第267回 蛇と魚とあのスープ(前編)
「これも良かったんですが…」
その女性は申し訳無さそうに言った。
「では…、こちらでは?」
「それも…、良かったんですけど…」
「うむむ…」
僕は考え込む。
「すいません、私の好みが…」
「いえいえ、やると言ったのは僕ですから」
さて、どうしたものだろうか…。
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先日、冒険者ギルドで早朝のパン販売を終えた僕たちはいつものように朝食を摂っていた。その時、蛇獣人族の女性冒険者ソリィさんが仲間だと連れて来たのが同じく女性冒険者のリキィさんだった。
リキィさんは港町まで遠出する依頼を終わらせ最近ミーンに戻ってきたのだという。彼女はソリィさんたちとミーンでの依頼をこなす事もあれば、港町などに依頼で向かう事もあるらしい。
そんなミーンの町にしばらくぶりに戻ってきたリキィさんにソリィさんが僕の用意していた卵を使ったパンを勧めていた。それを食べたリキィさんは確かに美味しいと言ってくれた。
しかし、なんとなくベストではなくベターといったような反応だった。絶賛というものからは程遠い、そんな印象である。
「それならこれはどうだ?」
そこに現れたのはナギウさんたち。魚人族の彼らは海藻サラダを勧めていた。僕が日本のスーパーで買ってきた水でもどすタイプの海藻サラダである。
リキィさんは海藻サラダを食べ、これまた卵を使ったパンを食べた時と同じような反応だった。
「そう言えばナギウさん、どうして海藻を勧めたんですか?」
蛇の獣人族であるリキィさんは卵を好むのは道理だが、そこに魚人族の方の好物である海藻を勧めた理由を知りたかった。
「ああ、依頼を一緒にやったりする事があるからな。それに食の好みが似ている部分もあってな。海っぺりに行く事もあるんだ」
「へええ…」
しかし…、珍しいなあ。違う獣人族の好みが似てるというのも…。でも…、あれ?もし違う獣人族なら…。
「すいません、リキィさん。明日!明日もう一度、僕の用意するものを食べてみませんか?気に入ったら是非ご贔屓に」
「え、ええ。これも十分に美味しいけど、でも、これを超えるというなら…」
リキィさんが少し戸惑ったように返答えた。
「ゲンタ。何か思いついたのかい?」
「はい。マオンさん。僕の予想が正しければ…」
リキィさんの好みを満たす物、比較的簡単に入手出来るはずだ。




