第333話 依頼、舞い込む。(2)
「「「な、なにィ!?」」」
ラーメンが用意出来ない、その事を伝えると三人から声が上がった。ゴロナーゴさん、長老さん、そして本日の護衛の一人ナジナさんである。
「相棒、落ちつけ」
ウォズマさんが一声かけるがナジナさんは止まらない。
「こ、これが落ちついていられるかッ!に、兄ちゃん、それじゃあ俺が推す丸鳥の『らめえぇぇ!ん』も手に入らないのかッ!!」
ナジナさんは僕に縋り付くようにして尋ねてきた。
「そ、そうですね…」
「そんなあ…」
これが『大剣』の二つ名を持つ凄腕の戦士なんだろうか…、そんな事を思ってしまう程の情けない落胆ぶりである。僕がラーメンの提供が出来ないのはスーパーでインスタントラーメンがお一人様一品限りになっていたからだ。こうなると犬獣人族と猫獣人族、とても人数分の準備は出来ない。
「マジか…、坊や?」
「はい…。手に入るにしても二十人分か三十人分といったところでしょう」
一日に一パック…、五食分だ。とてもこの町に住む人たち全員分は無理だ…。
「うむむむ…。今年はちょうど広場の祭りの日と重なるから派手にいけると思ったんだが…」
「祭りの日?」
「ああ、先月もやったろう坊や。広場に旗竿立てて…」
「ああ!先月広場でやりましたね」
隣に座るシルフィさんが『会場は冒険者ギルドの名で押さえておきました』と伝えてくる。
「む、無念じゃ。『らめえぇぇ!ん』を食べて酒が飲めればと思っていたが…」
まるで夏の甲子園大会でサヨナラ負けをした選手のようにがっくりと項垂れ床に崩れ落ちる長老さん。なぜかその横には同じようにナジナさん。…ん、待てよ?
「長老さん、飲んで食べる事が出来ればと言いましたね?」
「う、うむ。ラメンマの言ではないがあの骨髄の匂いはわしら犬獣人族にはたまらぬ!」
「俺たちにとってもあの魚の風味豊かなのが食えねえとなると…。祭りの日はちいと冷えそうな感じだからな、あの『らめえぇぇ!ん』を食って温まりながらグイッと飲りたかったのによう…」
それなら何かないかな…?二人も…、ついでにナジナさんも悲しんでるし…。
「ナジナさん、ウォズマさん、マオンさんをお願いします。サクヤ、ホムラ、セラもね。カグヤ、ついてきて」
僕がそう言うとジャムをつけたパンを食べていたカグヤが僕の肩にとまる。
「皆さん、ちょっと出て来ます。日暮れ前…、日暮れ前にもう一度ここに来て下さい」
「ひ、日暮れ前って…。兄ちゃん、その時間にはゴクキョウの旦那と商談じゃねえか!」
ナジナさんが声をかけてくる。
「その時間までに何か答えを用意してみます。犬獣人族と猫獣人族…、両族の皆さんに喜んでもらえるような何かを」
そう言って僕は立ち上がり、ギルドの入り口に走る。一刻も早く日本に戻り、スーパーを巡ってみようと考えていた。何か良い料理はないものか、そんな事を思いながら。
ラーメンは必要数を確保出来るとは限らない、そんなゲンタは何を用意するかのか?犬獣人族と猫獣人族を共に満足させられるような料理を用意できるのか?さらには大商人ゴクキョウとの商談、上手くいくのだろうか…。
次回、『試食と商談』。お楽しみに。