第210話 ゲンタ、ミーンの町に虹(!?)をかける。
久々の投稿となりました。
楽しみに待っていてくださった方、大変お待たせいたしました。
コメントに返信も出来ずごめんなさい。しかし、全部目を通しておりますし、様々なご意見を頂きありがたく思っております。
亀更新になりますがこれからも書き続けていけたらと思っております。今後ともよろしくお願いいたします。
その日、ミーンの冒険者ギルドに激震が走った。
僕が新種のジャムを披露しますとシルフィさんに伝え、人数を絞った上で招待する事にした。
シルフィさんたち受付嬢の三人に僕とマオンさんを護衛してくれているセフィラさんたち五人のエルフ。ネネトルネ商会のイブさん。甘いものが大好きなナジナさんと相棒のウォズマさん、その家族であるナタリアさんとアリスちゃん。そして特別ゲストというような感じでヒョイオ・ヒョイさんを招く。
冒険者ギルドで開いたお披露目会だが、残念ながらこの日、ギルドマスターのグライトさんは所用があって不在だった。
「で?で?兄ちゃんがわざわざ披露すると宣言したくらいだからな。きっと凄えジャムなんだろうな!前の五色のジャムも凄かったが…。俺は…フヒヒッ、今から楽しみだぜ!」
「相棒、落ちつけ…」
一目で分かるくらいウキウキしているナジナさんをウォズマさんが諫める。
「でも、楽しみだよね」
そう言っているエルフ姉弟パーティの末っ子格のロヒューメさんも嬉しそうだ。やはり果物や甘いものが好きなんだなと改めて感じる。
「儂は先に味見してみたが期待を裏切るようなものじゃないよ。それにサクヤたち精霊たちも大喜びじゃった」
その言葉にナジナさんは『おお…』と声を上げている。
では、さっそく試してもらいましょうと僕は重箱を大きくしたような蓋のついた容器を運んだ。
「では、お披露目です。雨と太陽が合わさる時、虹の橋が架かる!それを再現してみました」
僕は容器の蓋を開けた。
□
「こ、これはなんという…」
ヒョイさんがそんな感想を漏らす。僕は先日、ジャムやピーナッツクリームなどを含む五種類の物を塗ったパンを出した今回はさらに二色を足して七色にした。
「この前、ナジナさんが虹みたいなパンだって言ってましたからね。なので七種類のジャムを集めてみたんですよ」
いちご、ブルーベリー、マーマレードの既に出した事のあるジャムに加え柚子、あんず、リンゴ、梅の四種を加えた。シルフィさんによれば柚子や梅のジャムについて食べた事の無い風味だと言い、おそらくは千年を超えて生きているようなエルフ族の古老であっても口にした事は無いだろうと言い、その言葉に同じ里出身セフィラさんたちも同意見のようだ。
これを是非売って欲しいと言うのはヒョイさんとイブさん。断る理由も無いし即座に承諾する。エルフの妹弟パーティも今後の報酬について新たなジャムもラインナップに加えて欲しいと言い、ナジナさんは特に気に入ったのかリンゴのジャムに強い興味を示していた。
「しかし、こりゃすげえぜ…。なあ、姐御?エルフのジャムって何種類も果物を煮詰めて作るんだろ?でも、こんなに一つ一つ違う風味がしたら…」
「ええ…。果物一つ一つそれぞれに独自の風味があります。しかし、一つの果物には良いところもあれば当然物足りないところもあります」
シルフィさんがマニィさんの質問の後を受ける。
「そうよねえ。だから私たちエルフ族は森で採れる果物を集めてそれぞれの良いところを集めて足りないところを補い合うの。でも、このジャムは一つの果物をそのままジャムにしてる…。その一つ一つがどれも美味しい。凄い事よ!」
「おそらく出来の良い実だけを厳選しているのではないでしょうかねェ、それも酸っぱいだけの葡萄の木に突如一房だけ実を付ける神の悪戯…甘い葡萄のように。うーん、そんなジャムがあったらと思うと…。僕とした事が妙にウキウキしてきます」
ロヒューメさんは興奮気味に、タシギスさんは分析するようにそれぞれの意見を言った。他の人にもジャムは好評だったようで好意的な感想が続く。
どうやらこれらのジャムも好評だ。エルフ族の皆さんが気に入ってくれているのだから品質に自信を持って良いだろう。
「そう言えばゲンタさんはぶどうの『ぜりー』ってお菓子がありましたよねぇ。ぶどうのジャムは無いんですかぁ?」
