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第36話 お・も・て・な・し(後編) 〜窮鳥(マスター)懐に入らば、ゲンタもこれを返さず。乾杯〜

「き、来ちゃった…」

そこにはギルドマスターのグライトさんがいた。

しかし、何というか…、体格(ガタイ)の良いスキンヘッドの

男性が言う『来ちゃった』は中々にイタい。


「グライト…、お前、なんでいるの?」

ナジナさんが若干戸惑い気味に尋ねる。


「あ、ああ。実はな…」

そう言うとグライトさんは訳を話始めた。

なんでも、昨日ギルドであんパンとジャムパンを試食し、

その甘味(かんみ)に魅せられた受付嬢三人衆がギルド内での販売を

許可してもらう為にギルド長の部屋に来たとの事。

今朝、シルフィさん達は許可を貰う為に『お願いに行った』と

言っていたが、グライトさんに言わせればあれは最早(もはや)

脅迫(おどし)だったと言う。


「凄い勢いで詰めよられてな、他の案件とかどうでも良いから

 こちらの許可をってな…。優先するなら理由(ワケ)必要()(モン)だ。

 でもよ…、ありゃあ、逆らったら(タマ)取られると思ったぜ」


「そんなに凄かったんですか?」

僕はシルフィさん達三人を見ながら聞く。

シルフィさんはクールな無表情(ポーカーフェイス)だったが、マニィさんは

『へへっ』と苦笑い、フェミさんはちょっと照れている。


「ああ、凄いなんてもんじゃねえ。特にシルフィだ。

 最初に『許可をお願いします』と言った後は無言で

 詰め寄ってくるんだぞ?あの眼鏡、無表情で!

 あれは(こえ)え!新人(ルーキー)なら漏らすかも知れねえ!」


組合長(マスター)…」

先程と表情を寸分も変える事なく、シルフィさんの声が響く。

うぐっ!っと言葉に詰まるグライトさんだが、気を取り直し


「なあ、ゲンタ新人(ルーキー)。俺、頑張ったよな?

 もし選択間違ったら、俺は消されてたかも知れねえ!」


「え、ええ…」


「だろう!いや、今となれば分かるんだ、夢中になるのもな。

 あんな凄いパン、食ったらな。ありゃあ、美味(うめ)え。

 そんな新人(ルーキー)がメシ作ってくれるって娘っ子達が浮ついててな。

 まあ、シルフィは娘っ子って歳じゃ…、ヒッ!」


「…永眠(ねむり)ますか?組合長(マスター)?」

音も無くグライトさんの背後に回ったシルフィさんが

短剣をグライトさんの首筋に這わせた。その刃の冷たさに

グライトさんが凍りつく。速い…、いつの間に…。


「わ、分かった!年齢(その)話はしねえ!」

グライトさんが言うと、スッ…と刃が首筋から離れた。


「ふう〜…。ってな訳だ。頼む、新人(ルーキー)!俺にも食べさせて

 欲しいんだ。昨日今日、俺も命がけだったんだ」


グライトさんはとてつもなく本気だ。そこはかとない迫力を

感じる。うーん、これじゃ追い返す訳にはいかないなあ。


「分かりました。ようこそ、グライトさん!

