第350話 ちょっと待ったァ!
「さて始まりました『ゲンタん紅鮒団!!本日最後のイベントです!」
「集まったのは男女それぞれ十名ずつの勇者たち。それがこれから恋の火花を散らすよォ!」
わああああっ!
一気に盛り上がる会場。
「ははははっ、皆さん。こういうのお好きですかぁ?」
「そりゃあそうだろうねえ。他人様の色恋沙汰を見てあーだこーだ言うってのはさ…、しかも飲み食いしながら…。アンタたち、酒も食い物もいつもの倍は美味いだろう?」
美味いぞー!そんな声が会場から上がる。
「そうかいそうかい!それならいよいよ始めようかね。若者たち、出ておいで!」
ステージ下の奈落から十人の男性たちが現れる。
「さあ、では順番に自己紹介をしてもらいましょうかね」
そう言って僕たちは参加者を観客に顔見せしていく。
「さて、君たち男性陣を今か今かと待っているお嬢さん方はあそこだッ!」
そう言って僕はステージから少し離れた所を指差す。すると上空からサクヤが放った光がスポットライトにより十名の女性たちが浮かび上がる。
「だが、しかぁし!!君たち男性陣が直接そのお姿を見るには早すぎる!なので僕たちが代わりに見てきますね!それではいきましょう、ゲンタ〜ん…」
「「「「チェック!!」」」」
観客たちも慣れたもので、僕とマオンさんが右手人差し指を立てるポーズを真似すると共に掛け声もピッタリ揃っていた。
□
女性陣たちを観客たちに紹介し、ついにステージ上で共に十人ずつの男女が向かい合う。
「それでは早速フリータイム!軽食や飲み物も用意してあります。さあ、さっそく仲良くなっちゃって下さ〜い!」
そう言って僕は彼らをテーブルに着かせた。
「わあ…、アレ美味しそう…」
テーブル上にある軽食を見て観客からそんな声が上がる。
「あのテーブルで出ているものと同じ食べ物…、いかがっすか〜」
「新しいパンの食べ方、『さんどいっち』でーす」
ざわっ!観客席がざわめいた。
その声の主は孤児院の子供たち。野球場のビールの売り子のように声をかけて回っている。
「食べ比べ出来るミニサイズ〜!」
「ハム、卵、魚、そしてジャムが塗られた四種類〜!」
「た、たまごっ!」
「さ、魚ってアレか!昔、坊やが持ってきた『つな』の事か!?」
食べ切れないと勿体ないので食パン一枚を四分割した大きさ、それを食べ比べパックとして売ってみる事にしたのだ。卵と魚、まずこれにその味を知る蛇獣人族と猫獣人族の人たちが反応した。
「ええっ!?ジャムですって!?」
「聞いた事があるわ!冒険者の人だけが早朝ギルド内で買う事が出来るジャムのパンがあるって…」
さらに女性たちがジャムに反応、そしてハムはどの種族の人にも広範に受け入れられているようで興味を引いている。ホームで立ち売りする駅弁売りの方のように彼らは観客の周りを歩く。
「さて、こちらも仕事をしましょう。実況は私、商人ゲンタと…」
「解説の辻売マオンが…と言いたいところだけど今日は特別だ!ゲスト解説を呼んであるよっ!代わりに私は席を外すよ、そう!後はお若い方々でよろしくやっておくれ…ってヤツだ!儂の代わり、出てこいや!」
まるで某レスラーのようなアピールをするマオンさん。
「来た」
「よろしくお願いします」
そこに現れたのは兎獣人族ミミさん、人魚族のメルジーナさんだった。
「それじゃ儂はこのへんで…」
「マオンさん、ありがとうございましたー!!」
マオンさんがさりげなくステージを後にする。
(ゲンタ、儂は手筈通り動いとくよ。ここで最後の一稼ぎだ)
小声で僕に告げる。僕はそれに頷きで応じた。
「さて、男女入り混じる恋の戦場に目を向けてみましょう。おおっと、さっそく飛ばしているのはご存知ルオーシマンさんだ!」
「強引にお目当ての子の横に座った」
「少し距離が近いですわ。いきなりコレでは女性からするとちょっと…」
『トゥギャザーしようぜ!!』
「ちなみに僕たち実況と解説の声は参加者たちには聞こえないようになっています」
ノリノリなルオーシマンさん、しかし内外共に女性陣はドン引きである。
「焼菓子に干果物〜、つまみに『さらみ』はいかがですかあ!」
「そのまま噛める練干肉だよぉ!酒に合うよお」
年少の子供たちが二人組になって売り子をしている。さっそく買い手がついていく。日本人の感覚で言えばテレビを見ながら菓子を軽くつまむような感じだろうか。
ステージで繰り広げられる二十人の恋模様、それは最後にルオーシマンさんが盛大にフラれるまで大盛り上がりで展開されるのだった。
……………。
………。
…。
「さて、本日のカップル成立は…二組!!お疲れ様でした!」
無事に最後の集団お見合いイベントも終わった。既に日没し、辺りは暗くなっている
「本日のイベントは全て終了です。皆さんありがとうございました!またいつかお会いしましょう〜、さようならぁ〜!」
僕は観客に手を振ってイベントの閉会を告げる。両隣にはミミさんとメルジーナさんも同じように手を振っている。観客も総立ちで拍手している、大成功…まさにそんな言葉が相応しい。
「それでは皆さん、お気をつけてお帰り下さい」
拍手が落ち着いた所で僕は客席に散会を呼びかける声をかけた。
「ちょっと待ったァ!!」
しかしそれを制止する一つの声がかかった。
「「「「ちょっと待ったコールだ…」」」」
ミーンの町にもすっかり定着した用語を観客たちが口にしていた。
「ちょっと待ったァ!!」
一体誰が上げた声なのか?
次回、異世界産物記『明日の売り上げ』。
お楽しみに。