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第307話 町の東へ。



「町外れと聞いてたので町の中心部から離れた所くらいに思っていましたが、実際には町の外だったんですね」


 東門を出て少し歩いた森の中、そこにフィロスさんが暮らす塔があると言う。東門から町を出て少し歩いたところから今度は森に入った。


「ええ、古代の遺跡の名残だそうで…。姉は古代語魔法の使い手ですから、その研究にも都合が良かったのでしょう」


「都合が良い?」


 セフィラさんの言葉にピンと来なかった僕は聞き返した。


「うーん、そうですね…。遺跡というのはかつてそこに建物があったという事です。それが現在まで残ってその形を完全ないし一部維持している。その中には古代の魔法の痕跡などが見つかる場合もあり、運が良ければ後世に伝わる事なく埋もれて遺失(ロスト)してしまった魔法が記された魔導書などが見つかる事もあるそうです」


「魔導書、ですか」


「ええ、そうですよ!もし、そんなものが見つかれば…、魔法を志す者にとってはそれこそ何にも替えがたい財産になると思いますよ。なにしろ他には知る者の無い秘術なのですから…。それはフィロス姉様とて例外では…、いや。…まあ、それはともかく…」


 ん?今のタシギスさんの間、気になるな…。


「町外れの塔はなんらかの原因で塔の部分だけが残っていたそうです。もっとも長い長い年月により老朽化していたそうです。それを手直しして住み始めたのがフィロス姉様という訳です」


「なるほど、そうだったんですね。他にも遺跡というのはあるんですか?」


「有名なのは王都ですかね。もっとも取り尽くされてしまってますけど…」


「取り尽くされた?」


「遺跡の建物を構築していた石材などを王城の建築資材としてしまったんですよ」


「あらま…」


「姉様もその事を残念がってましてね。それゆえ王都で活動するのを諦めたのです。丁度そんな時にたまたま立ち寄ったミーンで遺跡を発見しここを拠点としたのです」 


「そうだったんですか…」


 地球でも同じ様な事があると聞いた事がある。確か万里の長城、世界遺産でもあるそれがどんどん失われてきているという。長い年月による老朽化、そしてもう一つの大きな要因がある。


 それは近隣住民の略奪だ。用途はこの異世界の王都と同じ、建物を作ったり修繕する為に持って行ってしまうらしいのだ。


 地球でも異世界でも同じ様な事が起きている。それを考えると人間の(ごう)のようなものを感じる。そんな物思いに(ふけ)っていた時の事だ。


「ゲンタさん、ここですよ」


 そこには日本人的な感覚で言うと二階建てよりはやや低い小さな塔があった。石造りの円柱状、だけどあまり広そうには思えない。僕の住むワンルーム、床面積だけならそれよりも狭そうだ。


 ここに暮らしているんだ…。そして、塔の周りを一周してみて分かった事がある。


「入り口が…、無い?」


 そう、この塔には無機質な印象を与えるだけの無機質な石の面があるのみ。一方で出入り口には出入り口になりそうなものはなかった。これではどうやって中に入れというのだろう。僕の胸には戸惑いに似た疑問が浮かんだったのだった。




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