第311話 恋のイベント、始めます。
元ネタ分かる方…。アナタも好きですねえ…。
嫌いじゃないです(笑)。
フィロスさんの塔を訪ねた日から五日が過ぎた。
今、僕は町の広場にいる。また商業ギルドから冒険者ギルドを通じて広場を借りてもらった。そして今に至る。
夕暮れ時、仕事終わりの時刻。仕事を終えた人がだんだんと集まってくる。今までは老若男女問わず集まってきていたが、今回は若い人が多い。それもその筈、今回のテーマは『恋』である。広場の隅では屋台を出し、焼酎とツマミになる料理を売る。こちらはすでに大好評だ。
このイベントの為に少しばかりの準備や宣伝をした、どうやらそれが功を奏したようだ。人が集まらず盛り上がらなければ意味がない。僕はこの今日のイベントで恋愛というものに一石を投じるつもりでいる。同時に商売として成立させられれば…。
そしてもう一つ、屋台を…酒やツマミを単に売るだけなら恋をテーマにしなくても良い。だけど、今夜は一番大事な目的がある。それはフィロスさんに一つの恋のスタイルを見せる事、そして町全体の恋のスタイルとして定着させる事だ。
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「紳士淑女!!ようこそ、よく来てくれたね!今夜、みんなを案内するのは新たな恋のスタイルを提案する坊やこと商人ゲンタと…」
「辻売マオンがやってやろうじゃないのさ!」
折り畳み式の演台に乗り僕たちは声を張り上げた。
うおおおお!
きゃああああ!
多少の酒が入り、盛り上がる観衆。
「みんな、恋をしているかい?良いよねえ、恋って!だけどさ、良いなと思っても何も言えずに相手が通り過ぎてしまった…なんて事はない?」
「何言ってんだい!儂の若い時なんざ男たちが列を作ったもんさ!美人と話そう、順番待ちってね。…ちょっとアンタ!」
僕はマオンさんから目を逸らし、わざと遅れ気味に返事をした。
「…え」
「なんで目を逸らすんだいッ!」
「いや…、ねえ?」
僕は観衆の方に問いかけるようにそう言った。たちまち観衆から笑いが起こる。
「アンタたちも笑ってんじゃないよっ!」
さらに笑いが大きくなった。ツカミはバッチリだ。
「さて、今日の主役はお酒でもツマミでもありません!男性五人、女性五人、いずれ劣らぬ美男美女!この五日の間に我こそはと名乗りを上げた恋を求めし勇者たち!」
「その十人が飲み食いしながら話をして、しばらくしたら男女全員整列、男が順番に意中の相手に右手を差し出しながら声をかける。告白だ、一世一代の殺し文句を頼むよ!だけど、もし同じ相手に思いをよせている男がいたならその時はこう言っておくれ!」
「ちょっとまったァ!」
そう言って僕は挙手するかのように手を上げた。
「ま、こういうことだよ。そしたら後の男も出てきて告白だ!」
「とりあえず、細かい事は置いといて始めましょうかね」
「そうだね、ではこれから参加者たちを呼ぶよ。見てるみんなはそんな男女十人の様子を肴に一杯やっとくれ!だって好きだろう?他人の色恋沙汰ってねえ」
「では男女十人、集まれぇ!」
イベントが始まった。
□
「さァ、始まりました!第一回ゲンタん紅鮒団。まずは静かな滑り出し….」
「ああ、まずは無難に自己紹介だね。でも、ここでしっかり自分を見て覚えてもらうのが大事さ。辻売と一緒だね」
舞台の中心は僕たちが前節を行った演台から移り、広場の一角へ。そこにこれまた大きな折り畳み式のテーブルがあり、その上にはちょっとした料理と酒などの飲み物がある。
「す、すげえ美味そうな料理だ…」
「あ、ああ…。あれだけで銀貨が数枚(日本円にして数万円)…、いや下手したら金貨超え(日本円で十万円以上)するんじゃねえか…?」
町の人々の平均的な生活費は月に一つの家庭で十万円ほどである。そこから換算すればだいたい二十万円から三十万円…、一人アタマ二万円から三万円の飲食をしながら出会いの場に座る事が出来ているという感じだろうか…、ちなみに参加者はこのテーブルの料理は無料である。
「いやー、五日前に町に告知を出させていただいたものの人数が集まるかちょっと不安だったんですよねー」
「ああ。だけどこうして我こそはと名乗り出てくれたんだ。ありがたい事だねえ」
「ちなみに参加者の皆さんは事前告知の通り、テーブル上の飲食物はタダ!思う存分楽しんで下さいね!」
会場から『おお!』と歓声が上がった、やっぱり本当だったんだと。ちなみに僕たちの話し声はエルフパーティにより風の精霊魔法で会場全体の人の耳に届くようになっている。
「勘定を気にしてたら料理も目の前の美人も楽しめないからねえ…。あと、参加してくれた人にはお土産もあるんだって聞いたよ?」
「ええ、異国から…それこそ海を越えてやってきた皆さんのほとんど知らない舶来物です。ちなみに中身は甘味とだけ言っておきましょう」
会場から『ええっ!?』とか『ウソー!』とか声が上がった。会場の演出をしてくれているエルフパーティも警備をしてくれている有志の冒険者たちにも秘密にしていたので目を丸くして僕の方を見ている。その中には焼酎片手に男女十人を見ていたフィロスさんもいた。残念ながら彼女はイベントには参加しておらず見学組だ。誘ってはみたのだが、
「な、何を話したりしたら良いか…わ、分からなくて怖い…。い、いつ結婚するとか日取りを決めたら良いのッ?」
怖がっているのか、最大限の攻めの姿勢なのかなんだか危ういモノを心に抱えていそうなので今回はやはり見学組だ。とりあえず彼女はそのままにしておいて冒険者の皆さんへの対応をしよう。
「ああ、このイベントを手伝ってくれている冒険者有志の皆さん方には後で飲み食いとお土産を追加報酬でお出しします。その代わり今はしっかり警備して下さいね!」
歓声が上がった。一番野太い声は…間違いない、ナジナさんだろう。
「あっ!若者たちを見ておくれよ!何やら動きがあったようだよ!?」
「さっそくお伝えしましょう!実況は私、商人ゲンタと…」
「解説マオンでお届けするよ!さあ、さっそく始めるよ!せーのっ!!」
「「ゲンタ〜〜〜んッ、確認ッッッ!!!!」」
僕とマオンさんは右手の親指と人差し指をL字型になるように立て右目の横でキメのポーズをした。