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第33話 マオンさんに毛布を、しかし価格は高かった(後編) 〜お主も悪(ワル)よのう〜

「本当に良いのかい?」


マオンさんが申し訳無さそうに聞いてくる。


「もちろんです!受け取って頂けますね?」


「うっ、ううっ。ありがとうよ、ありがとよ…、ゲンタ」


マオンさんは僕の手を取り、声を震わせ涙ながらに礼を言う。

そんなマオンさんの手を僕は両手で包み、


「マオンさん。ここから、ここからです。

 ここからまた一つ一つ手に入れて行きましょう。

 大変ですよ、ここからはもっと。なんたってパン焼き竃を

 再建しなきゃいけないんですから!」


「ゲンタ、ゲンタよぉ…」


「クゥーッ、泣ける事しやがってよお!

 近頃なかなか()え孝行者だぜ、(わけ)えの!」


「どうだ、爺さん。今夜は美味(うめ)え酒、飲めそうだろ?」


「ケッ!味な事しやがってよぉ…」


悪態(あくたい)()きながらも満更(まんざら)でもなさそうなお爺さんは


「まあ、でも、その…、なんだ。これなら俺も作った甲斐が

 あったってモンだぜ」


鼻の頭を掻きながら照れ臭そうにしていた。



お金を払い、毛布をたたんでもらっていると、ナジナさんが

奥から大きな背負い袋を持ってやってきた。


「爺さん、これも頼むわ」


「お(メエ)、なんだって袋なんか?」


「毛布運ぶのに入れていったら楽だろ?」


「それもそうだな、手で抱えていくのは面倒だ。袋にでも

 入れて背負っていく方が楽だな」


「なら、この袋も頂いて良いですか?これからの生活にも

 必要になるでしょうし」


最初の店で見た毛布よりもおよそ七、八千円も安く

手に入った訳だし、それなら他に何かを買うのもアリだ。


「いや、兄ちゃん。ちょっと待ってくれ」

しかし、ここでナジナさんが待ったをかける。


「なあ、爺さんよ…。こんな良い話には爺さんも自分から

 一枚噛んで花を添えるなんてどうだ?」


「だから、爺さんじゃねえっ!」


「今はそんな事言ってる時じゃねえだろ。それでた、この袋を

 毛布に付けてくれよ。今夜の酒がより美味くなるぜ」


「簡単に言うな!これも俺が作った(モン)だ」


「だからだぜ、爺さん…。あの毛布も爺さん、アンタが

 作った(モン)って言ってたよな?なら、ここは気持ち良く

 この袋も付けちゃくれねえか。こんな気持ちの良い兄ちゃんの

 心意気に乗っかってやるのが良い年寄りってモンだ」


「年寄りって言い換えるんじゃねえ!」


「それにだ…、何もタダで…なんてケチな事は言わねえ。

 爺さん、どうせ夜はヒマだろ?今夜は奢ってやろうじゃねえか。

 俺が気持ち良くよお…」


「何ッ!?酒だと?」


「ああ、そうだぜ。俺も爺さんも酒好きだ。

 なら…文句は()えよな?爺さん」


「向かい相手がお(メエ)ってのが業腹(ごうばら)だが…、

 ヘッ!俺もそこまでケチじゃねえ!奢られてやるよ」


「よぉーし!決まりだ!爺さん、この袋、貰ってくぜ!」


「持ってけ!泥棒ッ!それとなァ…」


お爺さんはぐっと息を()めて…、


「爺さんじゃねえよッ!」



いただいた背負い袋に新品の毛布を入れたナジナさんが

先頭を歩き、僕たちはマオンさんの家に向かう。

本当はもう少し雑貨を見繕って購入するつもりだったが、

マオンさんが少しずつでも自分で働いて揃えていきたいと

希望したので毛布と背負い袋だけにして帰宅する事にしたのだ。


「それにしても良かったのかい、旦那?」


「ん、なんだい?婆さん」


「酒を(おご)るなんて言っちまってさ」


「ああ、それか…。それならなあ…心配いらねえよ。

 なあ、相棒?」


ニヤリと笑ってウォズマさんに話を振る。


「ああ、そうたな。御婦人、地妖精(ノーム)族はドワーフ族と並んで

 酒好きな種族なのですが…」


「ただ、体が小さいからか酒の回りが早くてな…、

 すぐに酔い潰れてしまうのさ」


「へええ…、初めて聞いたよ」


「町で暮らすノームは少ないからな。知る奴が少ないのも

 もっともな事だぜ、婆さん」


「なるほどねえ…。でもさ、旦那…」


「どうした、婆さん?」


マオンさんとナジナさんが何故か(うなず)き合い、


「そんなすぐに酔い潰れる相手に酒を奢るだなんて言って…、

 旦那…お(ぬし)(ワル)よのう…」


「いやいや、それに気付いちまうマオン婆さんも

 (ワル)でいらっしゃる…」


「うふふふ…」

「ふははは…」


「「はっはっはっは!」」


まるで時代劇の悪代官と商人の組み合わせの様だ。

二人で息の合った掛け合いを見せている。


「ああ、これはねゲンタ君。よくある芝居の演目で

 『悪い貴族と商人』という芝居なんだが、その中で

 貴族と商人が悪巧(わるだく)みをする場面があるんだ。

 それがこんな感じなんだよ」


「なるほど、そうなんですね」


ウォズマさんの解説に僕は頷く。しかし、正直言って驚いた。

まさか異世界で時代劇の定番シーンが見られるなんて。

権力者と商人が結託して悪事を働くというのは地球における

古今東西どころか異世界でも共通の出来事のようだ。

どこか懐かしさや、人の(ごう)について思いを馳せる。

まだ続いているマオンさんとナジナさんの『芝居でよくある

シーン』の詰め合わせに、僕とウォズマさんが時々ツッコミや

合いの手を入れながらマオンさんの住む納屋に向かうのだった。

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