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第273話 次なる商材(前編)


(わり)ィな、(わけ)えの。良い物だとは思うけどよ、ウチの店では合わねえよ。そもそも客層が違うからなァ…」


 ジッパーをノームのお爺さんに販売する時、新宿の手芸用品店で仕入れてきたとある物について出た返答だ。


「うーん、何かに使えないかなと思って一緒に仕入れてみたんですけどねえ…」


「いや、悪くはねえ。むしろコイツは良いモンだ。しかしなあ、ウチは実用本位の店だ。上品だの(みやび)だのとは無縁だぜぇ…。これで服を作る…出来なくはねえよ、出来なくは…。しかしなあ、釣り合いが取れねえんだ」


……………。


………。


…。


 半刻(はんこく)(約一時間)前、商談をしていた雑貨屋さんの中でジッパー以外に被服(ひふく) に使えるものとして持ち込んだものがあった。


 しかし、お爺さんは品物自体は認めてくれたが自分の店の客層を考えると使い道が無さそうだと判断したようだ。


「ウチは冒険者、あとは職人。それと町衆が客だからな…、良い物なんだろうがそれを使った服を着るようのが…。ナジナ…、あの馬鹿みてえに実用にこだわる奴がウチに来るからな…」


「あ…」


 そうか、そうだった。もともとこのお店を紹介してくれたのはナジナさんだ。マオンさんの毛布を買おうとしたけど高くて手が出なかった。だから羊毛の毛布とはいかなかったけれど、汚れや水気に強い冒険者も使う毛布をお爺さんのお店から買ったんだ。僕はそれを失念していた。


 それと僕は日本と同じくらいの値段で買えるような感覚でいたけど、ここは化学繊維もなければ機械化された生産現場がある訳ではない異世界だ。中世ヨーロッパのような環境、そこに魔法が加わったような…。


 移動や輸送は人力を除けば陸路なら馬車、川や海なら船の出番。それ以外は人力だ。基本的には地産地消、しかし塩みたいに生きていくのに必要不可欠な物は手間暇かけて運ばれる。そうでなくても狩猟も、獲物の皮を剥いで毛皮にするのも人力だ。たくさんの工程を経れば…それだけ手間賃もかかる。毛布一枚とったってそりゃあ高くもなるはずだ。


 そんな事を考えながら雑貨屋のお爺さんとの商談の後、次に向かったのは商業地区にある社交場(サロン)に向かった。酒や人参の納品である。


 出迎えてくれたオーナーのヒョイさんにワインやウィスキー、人参などの数量を確認してもらった。あとは軽い雑談をしながら売上金をいただけば仕事が終わる。


「そう言えば聞きましたよ。新しい革の服を作り始めたんですって?」


「えっ?もうお耳に入っているんですか。まだ一着か二着売れたぐらいですが」


「ははは…。酒のある所には人が噂を持ち寄りますからな。それに工夫もされたとか…」


「あっ!それは僕ではなくて…。体に密着(フィット)するように作れそうかなとだけ言ったんです。そうしたら有翼族(フェザーフォルクス)の人が問い合わせてこられて…。それで背中にスリット(切れ目)を入れて翼を出せるようにしたりとか…」


「おお、おお、そうでしたか。聞くところによれば有翼族や狩猟士(ハンター)の方が関心を持っておられるとか…。やはり必要とする方に見出されるというのはありがたい事ですね」


「は、はい。そのようで…。あっ!」


 僕は思い切ってヒョイさんに声をかけてみる。


「あの、ヒョイさん。こんな商品にご興味はありませんか?」

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