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第32話 マオンさんに毛布を、しかし価格は高かった(中編) 〜ナジナさんの機転〜

マオンさんを背負って走っていくナジナさんの後を追う。

辿り着いた先は先程の雑貨屋から裏通りを二つほど

入った所だった。

商業区の外れのような、言葉を悪く言えば場末(ばすえ)

表現するような…そんな町並みだった。


一軒の店先でマオンさんを背中から下ろし、追いついた

僕達にナジナさんは、


「おうっ、ここだ、ここだ!遠慮なんかするような(とこ)じゃねえ。

 自分の家だと思って入ってくれ!」


そう言ってズンズンと奥に入っていく。

古びた店の中には雑多な商品が置いてある。だが、何となく

普通の雑貨屋とは違うような感じがする。なんだろう…、

家に置いとくのには何か違うというか…。


「なるほど…、相棒はここを思い付いたか…」

ウォズマさんが何やら呟いている。


「おおーいっ!(じい)さん!店開けてるんだから居るんだろ?

 くたばってねえで出てこいや!」

ナジナさんが口悪く誰かを呼んでいる。


五月蝿(うるっせ)えなあ、こんのバカチンがぁ〜!!

 お(メエ)が来てる事ぐらい、こちとら先刻(せんこく)承知(しょうち)ときたもんだ!」


そう言って現れたのは、マオンさんよりもさらに小さい、

目が隠れる程の長く白い眉毛と、これまた長い顎髭(あごひげ)

不思議な雰囲気を持つお爺さんだった。



「まったく、いつもいつも大声出しながら来おってからに!

 酒に口付けてる時以外は静かだった(ためし)()え。

 それと俺は…」


びしいっ!っとナジナさんに人差し指を突き付け、


「爺さんじゃねえっ!!」


「まあまあ、機嫌直してくれよ。今日はせっかく客を

 紹介しようと案内してきたんだ」


「何、客だと?」


店主のお爺さん…のように見える人がこちらを見る。


「こ、こんにちは」


目が合った僕はとりあえず挨拶をする。


「へっ!よく来たな、まあゆっくりしていけ。

 この馬鹿が連れて来たにしちゃ大人しそうじゃねえか」


目が隠れる程の白い眉毛を少し上げ、僅かに見える目で

僕を観察するように眺める。


(わけ)えの、ここら辺じゃ見かけねえ(ツラ)だな。

 ああ、何も責めてる訳じゃねえぞ?俺だって外から来た。

 それで、物売りをしながら今はこうして店を開いてな…」


「おーい、昔話は良いからよぉ、ちっと毛布を見繕(みつくろ)ってくれや。

 まったく爺さんってのはすぐに(なげ)え話するからよう」

「だ〜か〜ら、爺さんじゃねえよッ!」


まるでとある女性芸人が『角野○造じゃねえよッ!』と

キレ気味に返す場面のようだ。なんだか懐かしい。


「御婦人、ゲンタ君、ここはオレ達みたいな冒険者が

 よく来る店なんだ。それなりに古株なら皆、一度は

 来てるんじゃないかな」


ウォズマさんが状況を説明してくれる。


「見た所、駆け出しの冒険者のようだが…、ナジナの野郎に

 案内させるたあ中々やるじゃねえか!それに目の付け所が

 良い。食って寝る、これしか体を休ませる方法は()え。

 これを(おろそ)かにする奴は何事も続かねえ、

 よし、俺が念入りに見てやらあ!」


「ちょっと待ってくれ!使うのは兄ちゃんじゃねえ。

 そっちの婆さんへの孫からの贈物(プレゼント)って奴だ」


「何っ?贈物をウチでか?」


「実は婆さんの家が火事で焼けてな、まだこの時期の夜は

 冷えるだろ?だからせめて体を冷やさねえようにと

 毛布を探してるんだぜ」


「それで毛布をか…」


「ああ、だが今の時期は毛布ってのは(たけ)えんだろう?

 だがよう、爺さんの店は冒険者(オレたち)御用達(ごようたし)だ。

 逆に俺達冒険者は、冬場に夜営なんてしたくはないからな。

 するにしても、それなりに古株(ベテラン)じゃなきゃ魔物より先に

 寒さでおっ()んじまう。だから、この時期は毛布が

 売れ(にく)いんじゃないかと思ったんだよ」


「…その通りだ。町の売れ筋と冒険者の売れ筋は微妙に違う。

 特に、暑さ寒さや水弾(みずはじ)き、耐久性は大事(でえじ)だな」


「それともう一つ。嵩張(かさば)らない事もな。俺達は

 荷物担いで動くからな、荷物が(デカ)くて鈍間(ノロマ)になっちゃ

 話にならねえ。だが、ここの毛布は一回り(ちい)せえ…。

 荷運びしやすくする為にな。だが、それが良い!」


「えっ!?」思わず僕は聞き返す。


「その小ささが良い!見ての通り婆さんの体は小せえ。

 だから、下手に(でけ)え毛布より収納しやすい(ちい)せえ

 方が良いんじゃねえかと思ったのよォ」


ニヤリ、ナジナさんがドヤ顔を決めて笑う。


「だ、旦那ぁ…」

「相棒ッ!」


()え訳が()えよなあ?爺さん、アンタ目利きで鳴らした

 商人(あきんど)だ。有るんだろ、俺達を唸らせるような良い(モン)がよう」

 

「安い言葉で挑発(あお)るんじゃねえぞ!こんの、バカチンがぁ!

