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第339話 大商売(おおあきない)になる程、事前の宣伝告知は肝要です。


 翌朝…。


「これを俺たちが身につける…、それが依頼なのか?」


「そうです。ナジナさん、ウォズマさん、引き受けてもらえませんか?」


 早朝の朝食販売を終えた冒険者ギルド内で朝食を摂った後、いわゆるジーパンを手にしたナジナさんがそんな疑問を口にしていた。今朝はハッキリ言って大人数、いつものメンバーにゴクキョウさんやヒョイさん、ゴロナーゴの親方もいる。


 ここミーンの町ではほとんどの人が麻布(あさぬの)で作られた衣類を身につけている。新しいものならば肌色がかったクリーム色、古くなってくると色がくすんで鼠色(ねずみいろ)のようになっていくのが一般的だ。と言うのも色のついた…いわゆる染色された衣類というのは金回りの良い商人とか爵位のある人物ぐらいしか身につけていないのだ。なぜなら染色の手間がかかるだけ値が張るからだ。それに染色もすぐに出来る訳ではない、手作業で長い時間をかけて初めて出来上がる。庶民にはなかなか手が出ない高値になるのも当然と言えるだろう。


 例外として社交場(サロン)でダンサーをしているミミさんたちや歌姫であるメルジーナさんたちは染色されたものを着ていたりもする。しかし、それは舞台に立つ時だけであって、普段着はやはり飾り気の無い簡素な服を着ているのだ。


「これは縫い目もしっかりしているし肌触りも良いな…。何より丈夫そうだしオレたちの稼業には向いているね。ゲンタ君、この布地は木綿(もめん)かい?」


「そうです」


「木綿だって!?」


 マニィさんが声を上げる。


「本当かい、旦那?木綿なんて(あさ)と比べたら三倍は値が張る代物(シロモノ)じゃないか!」


「間違いないで、こら木綿や。王都とか商都(カミガタ)なら着てる(モン)もたまにはおるが…、こんな鮮やかな空色の品物(モン)は初めて見るで。…むむ!遠目には空色やが近くで見てみると濃い青と白い糸を混ぜて()ってるんやな。それがこないな風合いになって…。売り値にもよるが、こら売れるで!!」


「実はこれを広場で屋台を出す会場で売ろうと思ってましてね。そこでお二人に着て過ごして欲しいんですよ。町の人みんなが知ってる二つ名付きのお二人が来ているあの下衣(ズボン)はなんだ…?人目を引くと思いまして」


「なるほど、誰もが知るお人らに着てもろて町衆の興味を引いて…」


「あとはこんなのも…」


 デニムではないが丈夫な木綿製のカーゴパンツを取り出した。両太腿(りょうふともも)の外側に大きなポケットが付いている。


「これは親分さんに」


「おうっ!俺かい!?」


 ゴロナーゴさんが身を乗り出す。


「この下衣と同じく木綿で出来ています。先程のと比べると薄いですが、柔らかいしこれも丈夫ですよ。それに柔らかい分、高いところでの作業でも足を深く曲げたり広げたりするのにも向いてますし…何せ親分さんは鳶職(とびしょく)ですからね」


「うーむ、確かに。こいつァ良いや!」


 布地を引っ張ったりして品質を確かめている親分さんが声を洩らす。


「それに…ここ、大きなポケットが付いてるでしょう?」


 僕は太腿(太腿)の外側部分に付いたポケットを指さした。


「ちょっとした物なら入りますし…、どうでしょう。これを着て仕事をしてもらうというのは…?」


「おうっ、これならこっちから頼みてえくらいだ。仕事と言わず一日中着てやるぜ!」


「良かったです。ではこちらを…」


 そういって僕は二十着程のカーゴパンツを取り出す。古着だけあって色や形状も異なる。


「な、なんでえ…?こんなに沢山…」


 さすがのゴロナーゴさんも戸惑っている。


「親分さんの所の職人さんたちにも。沢山の人に着てもらえればそれだけ人目にも触れますから」


 そう言って僕は持ち帰る時の為に使ってもらおうと大きな背負い袋も添えた。


「分かったァ!」


 そう言ってゴロナーゴさんは立ち上がった。そして背負い袋にカーゴパンツを詰めこんでいく。


「そうと決まればウチの(わけ)え奴らにも今すぐ履き替えさせるぜ!あばよっ!!」


 そう言うとゴロナーゴさんは袋を担いでギルドの外に走り出して行った。


「ヒョイさん」


「ほっほっ。私ですかな」


「実は用意しているのは女性用のもありまして…」


「つまり、ウチの子たちに…」


「はい。まだ全ての準備が出来ていないので明日にでも社交場(サロン)にお邪魔させていただければ…」


「分かりました。しかし、ゲンタさんがご用意される服…どんな服でしょうか。楽しみですな」


 ヒョイさんが柔和な微笑みを浮かべる。


「もちろん皆さんにも」


 そう言ってシルフィさんたちの方を見た。


「それと…。ダン君、ジュリちゃん」


 パン販売を手伝ってくれている二人を呼ぶ。


「これをヴァシュヌ様の神殿の巫女、ヴァティさんへ」


 そう言ってゴントンさんが作ってくれた石木(せきぼく)で作られた大きな容器に手紙を添えて風呂敷に包み二人に預ける。


「冒険者のゲンタからと言えばきっと取り次いでくれると思う。是非、お召し上がり下さいと伝えてくれるかな?報酬はいつもと同じ額で」


 分かりましたと二人は風呂敷を持って冒険者ギルドを後にした。


 とりあえずはこんなところかな…。


「ゲンタはん、アレは何や?」


「あの中身ですか?美味しい物ですよ。必ず届けて欲しい、あれは良い物だ…みたいな感じです」


 僕は中身の事をはぐらかして曖昧に回答(こた)えた。

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