 料理もありますからご心配なさらず、くつろいで下さい」


「おおっ!ありがたい!」

グライトさんは僕の手をがっしりと握り、感謝を伝えてくるが、

「あだだだだっ!」

今朝に続いてまたも僕の手が、強い握力にさらされる。


「ギルマスの旦那!ゲンタの手が潰れちまうよ!」

マオンさんが慌てて僕達の間に割って入った。



夕闇に染まるそんな時間、薄暗くなってきてしまったと思った。

暗いのだ。明かりの事を考えてなかった。

そんな時、周りが急に明るくなった。振り返るとシルフィさんが

ソフトボールくらいの光の玉を両手の平の間に浮かべていた。


「光の精霊を召喚しました」


彼女はそう言って、光の玉をレジャーシート中央の真上に

浮かべた。辺りが昼間のように明るくなる。

すごい、これが『召喚魔法』と言うものか…。


日中に買った大根サラダ、スーパーが発注数でも間違って

大量に残ってしまったのか人数分買う事ができた。

そのサラダに、ハンバーグのあった精肉コーナーの次に

向かった缶詰コーナーで買ったツナ缶からツナをトッピングした。

それをレジャーシートに座った招待客(ゲスト)の皆さんに

回していってもらう。


そして、麦酒(エール)が飲める人にはビールを、苦手な方には

ロゼワイン、アリスちゃんのようにお酒が飲めない人には

ジュースを振る舞う。ここで使った入れ物が、バイト先の

コンビニでもらったガラスのタンブラーだった。

昔から営業しているラーメン屋さんで、ビールを飲む時に使う

一合(180cc)サイズのコップより少し大きいくらいか。

炭酸飲料か何かの販売促進用にメーカーから店に送られた物で、

該当の銘柄の商品を買うとお客様にプレゼントしていた。


しかし、全てのお客様が持って帰る訳でもなく、店に大量に

残ってしまっていた。そこでオーナーの原田さんから

いくらでも持って行って良いよと言われたので、ありがたく

沢山持って帰っていた。それが今、陽の目を見る。


「お、おい!?こりゃあ硝子(ガラス)か?」

「ああ、間違い無え!」

洒落(しゃれ)た出迎えしてくれるじゃねえか!

 こりゃあ酒が美味くなるってモンだぜ!」


ナジナさんやグライトさん、お爺さんがはしゃいでいる。

続いて、先割れスプーンを回してもらう。


「おいおい、こりゃあ変わってるな!」

「先が欠けてるのか?あ、いや、こりゃあ…」

「銀…、じゃねえな…。だが…これは…何の金属だ…」

また先程の三人組が何やら話している。説明しとくかな…。


「えっと、これは『先割れスプーン』と言います。

 先の尖った所はフォークのように刺して使う事ができ、

 もちろんスプーンのように汁物をすくう事もできます」


へえ〜というような声がする。とりあえず落ち着いたかな?

落ち着いたよね?


よし、じゃあ…。早速、乾杯といこう。僕は立ち上がる。


「皆さん、本日はお集まりいただきありがとうございます。

 僕達二人がパンを売り、また快適に過ごせているのも

 皆さんのおかげです。この場を借りて御礼(おんれい)申し上げます」


マニィさんが「カタいよー」とツッコんでたりする。

そんなマニィさんに僕は苦笑で(こた)え、


「本日はそんな皆さんに感謝の気持ちをお伝えしたく、

 ささやかながら夕食をご用意しました。お口に合えば

 幸いです。どうぞ、お楽しみ下さい。…それじゃ、乾杯を。

 えっと…ナジナさん、お願いできますか?」


「俺で良いのか?…そ、そうか。よし、任せろ」

僕はしゃがみ、代わってナジナさんが立ち上がる。

うーん、やっぱり背が高い。偉丈夫だなあ。


「へっへ、挨拶なんてガラでも無えが…、ご指名だ。

 今日は兄ちゃんと婆さんがギルドでパンを幸先よく

 完売させた日だ!間違いなく売れると思っていたが、

 実際見てるとよ、やっぱりスゲえモンだ!

 だからよ、これがずっと続くように、それと兄ちゃんが

 大事にしてる婆さんが長生きするようにって気持ちも

 込めてよ、今日は大成功の祝い酒だ、乾杯!」


乾杯!一斉に声が上がり、カチンカチンとタンブラーを当てる

音がする。僕は両隣にいたマオンさん、ミアリスさんと乾杯し

手の届く範囲はグラスを合わせ、遠い人には高く(かか)げる。


「いやー、良かったぜ。旦那が力任せに乾杯しなくてよ」

「俺だってガラスが割れる事くらい知ってるぜ」


同じビール党なのか、ナジナさんとマニィさんがビール片手に

そんなやりとりをしている二人がビールを口に運ぶ。


「うおおっ!」

「なん、なんだコレは!」


「なんて滑らかな泡なんだ、それもこんなに冷えて…」

「ああ、それに嫌な香りがしねえ!良い苦味がクるぜ!」

「何言ってやがる!飲んだ後が(スゲ)え!(ノド)を焼くような

 キレ、その後に鼻に抜けるのは麦の香りだ!

 こりゃ麦だけのまっすぐなエールじゃねえか!」


ビールを口にした人達は驚きの声を上げ、ロゼワインを飲んだ

フェミさんと特にシルフィさんはウットリとしている。

余程気に入ってくれたのだろうか…。

僕やミアリスさん、マオンさん、アリスちゃんやナタリアさんは

ノンアルコール組だ。優しい味のリンゴジュースである。


「甘くて美味しいねえ」


朝にプレゼントした膝掛けを背中に巻き、マオンさんが

嬉しそうにしている。ふと、鍋が順調に煮立っている事に

気付いた。中身をどんどん二つの大皿に盛り付けていき、

二ヶ所に分けて「前菜です」とマカロニサラダの横に置く。


「こ、これは!兄ちゃん、『ういんなあ』じゃねえか!?」

「『ういん…なあ』?」

ナジナさんの言葉に、雑貨屋のお爺さんが聞き返す。


「へへへ、こうやってよう…」

ウインナーを一つ、指でつまんでナジナさんが口に運ぶ。


『ぷわりぃッッッッ♪』


テレビCMでしか聞かないような音が妙に甲高く響く。

それにしてもナジナさん、どんどん食べ方が上手くなっていく。


「お、おい!なんだ、その音はッ!?」

お爺さんがナジナさんに詰めよっている。


「うっ…」

ナジナさんが口元を押さえ前かがみになる。

そして、目を『クワッ』と見開きながら天を振り仰ぎ仁王立ち!

