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第28話 イチゴ一会(いちえ)は高価ですか?いいえ、本当は二人分で1168円(税抜)でした

なんかセリフ回しがグルメ漫画みたいになっていく(笑)

「す、すげえよ…、ゲンタのダンナ。そんな高価な物を…」


マニィさんが興奮を隠しきれないけれども、声を抑えて

そんな感想を漏らす。続けてシルフィさんが、


「マニィの驚きも無理はありません。私達エルフは

 植物由来の物は好んで食べますが、刺激の強い物には

 弱いので少量だけ頂きました。ですが、この質の良さ、

 価値は十分に感じられました」


「オレもそう思う。シルフィ嬢じゃないが凄い価値だ。

 言い換えれば川砂金(かわさきん)をそのまま口にしている様な物だ。

 ゲンタ君、あまりオレ達の為に無理をしなくて良いんだよ」


僕の(ふところ)具合を心配してかウォズマさんが声をかけてくる。

ちなみに川砂金(かわさきん)とは、川底の砂地から採取する砂金である。

日本でも鉱山技術がある程度確立するまで金を得る方法は、

主に川から採れる砂金であった。技術が確立してからも

高度な技術や人的負担のかかる鉱山開発をしなくても金を

得られる為、川砂金を求める事は(すた)れなかったという。


「大丈夫ですよ、ウォズマさん。僕は無理してはいませんよ。

 それよりお口に合ったのなら嬉しいです」


「ああ、凄かった!凄かったぜ!

 俺なんか魂抜けちまうんじゃねえかと思ったぜぇ!」

実際に呼吸がしばらく止まっていたナジナさんが興奮して

感想を述べる。あのまま声をかけられずにいたら

命が危なかったのではないだろうか?


「でも…、ゲンタさん。どうしてそんなに親切にして

 くれるんですか?言葉は悪いけど、私達は昨日今日

 知り合ったばかりですし…」

申し訳なさそうにミアリスさんが話す。


「ミアリスさん、逆に僕とマオンさんも昨日あなたに

 助けてもらいました。それこそ、出会ってすぐにね。

 だから今こうしてパンを売る事が出来たし、こうやって

 皆さんでパンを食べる事が出来たんです」


「そうだよ、ミアリス嬢ちゃん。(わし)も本当に助かった。

 辻売(つじうり)の資格は無くなる寸前、痛い目にも遭って…、

 それを助けてくれたのが嬢ちゃんさ」


「ゲンタさん、マオンさん…」


「ここにいる誰一人欠けても、今こうして美味しいと

 言いながら笑い合う事は出来ませんでした。

 それにはミアリスさんの親切も関わっているんです」


「それは俺が兄ちゃんに声をかけた事もかい?」


「はい。いきなりだったんでビックリしましたけど。

 あと、大の甘い物好きというのはもっとビックリしました」


「ははは、相棒。『顔に似合わず』、だな」


(ちげ)えねえ。…って言うか、俺の顔の(こた)ぁいいんだよ!」


どっ!と笑いに包まれた。



「さて、次はフルーツサンドです。まずは食べましょう」


女性陣、そして男性陣から約一名、ゴツい顔の方が期待で

顔が(ほころ)ぶ。それを見てやれやれと言った感じで

ウォズマさんがナジナさんの様子を見て苦笑する。


フルーツサンドを口にしてからの反応もやはり上々で、

ミアリスさんネコミミは再び出現、フェミさんは全身で

美味しさを表現している。


「これが…、(いちご)の美味しさなのですね。『じゃむパン』の

 ジャムにも風味の新鮮さを感じましたが、やはり生の

 苺は違いますね。とても鮮烈です。そして、もう一つの

 果実は食べた事のない甘さを(ともな)う酸味…、

 こんな物があったとは…」


シルフィさんはフルーツサンドをとても気に入っているようだ。

いつもクールに見えるその表情だが、今は口元に(ほのか)

微笑みを浮かべている。その彼女は苺だけでなく、具材として

共に入っていたみかんの風味にも驚いているようだ。


「いや、それだけじゃねえぜ!この白い泡みてえな奴だ!

