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第30話 異世界情報通信網&薬草は加工が不可欠です。〜効き目の無い薬の使い方〜

ミアリスさんが納品した薬草の品質の鑑定と計量が無事に

終わった。受付で代金を受け取り、ミアリスさんはこれから

教会に戻るという。

一方、受付ではシルフィさん達が小さな紙片(しへん)を用意していた。

マニィさんがそれを持ってギルドの裏手へと消えた。


「よしっ!兄ちゃん、婆さんも準備は良いか?

 そろそろ行くとしようぜ」


ナジナさんの声に僕たちも首肯(うなず)き、ミアリスさんも

一緒に立ち上がる。受付に寄り、今日のお礼と明日も

よろしくお願いしますと一声かける。

余程フルーツサンドが気に入ったのかフェミさんが笑顔で

手を振って見送ってくれた。


ギルドの裏手に消えたマニィさんは何をしているのか気になったので、裏口からお(いとま)させていただく。

皆で裏口から出てみたら、マニィさんがいた。

慣れた手つきで手に取った先程の紙片を鳥の脚に結び付け、

次々と空に飛ばしていく。伝書鳩(でんしょばと)みたいな感じだろうか?

しかし鳩にしては体に丸みがなく、鋭角的にすら見えるが…。


「ん?ゲンタのダンナは矢鳩(やばと)を実際に見るのは初めてかい?」


紙片を鳥に(ゆわ)えながらマニィさんが()うてきた。


「え、あ、はい。初めて見ました」


その間にもまた一匹飛びたっていく。その様子は、僕ら日本人が

駅前などにいる鳩が飛び立つものとは明らかに違う。

僕らが普段目にしている鳩が飛び立つ様子は、脚で一度地面なり

木の枝なりを踏み込んでから飛ぶ。そして、少し上方へと

身を浮かぶように…浮揚させてから望む方向へと飛ぶ。

言い換えれば飛んでいく為に、一瞬ふわりと身を浮かばせる為の

『予備動作』が必要になってくる。


しかし、この『矢鳩』にはそれがない。瞬時に高速で空に舞う。

その軌道は野球でノーバウンドの本塁送球(バックホーム)をする強肩の外野手の

それであり、低い弾道で飛ぶ大砲(キャノン)(ごと)し。

きっとこの矢鳩を受け取る側の方では『矢鳩が飛んで来た』と

言うよりは『矢鳩が着弾した』と言うような感覚を持つに

違いない…、そんか風に思うのだった。


マニィさんによると矢鳩というのはとにかく飛ぶのが

速いという。しかし、持久力(スタミナ)はあまり無く長距離を

飛ぶのは苦手らしい。いわゆる短距離走者(スプリンター)タイプなのだろう。

だからこそ、町の中でのやり取りで『とにかく早く』情報伝達を

したい時…、今回はミアリスさんが採取してきた新鮮で

魔力も多く含有している良質な薬草がギルドに納品された事を

ただちに薬師(くすし)などの医療関係者や薬種(やくし)問屋などに知らせる為に

矢鳩の脚に紙片を結えて飛ばしたのである。


鉱石など例外もあるが、薬効を持つ(きのこ)や草木、

あるいは動物の内臓…例えば熊の肝などは当然ながら

だんだんと腐っていく。

ゆえに採取してきたらなるべく時を置かず適切な処理を

する必要がある。そうしなければいかに貴重な薬草であろうと

ただの生ゴミになってしまう。

また、腐る程の時間が経たなくてもその処理は早い方が良い。

時間が経てば経つほど薬効成分は失われていくのだから。

例えれば、長時間放置してしまった炭酸飲料のような物だ、

風味が変わって美味しくないし炭酸による爽快感も失う。

だからこそ、(はや)く知らせるのだろう。


「良い物は、より早く…ってね」

最後の矢鳩を放ちながら、マニィさんが言う。

「お得意さんにはすぐに知らせる、買われた後じゃ

 売りようがないがないからなぁ。ゲンタのダンナ、

 朝市には行った事あるかい?」


漁港がある観光地なんかで(もよお)される事があるというのは

聞いた事があるけど行った経験はないので首を振ると、

マニィさんは鳩舎(きゅうしゃ)(鳩を飼育する小屋)の扉を閉めながら、


「ああいうのはすこしばかり早い朝くらいに行ったんじゃ

 ダメなんだぜ。夜も明けきらぬ暗いうちに…ぐらいじゃないと。

 良い物は、より早く。後になって行ったんじゃ、もうそれは

 残り(モン)さ。目利きが吟味して手出しされ無かった(モン)が残る。

 早いに越した事はない。だから、『良い物は、より早く』さ』


最後にこちらを向いてニッと笑う。


「それが分かっているんだから、マニィ嬢は良いお嫁さんに

 なりそうだね」


と、妻帯者のウォズマさん。


「よっ、よめっ!?バッ、バカな事言わないでくれよっ!