 だが、気に入ったァ!泣かせるじゃねえか、孫が寒さに震える

 婆さんに買ってやろうってか!最近の(わけ)えのにしちゃあ

 気持ちの良い話じゃねえか!おい、ナジナ!よく連れて来た!

 こんな酒が美味くなるような話に一枚噛ませるなんてヨォ!」


「へっ!爺さんならそう言ってくれると思ったぜ!」


「生意気言ってんじゃねえぞ、青二才(あおにさい)がよう。

 良いか!ちぃ〜っとばかし待ってろ!帰るんじゃねえぞ?

 本当(ホント)の毛布ってヤツ、拝ましてやっからよう!」


お爺さんが中に戻っていく。


「おい、爺さん。仕舞い込んだ(モン)を取り出すなら

 手伝ってやるぜ」

ナジナさんが後を追いかける。


「だから、爺さんじゃねえよっ」


店の奥から今日三回目になる爺さん呼ばわりへの抗議の声が

上がった。



「あの御店主は地妖精(ノーム)族の方でね、大地の賢人の異名は

 伊達(ダテ)ではなく、特に目利きは右に出る者はいない。

 もっとも、地妖精族は物静かで隠者のように暮らすと

 言われているが、彼はどうやら違うらしいけどね」


ウォズマさんが先程のお爺さんの事を教えてくれた。


「ちなみにあのお爺さんのお名前は…?」


僕の問いかけにウォズマさんは首を横に振った。

どうやら知らないらしい。

そうこうしてるうちに毛布を持って二人が戻ってきた。


「さあ、見てくれ。この毛布を」


そう言うとお爺さんは一枚の毛布を広げた。やや黒みもある

灰色の毛布だった。ただ、毛布と言うより四角い毛皮の様にも

思える。手で触れてみると、中々に柔らかく暖かい。

マオンさんにも触れてもらい、体にも当ててみると

体の小さなマオンさんが使うには丁度良い感じがした。


「柔らかくて肌触りも良いね。でも、羊毛(ウール)じゃなさそうだ。

 これは何の毛なんだい?」


「聞いて驚いちゃいけねえよ、婆さん。こりゃあ狼の腹回りの

 毛を使った毛布なんだ」


「ふえっ!狼の…。そんな毛布なんて聞いた事がないよ」


「そうだろう、そうだろう。だがなァ、婆さんよ。

 触ってみてどうだった?柔らかく暖かかっただろう」


「あ、ああ。そうだねえ」


「狼ってなあ、俺達みたいに背中を地べたに着けて寝ねえんだ。

 腹這(はらば)いでなあ…、腹這いで寝るんだぜ。

 腹這いで寝てりゃ、いざって時にすぐに駆け出せるからな。

 そうなるとそれなりに長い時間、冷たい地べたに腹を着けて

 寝る事になる。地べたってのは冷てえ、寝てみりゃ

 分かるがどんどん体温を奪われるんだぜ。

 それに、腹ってなァ中身は心臓(しんのぞう)をはじめとして、

 内臓(ハラワタ)が詰まってる(モン)だ。

 当然、冷やす訳にはいかねえよなァ」


「だから、この毛布は暖かいって訳かい」


「ああ、しかも屋根や壁のある所で飼ってる羊と違って、

 山だ森だで生きてるのが狼だからよ、羊毛(ウール)より

 水にも汚れにも(つえ)えときたもんだ!

 どうだ?婆さん、使ってみる気はねえか?」


「そ、そりゃあ良さそうだがねえ…」


「値段を気にしてるのかい、だが安心しな。羊毛(ウール)より

 安く作れるんだぜ。なんたって手間を減らしたんだ。

 一目見て分かるだろう?毛皮を貼り合わせてるんだぜ。

 羊毛じゃ一度糸にして編んで作らなきゃならねえ、

 手間減らして安くしたんだ。だからなんと銀一と銀片六だ」


日本円にして約一万六千円くらいか…。

先程よりもだいぶ安いな。


「どうでしょう、マオンさん。この毛布では?

 ぜひ贈らせて下さい」

 

僕はそう申し出た。


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― 新着の感想 ―
[一言] 不織布(フェルト)かと思ったら毛皮でしたか まぁ冒険者の使うものなら外套(マント)もありますが・・・
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