第243話 悪い子はいねえが〜?
「悪い子ォ〜……、いたあ!!」
秋田名物なまはげのような物言いをしながら僕たちの一番前に進み出たフィロスさん。対するは、僕たちの前に現れ木の棒やナイフをチラつかせ金を脅し取ろうと現れたならず者が三人。
僕やマオンさんを守ろうとしていたセフィラさんたち姉弟パーティの面々は、フィロスさんにその場所を譲り僕とマオンさんの周囲を囲んだ。サッカーのフォーメーションで言えば、フィロスさんはワントップの一番前。
しかし、大丈夫なのか?フィロスさんは魔法使いだ、そんな前に出ても…。
「大丈夫だよ、ゲンタさん」
僕の思っている事を察したのか、ロヒューメさんが呟く。
「ええ。もう決着はついてますね」
タシギスさんが応じた。それ…、本当ですか?
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「なんだあ?さっきのヤツらと違って武器も何も持ってねえぞ、コイツ?」
「良いんじゃねえの?ちょっと痛めつけてやりゃすぐにカネ出すだろ」
そう言ってならず者たちは棒を振り上げたり、ナイフを手に近づいて来ようとした。
「悪い子には〜『固定』!」
ピタリ…。ならず者たちは動きを止めた。
「な、な、なんだぁ!?」
「う、動けねえ!」
「何しやがった!?」
ならず者たちは武器とそれを持つ手がその場に縫い付けられたかのように動かす事が出来ない。ただもう片方の手や両足、悪口雑言を吐く口は残念ながら固定されていない。
「その棒や刃物をその場所に固定した。そしたらついでにその武器を掴んでいる手も固定されたと言う訳だ。もはやお前たちはそこから動く事かなわぬ、どうしても動きたいなら…」
な、なんかフィロスさん、急にカッコいい…。
「固定されたその手を自分で切り落とせ…」
フィロスさんの冷徹な声が響いた。
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「くっ!ふ、ふざけんなッ!!死ねッ!」
ならず者の一人が隠し持っていたであろうナイフを取り出し、自由が利く方の手でフィロスさんに投げつけた。
しかし、そのナイフも空中で音も無く静止する。
「まだ分からんようだな。この世のいかなる物も私を傷付ける事は出来ぬ。…ふむ、私は今…少しばかり機嫌が悪い。ゆえに憂さ晴らしに付き合ってもらおうか…」
そう言うとフィロスさんは空中で静止しているナイフに手をかざした。
「よく見ているのだな…。『石灰化』!」
するとたちまちナイフが白く石灰化していく。しかし、その事がよく分かっていないならず者たちは、
「い、石になっちまった!」
驚きを隠せずにいた。
「フフ…。石か….、まあ間違ってはいないか…。だが、この白い石には面白い特徴があってな…」
そう言いながらフィロスさんは道端の石を拾った。そしてその石をガリガリと空中に静止しているナイフに擦り付けた。石灰化したナイフは大変に脆く、たちまち白い粉がパラパラと地面に落ちる。
「脆いのだよ、このように…。雨風を受けるだけで次第に朽ちていく。それを一気にやると…『風化』!」
空中に静止中の石灰化したナイフは魔法を受け一瞬にして石灰の粉になる。それがそのまま地面に落ち小さな石灰の山を作り、白い粉塵が宙を舞った。
「このように一瞬で粉になる」
「そ、それがなんだって言うんだ!」
「早く俺たちを解放しやがれ!」
「そうだ!俺たちを離さねえと…」
「離さないと…、なんだ?」
冷たい声のフィロスさん。
「お前たちを離してやって何をする?棒や刃物をチラつかせてカネを奪うか?それともナイフを投げつけて私を殺すか?離してやったとして害にしかならぬ。生かしておく理由があるなら…話してみろ?だが、その前に…」
フィロスさんはキルリさんに声をかけた。
「キルリ、私を殺そうとしたコイツに矢を放て。頭部に向けてだ!」
その言葉を受けキルリさんは矢筒から矢を一本抜き取り、即座に魔法で飛ばした。
「ヒ、ヒイッ!!」
ならず者が声を上げた。ビタァッ!!その顔面の寸前で矢は止まった。
「お前は私にナイフを投げたな。では、私も同じ事をしても文句は無いな。『固定』の魔法を解除すれば…」
フィロスさんは魔法を一度解除する。そして再度矢を固定して止める。矢はならず者の目前に迫っていた。
「避けたければ避けても良いぞ?。ただし、この矢は風の精霊の力で射られた矢。逃げようとどこまでも追ってくる。もっとも…」
ふふ…。フィロスさんは愉快そうに笑った。
「手がその場所で固定されていては逃げられる訳もないか」
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「お、俺たちをどうする気だ?」
これほどの力の差を見せつけられてもならず者は虚勢を張ろうとする。
「さあて…な。何もしない…、というのはどうだ?」
「な、なんだと?」
「お前たちにも分かりやすいように言ってやる。そのまま、何もしないでおいてやる。命までは取らん、安心するが良い」
「ま、まあ、それなら…」
ならず者たちは安堵の表情を浮かべている者もいる。
「こいつらってバカだねー」
「ロヒューメさん?」
「アタマ悪過ぎて意味分かってないんだよ、この怖さを…」
「「「なんだとっ!!!」」」
「考えてもみなよ。命は取らないけど『このままにしておく』んだよ?そのままの姿勢で固定されたまま動けないんだよ?『解除してやる』なんて一言も言ってないし…」
「「「アッーーー!!!」」」
「ふふ、飢え死にかなー?それともカネを脅し取ろうとするのも初めてじゃないよねー、コイツら。もしかしたら恨みを買った人たちから仕返しされちゃうかなー?」
「良く出来ました」
正解、とばかりにフィロスさんがロヒューメさんの頭を撫でた。
「ふ、ふざけんじゃねえ!そんなの認められるかっ!」
「お前たちに認める認めないの権利はない。仮にカネを渡さないと最初に言ったらどうした?殺してでも奪い取ろうとしていただろう。…まあ良い。お前たちに選ばせてやろう。
そう言うとフィロスさんは男たちが持つ武器に魔法をかけた。
「武器を無力化しておかねばな…。『石膏化』!」
するとならず者たちが持つ棒やナイフが白い石に変わり始めた。
「ま、またあの脆い石に変えるつもりか!?」
「違うな…」
コンコンとフィロスさんは手に持った石で石化した武器を叩いた。
「これは石膏、いかにお前たちでも教会の中に白い像がある事は知っておるな。あの像はこの白い石で出来ている。あまりうるさく喚くようなら…お前たちをこの石膏像に変えてやろうか!!」
ならず者たちは一斉に首を振る。それを見てフィロスさんは言葉を続けた。
「よし、ではこれから先どうするか選ばせてやろう。一つ、石膏像になる。二つ、あの脆い石灰質の石像になる。三つ、このままここで手を固定されたまま生きる。さあ、選べ。ああ…、そう言えば先程ナイフを投げたお前にはこの固定している矢で頭を射抜くでも良いぞ」
うーむ。フィロスさん、怒らせちゃダメだな。多分、すごく強い人だ…。