フェミさんがほんわかとした雰囲気で何気ない様子で問いかけてくる。『えっ、あるの?』と言った様子で光精霊のサクヤがこちらを向き、そして甘い葡萄が好物のシルフィさんが座ったままの姿勢で無言だが『ずいっ』と身を前に乗り出す。
「うーん、あるのかも知れませんが入手は出来ませんでした」
「そうですか…」
シルフィさんは少し残念そうだ。
「だがよ、こないだの『ちょこくりーむ』や『ぴーなっつくりーむ』も含めたら七色どころか九色だぜ!そのどれもが美味えんだから凄い事だぜ!」
ナジナさんが絶賛する。僕としてはジャムが好評だった事は嬉しいが、やはりシルフィさんに喜んでもらいたいので探してみる事にしよう。
七種類のジャムのお披露目は成功と言えた、そして新たな販路を得た。それも高価な取引、大儲けだ。むしろジャムだけ売ろうかとさえ思ってしまう。
だが、商売はラクをしようとするとロクな事にならない。だから、明日からも変わらず汗をかいていこうと思う。
翌日、僕はイブさんとヒョイさんにジャムを販売した。イブさんは大変良い取引が出来たと喜び、早速ジャムや香辛料を持ち帰って販売する事にすると言う。
この町に来た時と同様にナジナさんとウォズマさんというこの町でも一、二を争う腕利きを護衛に王都に向かうとの事。やはりいくつもの町に店を構えている一流の商会、このあたりも抜かりはない。多少の金をケチって自分の命は勿論の事、商人にとっては命と同価値とも言える商品や所持金を危険にさらしたりはしない。
王都での商売を終わらせたらまた戻って来たいと言っていたので、再会する可能性は高いだろう。『是非、また』と町から旅立っていくイブさんたちネネトルネ商会の人たちや護衛についたナジナさんとウォズマさんを見送った。
翌日、僕が冒険者ギルドに出向いてみると、マニィさんが話しかけてきた。
イブさんらネネトルネ商会の一行が町を出てから数時間してブド・ライアーが冒険者ギルドにやってきたらしい。ネネトルネ商会が泊まっていた宿を引き払い、旅立った事を知ってやってきたらしい。
何処に向かったかと喚いていたようだが、マニィさんは知らねえよの一言で後は相手にしなかったとの事。
「なんかうっせーんだよ、あの野郎。ネネトルネ商会は我がブド・ライアー商会の香辛料を求めて来たはずなのに顔も出さずに町を出ていくなんてありえねーとか言っててよー。だからオレ言ってやったんだよ。なあ、フェミ?」
「うんうん。マニィちゃんが言ったんだよ。さすが噂に名高いブド・ライアー商会の香辛料!最近話題になった『かれー』もアンタのトコが売ろうとしたんだよな?さぞや沢山売れたんだろ、ご自慢の香辛料を使ってさあ。どれだけ売れたか聞かないけど、町衆が先を争って買うくらいならネネトルネ商会ほどの大商会ならすぐに飛んで来るよなあ?って…」
「それ言ってやったらアイツ何も言えなくなっちまってよ!終いにゃあギルドの外に停めていたブド・ライアー商会の馬車に書いてある屋号を見て町衆が騒ぎ始めて…、あの野郎逃げるように帰って行ったぜ!」
マニィさんがちょっと悪い笑みを浮かべながら話してくれた。
「うーん、じゃあカレーをまた販売しますかねえ。ナジナさんたちが帰って来る頃に大々的に」
「えっ?ゲンタさん、またカレーを作るんですかぁ?」
フェミさんが聞いてくる。
「ええ、やろうと思ってます。『元祖!ミーン冒険者ギルドのカレー』と銘打ってね。『カレーを食べられるのは冒険者ギルドだけ!』とか幟旗に記してね。それにもちろんシチューも作りますよ、シルフィさんにも食べて欲しいですから」
「ゲンタさん…」
シルフィさんが僕を見つめてくる。
「さて、その為に僕も準備を整えます。どうやってカレーを売るかの具体的な計画はこれから考えていこうと思います。でも、僕は町の事をまだまだ知らないんで皆さんにお力を借りる事が沢山あると思います。是非よろしくお願いします」
任せてくれとばかりにみんなが頷いた。ありがたい事だなあ…。そんな事をしみじみ思っていると…冒険者ギルドの扉が開いた。
「おおい、坊や!ちょっと相談に乗ってくれよ!」
入ってくる何人かの人影、そして見知った声がする。さて、どんな話だろうか…。
戦士でも魔法使いでもない僕が出来る事、冒険者ギルドの一員として実際に戦う事は出来なくても役に立つ事があるのならやってみようと思った。