 ウォズマのダンナ!オ、オレが嫁とかさ…」


恥ずかしいのかマニィさんの語尾の方の声が小さくなっていく。


「いや、嬢ちゃん。大事な事じゃよ。

 良い物を選ぶ、いついかなる時と場合でもね」


マオンさんは優しくそう言った。



マニィさんと別れ、ギルドを辞した僕たちは商業地区に向かって

歩いていた。空になりすっかり軽くなった背負い籠を担ぐ

ミアリスさんもいる。


「それにしても初めて知ったよ、納品された薬草が

 あのようにして取り引きされる事があるとは…」


「俺達には何かと必須の品だからな。傷薬ってなあ。

 それを知れたのも何かの縁って奴だな」


ベテラン冒険者でも知らない事実があったのだろう。

二人が感心したように言う。


「しかし、矢鳩ですか?凄い速さで連絡するんですね。

 やはり良い品は確実に買って確保しておきたいって

 事なんでしょうね」


僕が二人の言葉を受けて感想を言うと、ミアリスさんが


「それもありますが、すぐに下処理に移る為だそうです」


「下処理?」


「はい。聞いた話ですけど、熱心な薬草師や薬師の方は

 それこそ()れたばかりの薬草をすぐにでも下処理したいと

 考えてるんだそうです」


へええ…、それは仕事熱心というか…。


「そりゃあ随分と(せわし)ない(こっ)たな、薬師(くすし)ってなあ。

 随分とせっかちな職人気質(しょくにんかたぎ)の親父みたいだぜ」


僕の抱いた感想とか疑問をナジナさんがそのまま口にする。


「薬草は()ってから放置していると、だんだんと成分が

 抜けていってしまうんです。それに水気を含んだままだと

 腐ったりカビが生えたりするんで天日と風で乾燥させたり、

 熱を加える下処理をして効き目がある成分を逃さないように

 するんだそうです。それを生薬(しょうやく)と言い、長期の保存ができます。

 生薬をすり潰して粉にしたりすると…、皆さんがおなじみの

 薬になる訳ですね」


「ああ、なるほど。だから薬師(くすし)やその問屋の棚には

 干からびた薬草や木の根っこみたいな物が置いてあるんだね」


きっと異世界のよくある光景なのだろう。マオンさんの言葉に

僕は日本の漢方薬を扱う店の硝子(ガラス)瓶に入ったなんらかの

薬の材料になるであろう植物の姿を思い出す。


「あとは新鮮な薬草は乾燥させて小さく硬くなった物より

 切ったりするのが楽ですので…。今日採ってきた

 月夜草はそのままでも効果が有るには有りますが、

 部位によっては効果が薄かったり、無いに等しい事も

 あるんです。そこで効果があまり無い葉脈(ようみゃく)や茎の部分を

 取り除いて残った柔らかい葉っぱの部分を干しておくんです。

 そうする事でより効き目のある良い薬が出来るんだって…」


「じゃあ、その()りすぐりの葉っぱから作られた薬は

 まさに良薬(りょうやく)という訳なんですね。

 でも、取り除かれた茎とかはどうなるんだろう…?」

気になった事を僕はミアリスさんに聞いてみた。


「それも捨てたりはしないですよ。例えば薬草茶(ハーブティー)にして飲んだり、

 あと、薬師の方はそれを干した物を粉にして無効薬(むこうやく)として

 使う…、なんて聞いた事があります」


「無効薬?効き目が無い薬って事か?だがよう、そんなの

