第268話 蛇と魚とあのスープ(中編)
「それは…、何かを干したものですか?」
僕が差し出そうとしているものを見てリキィさんはそう呟いた。
「はい。僕なりに考えて用意してみました。しかし、このままでは食べません」
「え?それはどういう…」
僕は木製の少し深めの鉢のようになった皿、いわゆるスープ皿になったような食器にそれをそっとそれを入れた。マッチ箱と同じくらいの大きさのそれは黄色い色をしている。
「僕の用意したものは…」
ひゅん!ひゅんっ!僕の目の前に火精霊のホムラと水精霊のセラ、二人が飛び出した。
「こうやって食べるんです!」
二人の精霊の力により器にお湯が注がれた。
「ああっ!お、お湯を注ぐと…」
「なんとっ!熱々のスープが完成したあ〜ッ!!」
蛇獣人族のソリィさんと魚人族のナギウさんが驚いたように叫ぶ。まるでグルメ漫画のような反応とノリだ。
「さあ、試してみてくださ。これが僕なりに考えて出したリキィさんの好みに合いそうなものです。少しかき混ぜてから食べて下さい」
木製の匙を手に取ったリキィさんが僕に言われた通り皿の中をかき回した。黄色と黒の薄い膜のようなものが湯の中を踊り、同時に香りが漂い始める。
「これは海の香り…、黒い物は海藻だ」
魚人族のナギウさんたちが呟く。
「それでは…」
リキィさんが徐にスープを掬った匙を口に運んだ。
「こっ、これはっ!お、美味しいですっ!」
リキィさんが最良の反応をした。卵の時、そして海藻の時の良好な反応より良い、最良な反応だった。
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「この黄色いのは卵!卵と海藻のスープだなんて!味も良い…、って言うより食べた事がない!」
リキィさんが喜んでいる。
「た、卵と…」
「海藻だって?」
ソリィさんやナギウさんたちが思わずといった感じで声を上げた。
「はい、それは卵スープ。卵とわかめという海藻を具材にして味を整えたものです」
「たまご…スープ…」
「はい、卵スープです」
リキィさんは匙でスープを掬い上げ、その中身を見ている。
「な、なら坊や。だったら前に作ってた『ちゃわんむし』か、アレを作っても良かったんじゃないか?海藻を具にすれば…」
ソリィさんが尋ねてくる。
「確かにその方法もあるかも知れません。あまり入れない具材ですから合うかどうかは分かりませんけどね。しかし、今回に限っては卵スープを用意したのには二つ理由があるんです」
「二つの理由?」
「はい。一つは卵にも海藻にも美味しいと言っていて、ソリィさんにもナギウさんとも親しい。なのでその両方の好みの食材を組み合わせたものなら喜ぶのではないかと思って」
「た、確かに。卵と海藻、二つの組み合わせを活かした味わいだと思います」
リキィさんが頷いた。良かった、僕の予想は当たっていたようだ。
「そ、それじゃ坊や、もう一つだ。リキィに合わせたっていうのはなんなんだ?それがスープにした理由って事なのか?」
ソリィさんが聞かずにはいられないといった感じで質問してきた。
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僕は唇を湿らせる意味も兼ねて緑茶を口に運び、そして質問に返答え始めた。
「ええ。まず…、リキィさん。あなたはミーンの町を拠点にしている訳ではありませんよね。港町の方でも活動をされていると聞きましたし…」
「はい、確かにその通りです。というよりも、そちらが主な拠点です」
リキィさんが応じた。僕はそこにもう一つ質問をぶつけてみる。
「ひょっとして海の近くのご出身なのでは…?」
「ッ!!?分かるのですか?」
「カン…、ですけどね。蛇獣人族の卵、魚人族の海藻…、二つの種族の好みを両方持っていらっしゃる事から…」
「お見通し…だったんですね」
「確信は無かったですけど…」
「ゲンタ、どういう事だい?」
隣に座るマオンさんが教えてくれとばかりに尋ねてきた。
「私から答えましょう。私は広義には蛇獣人族、しかしもっと範囲を狭めて言えば…」
リキィさんに視線が集まる。
「海蛇獣人族、海の近くの集落出身です」