()()〜い〜ぞ〜!!」

結構な近所迷惑レベルで叫んだ。味王(あじキング)のおっちゃんか!?

「に、兄ちゃん!朝食べたのと、この『ういんなあ』は…、

 な、何か違うのか?噛んだ時の歯触りが違う気がするんだが…」


「え、ええ。あのマヨウインナーパンのは冷めても美味しいを

 テーマに作られていて、これは温かい時に食べるのが

 向いています」


「そ、そうか。今回のはわざと大きさと形を残して、歯応えを

 残している。そして、この熱を通した事により一段と

 旨味とコクが増している!さらにほとばしる肉汁はッ、

 口の中でとろけ離れない!しかし、ここでこの…」


んぐっんぐっ…ぷはぁ〜。と、ナジナさんが一息でビールを

流し込み大きく息をつく。


「この苦味溢(あふ)れるエールで流し込むッ!クウゥ〜ッ!

 氷の剣のような切れ味が口の中を(すす)いでよう…、

 また『ういんなあ』をつまんじまうッ!」


『ぷわりぃッ♪』『ぽりッ♪』『ぱりぃッ♪』

あちこちからウインナーを食べる音の花が咲く。


「ああっ、この食感に甘い脂身(あぶらみ)がクセになるねえ!」

「朝に相棒も言っていたが、音にまで美味さを秘めている」

「おいひぃですぅ〜!私の口の中で旨味(うまみ)が弾けて

 シャッキリポンと踊りますぅ〜」

「こりゃあ、大地の兄弟たるドワーフなんかが(ヨダレ)垂らすんじゃ

 ねえか?麦酒(エール)の混じりっ気無しの麦の味、『ういんなあ』の

 旨味、これだけで奴らは夜を明かすだろうぜ」


前菜(オードブル)として成功かな…?マカロニサラダも

人気がある。アリスちゃんは食感を面白いと感じたようで

先割れスプーンで感触を楽しみ、そして口に運んでいる。

粗挽き黒胡椒の瓶を出したら、マヨと合うなあとナジナさんや

グライトさんがもしゃもしゃと頬張っている。


サラダはやはりシルフィさん、ミアリスさんはツナにグッと

来たようだ。ネコミミとシッポはすでに出ていて、

「〜〜〜ッ!」

声にならない歓声を上げている。


よし、次だ!スープカップにはすでにコーンポタージュの

粉末状の素を仕込んであり、それにお湯を注ぐ。


「すいませ〜ん、次の一品(ひとしな)、スープです」

次々とお湯を注ぎ、また皆さんに回してもらう。

その間に大鍋の水を入れ替え、また沸かす様に準備する。

その横で鍋に立てかけるようにして食パンを(あぶ)る。


「優しい味…、私このスープ大好きです」

「…(コクン)」

ナタリアさんアリスちゃんが気に入ったようである。


「まったく凄い新人(ルーキー)だ!出てくる料理(メシ)も酒も

 超一流だ!こりゃあ、ウチの受付嬢達の眼力に脱帽だな!」


「これも全てお姉さんのお陰ですぅ。私はこんなに凄いとは…」


「ん、フェミは気づかなかったのか?」


「はい…。パンを売りたいと聞いた時は手数料とか考えたら

 お二人に儲けとか出ないんじゃないかと…」


「それをシルフィが気付いたって訳か…」


「はい。ここからは改めてお話を伺いますって…」


「シルフィ様々(さまさま)だな。まあ、アレだな!

 伊達に(トシ)食っ…」

ヒュッ!予備動作無しのノールックで投げた短剣が

グライトさんの眼前を通り過ぎ、向こうの地面に刺さる。


「次は有りませんよ」

「はい…」

ギルドマスターって、ギルドで一番偉い人なんだよね?

そんな事を思いながら、僕は次の主菜(メインディッシュ)の準備を始めるのだった。



評価、コメントありがとうございます。

もしよろしければ、今後もよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 異世界物は冒険が主体ですが、こう言う普通のやり取り、生活を楽しめるのはこの作品だけではないかなと思いますね。此れからも頑張って下さい。
[一言] シャッキリポンw 栗田さんだー!
2021/01/29 04:17 退会済み
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