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第352話 胸に秘めた爆弾。(前編)(ざまあ回)


「な、なあ、パン売りの兄ちゃん!この『かれーぱん』、明日からも町で売ってくれよ!」


「私はあのジャムを塗ったのが良いわ!」


 行列のあちこちからそんな声がかかった…そんな時。


「うっ、売りたい。売りたいんだよォォ〜!ううううぅ〜っ!!!」


 突然、悲痛な声を洩らし地面に崩れ落ちたマオンさん。


「ばっ、婆さん!大丈夫かっ!?」


 ナジナさんが駆け寄る。なんだ、どうした、行列からもそんな声がかかる。


「だ、大丈夫、大丈夫だよぉ…。だ、だけどさ、(わし)らは…う、売りたくても…。ううう〜」


「パンを売れないんです。こんな日でもなきゃあ…」


 僕もマオンさんに続いて言葉を発した。


「どういう事だ?こんな美味いモン、売れねえって?」

「お、俺、毎日でも買うぜ!こんな凄いパン」

「ウチもよぉ〜」


 行列のあちこちからそんな声がかかる。


「じ、実は…、先月はじめに商業ギルドに行ったんです。このパンとか、ジャムを入れて焼いたパンとか…そういうのを商業ギルドで少し場所を借りて販売させてほしいって。もちろん場所(ショバ)代が必要なら支払うとも…」


「そしたらあのハンガスがいきなり怒りだしてね。『ふざけた事吐()かしてんじゃねーぞ、なんならババア今すぐ永眠(ねむ)らせてやるぞ』って言って脅しつけてきて…うっうっ」


「その後、ハンガスはならず者のギリアムを使って僕たちを散々に痛めつけ商業ギルドを叩き出されたんです。道端で倒れていた僕たちはたまたま通りがかった教会の方に助けてもらって…。仕方ないから商業ギルド内での販売は諦めようとしたんです。だけど、暴行されただけじゃなくて同時に脅しつけられたんです。今後町でパンを売ってる所を見かけたら容赦はしねえ、組合(ギルド)をあげてつぶしにいくって…」


「この子がねえ…、せっかくこうして美味しいパンを用意出来るのに…。自分はまだ若いから良いけど、(わし)みたいな年寄りがあんなギリアムとかならず者どもに襲われて何かあっちゃいけないって…。あれからギリアムにも何度も襲われて…、その度に冒険者の方に助けられて…」


「ギリアムってアレか!?ブド・ライアー商会の出来損ないか!」

「ああ、ハンガスと昔からよくつるんでたモンなあ!」

「するとナニか?俺たちはヤツらのせいでこのパンを買う事ができねえのかよ!?」

「クソッ!ロクな事しねーよなー!片や小便(ションベン)混じりのパンを出す店主、片や砂混じりの塩を売る店の出来損ない。おまけに商人を守るはずの組合(ギルド)がつぶしにかかるなんてよォォ!!」

「ウチはあんな店からもうパンは買わないヨォ!」

「そうだそうだ!それに商業ギルドもつぶれちまえ!」


 商業ギルドやハンガスたちに向け怒号が飛び交う。その好感度は大暴落、恐慌と言っても良いくらいだ。


「毎日使うモンはすぐには出来ねえかも知れねえけどよ、今日みてえに服とかならこういう広場で出店してくれた時に買えば良いんじゃねえか?」

「そうね!なんたって質は良いし、それなのに安い!」

「決まりだッ!それなら服とかは商業ギルドの鑑札(かんさつ)が付いてるトコからは買わねえようにしようぜ!」


「「「「おお〜ッ!!!!」」」」


 町の衆が気炎を上げる。こうしてミーンの町衆の商業ギルド関係からの不買運動が始まる事になった。


 そして…、見事僕たちの方はと言えば完売御礼。町の皆さんにもすっかり満足して帰ってもらう事が出来た。今は僕やマオンさん、シルフィさんら受付嬢三人を中心に売り上げの計算が始まろうとしていた。それを商業ギルドの連中は見ている事しか出来ない。


………………。


………。


…。


「上手くいきましたね、マオンさん」


「そうだね、ゲンタ。しかしここまで筋書き通りにいくとはね。ゲンタ、お前さんも中々の悪党だねえ」


「それに乗るマオンさんも中々の(ワル)でいらっしゃる…」


「ふふふふ…」

「はははは…」


「「あっはっはっはっ!!」」


「おい、ウォズマ、兄ちゃんと婆さんがなんか悪い顏して笑ってるぞ?」

「ふふ、良いんだよ。これで少しは連中にお返しが出来たんだから」


 二人の凄腕冒険者がそんなやりとりをしている。そこにやってくる冒険者ギルドのマスターグライトさん。


「お返しか…、なるほど確かにそうだな。だが、随分とダメな商人どもがいるもんだな」


「ん、どうしてだ?ギルマス」


「だってそうだろう。商人ってなあ損をするのを何より嫌う。それなのに…」


「そうだね、確かにそうだ。お返しと言うにはあまりに大きい…、しかもこれから町衆は不買の気持ちでもいるようだ。それが続くのだから…、ヤツらにはあまりに大きな損失と言えるだろう」


 ウォズマさんがそんな言葉で締めくくっていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 此れからの展開が非常に楽しみです。早く次が読みたいです。
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