爵夫人)、入浴す。


「面白いのう、そなたの話は…」


 僕は庭園で紅茶をいただきつつ雑談をしていると、ラ・フォンテーヌ様は時折笑顔を浮かべていた。今の話題はモネ様がマオンさん宅での入浴やシャンプーとボディソープの使い心地について話している。


「鍛治をするのに発した熱で湯を沸かし、それで湯浴(ゆあ)みに用いるか…」


「はい、そうなのでございます。師父様の元には湯がふんだんにあり、その湯と水を好みの割合で混ぜる事により熱めの湯にも(ぬる)めの湯にも出来るのでございます。(わたくし)は温めの湯を好むのですが、メリルは熱めが好きなようで…」


 入浴施設などでよく見かけるシャワーの温度調節の仕組み、それを適用した仕組みである。


「それに面白いのが『しゃわー』というもので…」


「ほう、『しゃわー』とな?」


「はい、まるで我が身に降り注ぐ温かな雨のようでした。髪を洗うのがあんなにも心地良いものだとは思いもしませんでした。初めて『しゃんぷー』を使った時も喜びで感動いたしましたが、あの時は(たらい)に張った湯を用いたものでした。さりながら此度(こたび)(今回)の『しゃわー』でかけ湯をしながら洗うのはまた格別でして」


「そんなにも違うのかえ?」


「それはもう!」


 ラ・フォンテーヌ様の問いにモネ様は少し興奮した様子で応じる。その際にモネ様の綺麗な黒髪が揺れるのが見えた。(つや)のある光沢が目に映り、椿(つばき)の香りがした。


「母上様、『しゃわー』とは壁の高い位置に取り付けられた湯を降り注がせる仕組みにございます。それゆえ手桶で髪に湯をかけるのとは異なり、適度な強さで肌を打ちます。それがどうにも心地良く…」


 八歳にしてこの受け(こた)え…、やっぱりモネ様は凄いよ。こんなにも文章的に説明出来るなんて…、僕が子供の頃じゃ絶対に無理だ。せいぜい『気持ち良い〜ッ!チョー気持ち良いッ!!』ぐらいしか言えないだろうなあ…。


「ふむ….、ゲンタよ」


 僕がモネ様の受け(こた)えに感心しているとラ・フォンテーヌ様から声がかかった。


「は、はい。奥方様!!」


 油断していたので慌てて応じる。


「試してみたいのう、その『しゃわー』というものを…」


「シャ、シャワーを…でございますか?」


「そうじゃ」


 ラ・フォンテーヌ様は首肯(しゅこう)した。


「我が娘ながらモネは才女(さいじょ)。その娘がこうまで語るのじゃ、女なら試さずにはおられまい」


 にこり、そう笑って話すラ・フォンテーヌ様を見て僕は何やら底知れぬ迫力のようなものを感じていた。



「ふうん、奥方様がねえ…」


 ラ・フォンテーヌ様がシャワーを使ってみたいと言っていた件について帰宅した僕はマオンさんに相談した。さすがに僕の持ち家ではないので奥方様に勝手に承諾の返答をする訳にもいかないので改めて正式に返答する事として屋敷を後にしたのだ。


「ええ、モネ様がその使い心地を話題にしたところ、とても興味を持たれたようで…」


「なるほど、無理はないねえ。髪は女の命だからね、いくつになっても女ってのは綺麗でいたいモンなのさ」


「そうなのよォォ〜、さすがマオンお姉様は分かってるゥゥ!」


 ナタダ子爵邸に行き来する際の護衛としてお願いしているイッフォーさんが激しく同意していた。


「アタシもね冒険者でしょ?だけど、いくら野山を駆け回ったとしても身だしなみには気を使ってるのよォ。まず髪でしょ、それから当然お顔もね。肌も大事だしィ、爪だってお手入れするの。ウフ、ゲンタちゃん分かる?オンナってね、いついかなる時も綺麗でいる事に貪欲なの!」


「イッフォーの言う通りだよ。それが(わし)らだけじゃないってのも驚いたよ」


「ああ…。服を着たまま器用に洗うものだな…」


 イッフォーさんの相棒、クーゴさんが感心したように呟いた。


 庭の片隅を見るとサクヤたち四人の精霊が器用に頭を洗っている。しゃかしゃかとよく泡立てて洗い、時折空中に浮いたシャボン玉を面白そうにつついたりして遊んでいる。元々日本にやってくる事が出来るカグヤは僕のアパートで入浴する習慣を持ち始めたのだが、今回異世界に新しく持ってきた椿(つばき)の香りがするシャンプーが気になったらしく使いたいとアピールしてきたので試させる事にした。すると普段入浴などをしないサクヤたちも使ってみたいと動作で訴えてきた。そして今に至る。


「むー。私も」


 ぐいぐい。帰らずに僕の帰りを待っていたアリスちゃんが僕の袖を引いた。


「こりゃあお嬢ちゃんもしっかり女だねえ。どれ、(わし)が風呂場に案内しようかね」


 どっこいしょとマオンさんが椅子から立ち上がる。


「出来ればゲンタが良い」


「ははは、駄目だよアリスちゃん」


「むー!」


 僕がやんわりと断るとアリスちゃんが可愛く頬を膨らませた。


「ああ、良かったわァ。ゲンタちゃんがそういう人じゃなくて」


「えっ、そういう人?」


「そうよォ、もしゲンタちゃんが嬉々として一緒に入るなんて言ったら…。アタシ思わず駆け出しちゃう!『衛兵さ〜ん、こいつです』って」


「うわあ…」


 ロリコンじゃないですか。でも、それが普通の感じ方だよなあ。日本でカグヤと一緒に暮らしてるってそう見られるんだろうなあ…、そんな事を思った午後のひとときであった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] タイトルセンスが良いですね(^^)思わずクスリとしました [一言] 更新お疲れさまですm(_ _)mお仕事大変そうですが更新楽しみにしてますm(_ _)m
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