第306話 同行依頼と街角で。
ゴクキョウさんが置いていった金貨三枚をとりあえず受け取った翌日…。
僕は冒険者ギルドでの毎朝恒例パン販売を終え僕はマオンさんやシルフィさんたちと共に朝食を摂っていた。その時に僕への同行依頼がかかった事が話題に出たのである。
「同行…って言っても僕は戦えませんけど…」
冒険者ギルドに在籍はしているけど僕は戦闘が出来る訳ではないから護衛とかはできないし…。
「大丈夫ですよ、戦闘の必要はありません。当然、護衛の必要も…。むしろ、依頼者が戦えますからね」
「どういう事ですか、シルフィさん?」
そこに『すっ』と現れる人影。
「実は依頼をしたのは私たちなの…」
そこには明日一日、僕を護衛する予定になっているパーティ『エルフ姉弟たち』の五人がいた。その五人の末っ子格、ロヒューメさんが声をかけてきた。
□
「東の町外れにある塔へ同行して欲しい」
それがエルフの姉弟たちからの依頼であった。その塔には彼ら五人やシルフィさんと同郷で彼らが姉と呼ぶフィロスさんが住んでいると言う。そこに同行し、フィロスさんに会って話を聞いてやって欲しいという。そんな訳で現在僕はエルフ一行と町を歩いている。
しかし…、なんというか…。僕は浮いてるんじゃないだろうか。片や五人の美男美女エルフ、片や文系男子大学生。はああ…、せっかくの異世界なんだから魅力度が上がるような霊薬とかどこかに無いかなあ….。
……………。
………。
…。
ミーンを東西に横断する一番大きな道を東進する。ミーンの町はほぼ四角形をしていて、町の外周に沿って西から南へと川が流れている。その為、南には橋をかけ門を築いてある。しかし、西は門も橋も設けず柵で川の内側を囲っているのみである。
大通りを歩いていると南北を縦断する大きな通りと交差する。この町の中心地だ。その一角には商業ギルド、僕にとっては何かと因縁がある場所である。ギルドの前では馬車が数台停まっている。その中の一台は見覚えのある派手なもの。
「やっぱり趣味が悪い」
ブド・ライアー商会のものだ。どうも僕には相入れそうにない。
「あの馬車数台はずいぶんとここに留まっでいるんでしょうね。この辺りの人には迷惑な話です」
セフィラさんがうんざりした様子で言った。
「えっ?どういう事ですか?」
「ゲンタさん、馬車馬の足元ですよ」
「足元…、あっ!」
タシギスさんに言われて僕はやっと理解した。
「馬は生き物です。食べる物を食べれば…、当然出る物も…ねえ?それがずいぶんと溜まっていますから…、馬車をあの場所から動かさず待たせていると言ったんですよ。ご近所の迷惑などお構いなしでね」
そうか、ここは一等地。日本で言えば官庁のビルか、高級ブランド品店が立ち並ぶような商業地域みたいな感じだろう。そのメインストリートに汚物がこんもりとしていては周りの商店なども良い迷惑だ。
一方で僕はヒョイオ・ヒョイさんやゴクキョウさんのように様々な気配りが出来る人の素晴らしさを改めて認識する。マオンさん宅に少なくない回数の馬車による訪問があったが道端で待たせたりはせず、すぐにその場所を離れ訪問先の路上で立ち止まっているような事はない。
その辺からしてブド・ライアー商会などとは違う、こういうところからもやはり好きにはなれない。そんな風に思っているとギルドに大声を張り上げて駆け込んでいく男がいた。
「旦那様!!昨日の居場所が分かりましたぞ!冒険者ギルドッ!冒険者ギルドに大商人ゴクキョウらしき男が…」
商業ギルドの扉が閉まったので男が誰に何を伝えたのかまでは分からない。
「商業ギルドは…、ゴクキョウさんを探しているのか?」
僕の胸にはそんな疑問が浮かんだ。