 何に使うってんだ?使い道なんか無いと思うけどよう…」


「効果がほとんど無いのを逆手に取って、少しの量で効果が

 出てしまう薬に混ぜて量を増やし丸薬にするとかって

 聞いた事がありますね」


なるほど…。例えば砂粒ぐらいの大きさで、しかもそれが

二、三粒程度の量で人体に効果を発揮するような強い薬が

あるとする。そんな微量を無くさないように管理するのは

難しい。かと言って、そんな強力な効き目の薬をまるまる

一錠の丸薬にしたのを服用しては逆に体を治すどころか

壊してしまうかも知れない。


しかし、ほとんど薬効のない一見役立たずに思える無効薬を

効き過ぎる薬の混ぜ物として活用している。これは凄い事だ。

不要な物を捨てる事は誰にでも出来る。しかし、そういう物に

活路を見出(みい)だすのは簡単ではない。

僕はそれこそ貧乏性なので、こういう使い道が無さそうな物を

キッチリ使い切るような事が好きだし、考えた人を尊敬する。


「ミアリス嬢は薬草にとても詳しいんだね。もしかして

 薬師を目指して修行中…、なのかな?」


「い、いえ。私は教会で下働きをしていまして…。

 たまに怪我をした方が来られたりすると、こういった薬を

 使う事があります。薬師さんに薬草を納品して、それで

 出来た薬の一部を分けて頂くのですが、その際に薬師さんから

 薬の事をお聞きしたりするもので…」


「なるほどねえ、それで嬢ちゃんは薬にも詳しいんだね」


「聞きかじっただけですけどね」


ウォズマさんやマオンさんの言葉に、ミアリスさんは

少し恥ずかしそうにして返事を返しているのが印象的だった。




評価、ブクマ、いつもありがとうございます。

頂きますととても嬉しく励みになります。


さて、今回出てきた『無効薬』ですが、ゲーム『太閤立志伝V』に登場するアイテムです。このゲームでは、武士としての人生以外にも忍者や剣豪、商人としての立身出世を目指す事が出来ます。その中で、医師としての成功を目指す事も出来、その際には様々な薬を生産し病人を診察する事になります。

その生産した薬は、風邪薬から万病に効く薬までありますが、失敗作として何の効き目も無い無効薬が出来てしまう事があります。


しかし、これは何の役にも立たないかと言うとそうでもなく、言葉を悪く言うと仮病の人にはとても良く効くようで…。


様々な『なろう小説』でもポーションをはじめとして、いろんな薬が出てきますね。薬師や錬金術師の主人公が生産する場面がよくあります。

この小説では産物…、色々な品物にスポットを当てて、そこに登場人物に関与してもらってストーリーを書いていこうと考えています。


決して派手な英雄譚になるとは限りませんが、歴史好きな方や物作りが好きな方、そして昔の漫画作品が好きな方に喜んでもらえるような作品にしていきたいと思います。


今後ともよろしくお願いします。




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― 新着の感想 ―
[一言] このお話を読むと、改めて「優しい言葉」「綺麗な言葉」で話すことの大切さを感じます。略して意味だけ伝える話し方より相手を思い気持ちを込めて口にすること、気をつけたいですね。 あと、食レポの語…
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