第298話 もったいないの原因?
「わ、私?」
ロヒューメさんが自分を指差し唖然としている。もったいないのはロヒューメさんが原因!?ザンユウさん、それは一体…?
「バラカイ先生、どういう事かいな?こちらの嬢ちゃんがもったいないの原因みたいに聞こえるで?」
ザンユウさんにゴクキョウさんが問いかけた。おそらく誰もがそう感じていたのだろう。この話を聞いていた周囲の人全てがザンユウさんの次の言葉を聞こうと注目していた。
「その娘…、ロヒューメだったか?正確にはその娘が言った言葉に私はこの上ないもったいなさを感じるのだ」
「ロヒューメさんの…?」
「私の…、言葉?」
思わず目が合った僕とロヒューメさんは同時にそんな言葉を発していた。
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「私がこの『くりぃむしちゅー』をもったいないと感じたのはその娘が語っていた言葉だ…」
ザンユウさんが語り始める。
「こんな感じで言っていなかったか?香辛料が苦手な私たちエルフは『くりぃむしちゅー』を食べる…と」
「た、確かに…」
「この『かれー』、まさに黄金と呼ぶにふさわしい。胡椒や唐辛子ばかりに目が行くが、おそらく香辛料や香草の類を三十…いやそれ以上の種類を使っている…」
「さっ、三十以上だって!!」
「こ、胡椒だけでも高価だっていうのによ…」
ざわっ!
周囲からざわめき、どよめきが起こる。
「それらを組み合わせこれだけの味に仕上げる…。わずか一種類でも配合を誤ればたちまち全て台無しの味となるだろう。まさに古に存在したとされる霊薬を錬成出来る錬金術師の如き偉業と言えるだろう。もっともこれだけの香辛料や香草を集めるにしても一国の伝手を使っても半年…、いや一年以上を要するであろう。まあ、揃うとも思えんがな…」
す、凄い。このカレールゥのパッケージにはデカデカと『三十五種類のスパイスを独自の技術で配合』って書いてあったっけ…。ザンユウさんはそのスパイスとかの違いを見抜いているのか…。きっと口にした事のないものもあるだろうに…、なんて凄い味覚なんだ!
「一方でこちらの『くりぃむしちゅー』はどうか?」
ザンユウさんの話は続いている。
「生乳と小麦の粉を基に加熱し味を整え、焦がさずに馴染ませるのは至難の技だ。豊かな土地を例えるのに『生乳が流れる土地』と言うがこれがまさにそうだ。それだけではない、生乳上脂や醍醐さえ加えているのではないか?ただ小麦の粉を生乳で伸ばしただけでは説明のつかぬ複雑な味になっておる」
「ク、生乳上脂だって!?」
「お、王室だってなかなか食えないシロモノじゃねえのか?」
冒険者たちが騒ぐ。
「いーや、ちゃうで!」
ゴクキョウさんが否定の声を上げた。
「なかなかなんてモンやないで!北方の国でもなきゃ冬の…、それも厳冬の時期、夜明け前の時間くらいしかこの辺りじゃ作られへん!そんな凍てつくような寒さの中で真夜中から料理番が作るんや!そやなかったら生乳が腐敗んでまう!王様の腹でも下させたら…しばかれるドコの話やないで!その首、飛んでまうような罪ンなるで!」
「それだけのものが…『かれーが食べられないからくりぃむしちゅーを食べる』くらいに思われているのをもったいないと思うのだ。一国の王室の胃袋を満たすような苦労を『かれー』の代替品のように言われるのがな。白銀にも思えるこの逸品がな…」
「そ、そんな…。私…」
ザンユウさんの言葉にロヒューメさんがシュンとなる。おそらくそんなつもりはなかったのだろう。だが、そんな彼女を見ていると可哀想な気になってくる。
「待って下さい!」
「「「「ッ!!!!?」」」」
僕は思わず声を上げていた。
「少し、少しだけ時間を下さい!」
「ぬうっ?」
「ザンユウさんのそのもったいないという気持ち、僕なりに解決してみたいと思います」
「解決…だと?少しの時間でどうすると言うのだ?」
「考えるに…。僕がこの二品しか無かったのが今回の原因の一つに思います。なのでそれを解決…、いやその糸口にでもなればと思いまして…」
「どうするつもりなの?ゲンタさん」
ザンユウさんと僕のやりとりにロヒューメさんが不安げに呟いた。