 これまた滑らかで甘くてよう…、ふんわりって言葉が

 よく似合うぜぇ…。こりゃアレか?雲か?空に浮いてる

 雲を俺達は食っているとでも言うのかッ!?」


「甘い果物を挟むだけでなく、この白いものが果物を包み

 さらにコクを出しておる!口当たりは軽く、そして柔らかく、

 それでいて果物の(さわ)やかさを少しも損なわないよ!」


ナジナさんとマオンさんは生クリームに心惹かれたようだ。

みんなが夢中で食べたサンドイッチの試食会は、量が

少ない事を除けばこれまた大成功のようで僕個人としては

普段はクールビューティーのシルフィさんのスマイルが

見れただけでも試食をした甲斐があったなあと思った。


(すげ)えなあ、兄ちゃん!どれを取っても逸品(いっぴん)だせ!

 だかよう…、試食をねだった俺が言うのもなんだが…、

 悪い事しちまったな、こんな高い物をすまねえ」


「何を言ってるんですか、ナジナさん。

 皆さんが美味しいって言ってくれて僕は嬉しかったですよ」


「でもさ…、ゲンタのダンナ。あれはお貴族様でも

 食べられないくらい貴重なご馳走なんじゃ…、

 少なくとも聞いた事もないような美味しい物だったし…」


ナジナさんはおろか、マニィさんまでが心配そうに聞いてくる。

うーん、あんまりお金の事で心配かけるのはなあ…、

そこまで大金ではないし…。気にせず食べてもらえるような

なんか良い説得法はないものか…。そうだ!!


