第290話 人は出会い、そして…。
酒盛りは宴となり、予想よりはるかに大きな集まりとなった。僕たちが宴をしている事を聞きつけた親しい関係にある人はこぞって皆さんやってきた。後から後から飛び入り参加が増えるような…、そんな雰囲気だった。
集まりをしている事をどこからか聞いてまずは熊獣人族の川漁師セゴドさんと魚人族の三人衆ナギウさんたちがやってきた。川に仕掛けていた罠にかかった魚やいつぞや食べた事があるジャンボサイズの田螺を手土産に。
犬獣人族の狩猟士、ラメンマさんは岩モグラと呼ばれるこれまた巨大なモグラを持ってきた。ドラム缶くらいの大きさをしたこのモグラをラメンマさんは急所である首元への飛び蹴りで仕留めたらしい。さて、その岩モグラだが土の香りが強く茸のような食味がするらしい。土の香りはドワーフ族、茸の食味はエルフ族に好まれ好みが違う二つの種族にしては珍しく両方に好まれるのだとラメンマさんにちゃっかりついてきた長老さんが教えてくれた。
日が傾き、夕闇が迫る頃には『かっぽ、かっぽ』と蹄の音が近づいてきた。大きな馬に乗り、着物のハギレをパッチワークにしたマントをはためかせた偉丈夫ジュウケイさんである。愛用の槍に仕留めたであろう森鹿をぶら下げて悠然と現れた。その森鹿だがザンユウさんが見事な調理をしてみせた。調理の際に作ったのがブルーベリーを加えたソースを作った。沸騰させない程度に熱した湯の中でじっくりと鹿肉の塊を熱した。それを薄切りにして先程のソースを合わせて食べた。食べた事のない、とても美味しいものだった。他にも猪肉の調理には蜜芋から漏れでた蜜を集め塩気を加えたものをソースに照り焼きにした。
日没後は社交場の昼のお勤めが終わった歌姫メルジーナさんが、そしてギルドの勤務が終わったシルフィさんたちがやってきた。何回目だろうか、乾杯の声が上がる。余興だろう、兎獣人族の子たちが数人ずつの小集団に分かれ踊った。続いて見事な手捌きでヒョイさんがトランプを使った手品をした。
「御婦人、あなたの選んだカードは剣の8ですね?」
「ど、どうして分かったんだい?」
マオンさんが驚きの声を上げている。その隣ではマオンさんと一緒になって驚いているナジナさんがいた。すっかり楽しんでいる。
「ははは…。おもろいなあ、おもろいなあ…」
ゴクキョウさんがすっかり気に入ったドブロクを飲み、ザンユウさんが作った鹿肉のブルーベリーソース添えを口にして満面の笑みで楽しんでいる。
「ここはホンマ凄い事やで…。老いも若きも、男も女もない。種族かてバラバラや…。でもな…」
ぐいっ。ゴクキョウさんがドブロクを飲み干し、ぷはあと息を吐いた。
「それがココではみんな一緒の顔しとるで…。楽しゅうてしゃあない…そんな顔や。その真ん中…、あんさんはそこにいるんや。みんなの笑顔の…、その真ん中にな」
「いえ…、僕は…」
「そのみんなを笑顔にするあんさんを…、ワイは欲しい思うとるんや」
「えっ?」
なんか今、僕は大事な事を言われようとしてるんじゃないだろうか…。
「単刀直入に言う、坊やことゲンタはん。…あんさんワイについてきて…、商都で商売やりまへんか?」