僕は襟を正し、座り直す。


「みなさん、聞いていただきたい事があります」



話す前に一旦仕切り直しと言う事でペットボトルの緑茶を

皆に注ぎ直す。今日、初めて緑茶を飲んだミアリスさんは

その苦味に驚いていたが、甘い物と交互に飲食する事で

緑茶の良さに気付いてもらえたようだ。


「兄ちゃんのこの『緑茶(みどりのこうちゃ)』は何度飲んでも美味(うめ)えな!」


「はい、僕も好きなものですが、このお茶を広めた人の一人が

 言った言葉があるんです。僕が皆さんに聞いてもらいたい

 言葉でもあるのですが…」


「これを広めた人物が…。どんな言葉なのでしょうか?」


シルフィさんの言葉を受け、僕は続ける。


一期一会(いちごいちえ)、僕の故郷の言葉です」


「イチゴ…、イチエ…?この甘い『イチゴ』のイチゴ…、

 ではないんだな、すまねえ」


多分、僕は『違いますよ』という雰囲気を出していたのだろう。

ナジナさんが雰囲気を読んであっさりと引く。


「『一期(いちご)』というのは、一生で一回だけという意味で、

 『一会(いちえ)』とは一度の出会いう意味です」


「つまり…、一生で一度だけの出会い…という事かな?」


ウォズマさんが僕に尋ねる。


「はい。この言葉が生まれた時代、戦乱が続いていました。

 今日会っている人が明日も生きて会えるかなんて

 分からない時代でした。(いくさ)で、流行病(はやりやまい)で、飢餓(うえ)で…」


「…俺達と似ているな」

いつになくナジナさんが真顔で…、同時に少し悲しみを帯びた

表情で(つぶや)く。冒険者として生きている彼はきっと

いくつもの死を()のあたりにしてきたのだろう。

その顔には確かな戦士としての顔があった。

無言で悲しみを語る男の顔があった。

周囲(まわり)を見ると、みんなが同じような表情だった。

立場や経験はそれぞれに違うけれど、きっとみんな同じような

経験があるのだろう。


「そこで生まれたのが一期一会(いちごいちえ)という考え方でした。

 この人と会えるのは今だけかも知れない、だから

 今出来る最高のもてなしをしようと…」


「…だから、ゲンタさんはこんなにも豪華な…」

フェミさんがおそるおそるといった様子で尋ねる。

それに僕は首を振って回答(こた)える。


「いいえ。一期一会(いちごいちえ)は決して贅沢にとか無理をしてまで

 誰でももてなさねばならないと言う意味ではありません。

 あくまでこの出会いを大切にしたいなと思えるような、

 そんな相手に巡り会った時に生涯最大の誠意を見せるような…

 そんな意味だと僕は考えています」


「大切にしたい出会い…」

(つぶや)いたミアリスさんに僕は笑顔を浮かべ首肯(うなず)いた。


「そして…、このもてなしというか、相手への態度というのは

 贅沢にするとかお金をかければ良いというものではなく、

 その時に自分が出来る精一杯をする…、汗をかくとか、

 知恵を絞るとか、あるいは何か工夫するとか…、

 相手の事を考えてする行動に意味があるんじゃないかって…、

 そう僕は思っていまして…」


「ゲンタ…」

マオンさんが僕を見ている。


「なので、皆さんには特に気にする事なくいて欲しいんです。

 例えばウォズマさん、昨日言ってましたよね、

 奥様と娘さんにもこのパンを食べさせてあげたいって」


「あ、ああ。確かに言ったが…」


「それは大切なご家族に喜んでもらいたいから…ですよね?」


「その通りだよ、ゲンタ君。特に娘は大喜びだった」


「僕も同じです。僕は決して無理をしている訳ではありません。

 そこは信用してもらうしかありませんが…。

 ウォズマさんがご家族の喜ぶ顔が見たいと思うように、

 僕も…お世話になってる大切な人に喜んでもらいたい、

 そんな気持ちだからです。確かに皆さんは昨日今日

 会ったばかりですが、僕の大切な人ですから…」

 

上手く伝わったかどうか分からないけど、僕の胸の内は伝えた。

せめて、変に気にせず食べてもらえれば良いんだけど。


「に、兄ちゃん…。お前って奴ぁ…」

僕の横に座っていたナジナさんがそんな風に言ったと思ったら…、

ガシッと音がしそうな勢いで肩を組んで来た。

そのまま強い力で引きつけられる。

「最高だぜ!その『イチゴイチエ』ってなあよう!

 兄ちゃんの心意気は()っく分かったぜえ!」

ナジナさんはそのままグイグイと僕を引きつけている。

曲げた肘の内側…、その(かいな)が僕の首筋にぴったりと

フィットしている。


「オレはどちらかと言えば、これはと思う人士(じんし)としか

 馴れ合わない面があるが…、君については相棒と同じ

 気持ちだよ。よろしくね、ゲンタ君」


よ、よろしくお願いします。ウォズマさん。

ところでナジナさんの手を…、手を…。し、締まる。


「そうだよな!へっへっへ、お前ならそう言ってくれると

 思ったぜぇ、相棒!兄ちゃんよう!まったく良い男気(おとこぎ)だぜ!!」


そ、そろそろヤバ…、ヤバいです。ナジナさん!

こ、声が…、助けを求めたいんだけど息が…。


「こうなりゃ、俺達は友達(ダチ)…、いや、(ちげ)えな!

 親友(マブ)だ、親友(マブ)!男が男に惚れたんだからな、

 こりゃあ親友(マブ)と呼ぶしかねえぜ!」


「男の友情ですぅ〜」

「くそ…、オレも男に生まれてりゃあなあ…」

フェミさん、マニィさん、た、たすけ…。

二人は僕とナジナさんの様子を微笑ましいものと思ったのか

呑気(のんき)な声をあげている。


「私達エルフ族は長い寿命を持つので、絆を深めるには同じ

 里での長い月日の積み重ねが唯一の鍵と考えられています。

 しかし、『イチゴイチエ』…ですか、人を思う気持ちは

 たとえ昨日出会ったばかりでも時を埋め、種族の壁も越え、

 互いに通じるものがあるのですね」


シルフィさんも同意してくれているようだが…、

ナジナさん、ギ、ギブ…。


「私も昨日会えた事に感謝してます、ゲンタさんのパンが

 美味しかったのもあるけど、優しいゲンタさんは素敵です」


「ゲンタ、(わし)もお前さんに会えた事を神に感謝しておるよ。

 家を失い悲嘆(ひたん)に暮れるしかなかった儂にかけてくれた

 あの時の声の優しさを…、儂は生涯忘れんよ」


マオンさん…、い、意識が…。


「それじゃあ、婆さんは長生きしねえとなあ!

 そうすりゃ(なげ)え事ゲンタの声を覚えていられるぜ!」


「言われなくとも儂はホレ!元気!元気じゃ!

 のう?ゲンタ!?……ゲンタッ!ちょいと、お前さん!

 手をお離し!ゲンタが青い顔してるじゃないのさっ!」


うう…、マオンさん。やはり気付いてくれたのは貴女(あなた)でしたか…。

でも…、どうやら僕はここまでのようで…す…。


「ゲンタ、ゲンタ!しっかりおし!」


どこか遠くなっていくマオンさんの声を聞きながら、

僕は意識を手放したのだった。

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